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魔王が修羅場で何が悪い!

 ギラギラと照らす炎天下、ラクダに跨っているリンカードはつばの大きな麦わら帽子を被り、サングラスを付けて服もモコモコとした長袖と長ズボン。

 一方のエイネルは相変わらずノースリーブの上着に短めのミニスカート、サングラスや帽子などの防暑用品も装着しておらず、さらに言えば今着ている服とフィンガーレスのガントレットにブーツなど軒並み黒色である。

 本来なら日中の砂漠でこんなに肌を晒していたら火傷したり下手をすると失明してしまうのだが、魔王であるエイネルにとってはこの程度の環境ではそんなことはあり得ない。

 地平線にはひたすら砂漠が続いており、砂丘を越えながらリンカードは時折コンパスを確認して方向を修正する。

 最初の頃は初めて乗るラクダに気分を高揚させていたエイネルだがさすがに何時間も同じ景色が続くと飽きて来たらしく、氷を生み出しては遠くへ放り投げて遊んでいた。

 本来水が貴重な砂漠でそんなことをしていたら馬鹿にされるだろうが、エイネルが投げている氷は魔法で生み出している物なのでリンカードも特に咎める気はない。


「ねぇリンク、さすがに飽きて来たんだけど次の街にはいつ着くの?」

「三日後ぐらいだ。『マウントデザート』はそれほど大きくないからな、南から迂回すると倍以上の時間が掛かるから嫌なんだよ」

「そもそも少し前まで草原だったのに何で急に砂漠になるんだ」

「この北には『エルメマウンテン』と『ヘルメマウンテン』って言う2つの大きな山がある。北から流れて来る風は最初にエルメマウンテンで上空に向かい冷やされ、2つの山の間に雨が降る。だが次のヘルメマウンテンを越えた空気には水分がない。全く雨が降らないんだ。雨陰砂漠って言うんだけどな」

「なるほど、そのせいでここら一帯は砂漠になってしまっているわけか。しかしリンクは意外と博識だね」

「意外は余計だろ」


 感心しながらエイネルが北を見ると確かに地平線から筍のように山の頂上がひょこっと姿を見せており、頂上は寒いのかまばらに白銀の世界が残っている。

 あの山の向こう側はきっと見渡す限り緑の世界なのだと想像するとエイネルの心は高鳴るが、今はそちらに行けないのが残念で仕方ない。


「ちなみに河もこちら側には全く流れて来ていない。故に表面上ここら一帯に水はないが、数ヶ所オアシスがある。そこまで行ったら休憩だ」

「倍近く時間が掛かるとは言え何で南から迂回しなかったの。そっちならもう少し楽しい景色が見れたかもしれないのに」

「誰かさんがアルバイトで全く金を稼がなかったせいだな。旅の路銀も2人分だ、少しでも節約しないといけない。迂回すると4倍以上金が掛かるぞ」

「あぐう……ご、ごめん」


 グリーンシュタットで大道芸や用心棒とメイドのアルバイトをしたエイネルだが、大した稼ぎもできず最終的に持って帰って来たのは2人分のお守りだけ。

 リンカードが捕まえたジャンプマンは結局20万グレスと思ったより大した金額ではなく、少し厳しく面倒臭い道程になるが金も時間もかからない砂漠横断を彼は選択した。

 何も言い返せず仰向けに倒れたエイネルは空に浮かぶ太陽を見上げるとやっぱり嬉しく感じたが、さすがにずっと直視すると眩しいので上体を起こす。

 少しは進んだかと急く気持ちが期待感を求めたが目の前には相変わらず地平線と砂丘の見事なまでのコラボレーションしか見えず、殺風景なことこの上ない。


「ああーもう無理! 何かストレス溜まる! 私は自分で歩くから少し先に行ってるよ!」


 ラクダから飛び降りたエイネルは地面に着地すると目の前を遮る砂丘を登り出し、彼女が乗っていたラクダの手綱をリンカードがしっかりと握る。


「余り大きな砂丘に近づかない方が良いぞ。いきなりの強風で砂が雪崩みたいに襲い掛かることもあるし、大型の魔物が潜んでいることもある」

「ふふん、私を誰だと思っている。魔界を支配する魔王が一角、エイネル・レヴィ・デスゲートだぞ。地上の魔物如き、いくら弱くなっているとは言え私の敵ではない」

「でも1000分の1ぐらいなんだろ、雑魚相手には良かったが強い魔物はお前の配下じゃない限り容赦無いだろう」

「そもそもこんな広い砂漠で強大な魔物に遭遇する確率なんて、本の読みたいページを一発で当てるぐらいの確率だと思うよ」

「割と高くないか、それって」


 呆れながらも止めるだけ馬鹿らしいと思ったリンカードは無理にエイネルを追うようなことはせず、ラクダの上で体力を温存しながら悠々と砂漠を進むことにする。

 滑り易い砂の上を豪快に突っ走るエイネルは少し大きめの砂丘を越え、かなり離れたところだが地平線の一部に緑色と青色の景色が若干混じっていることに気付いた。


「おーいリンク! あっちに植物と池っぽいのが見えるよ! 多分あそこがオアシスじゃないかな!?」

「蜃気楼かもしれないが、とりあえずそっちに向かってみよう。少し歩いてみて駄目なようなら再び東を目指す、余り先に進み過ぎるなよ」

「了解よ! さて、じゃあ行きますか」


 ブーツに砂が入らないよう気をつけながら、滑るようにしてエイネルは砂丘を順調に下っていく。

 砂漠では気温が高くなって来ると蜃気楼が発生し、遥か遠方の景色が見えたり巨大な湖のようなものが見えたりするが、それらは全て自然が生み出したまやかしに過ぎない。

 追いかけても追いかけても水源が遠ざかっていくため『逃げ水』と呼ばれており、遥か昔、まだ蜃気楼の存在が公ではなかった際には多くの旅人が命を落とした。

 かつてデストラから聞いた話を思い出しながらエイネルは目の前の景色が現実なのか蜃気楼なのか胸が高鳴り、魔界にはない人間界特有の現象に好奇心が溢れ出る。

 大量の魔力と瘴気による幻覚や幻聴なら魔界にもあるのだが、魔力耐性が強いエイネルには精神汚染作用による美しい幻覚の景色なんてものは見えず、ただ気持ち悪い歪みが見えるだけなのだ。

 人間界の蜃気楼は自然の摂理、そこに魔力は関係ない。


「そう言えばオアシスってどんなんなんだろ。パパは殺風景な中にある心の癒しって言ってたけど、まあ行ってみれば分かる……声?」


 消え入りそうなほど小さな声だが確かに何かの声が聞こえたエイネルは立ち止り、神経を研ぎ澄まして風の中に紛れる声の発信源を探った。

 ゆっくりと声が聞こえた方向へと歩いて行き、盛り上がっている場所をエイネルが踏んだ瞬間、足元から小さな声が聞こえ素早くしゃがみ込んで砂を掻き分ける。

 数センチほど掘り下げたところで黄色い服の一部が見え始め、腕だと思われる場所を掴んで一気に引っこ抜く。

 相手の関節が外れないよう慎重に加減をしながら助け出し、舞い散る砂が目に入りそうになったので顔を左右に振って掛かった砂を振り落とす。


「ふぅ、これでよし。お主、大丈夫か?」

「き、君は?」

「酷い声だ、喉がやられているのか。しっかりして、これを」


 相手の意識が朦朧としているため慌てて右手に氷を生み出したエイネルは男の口にそれを砕いて突っ込み、冷たい氷が男の渇いた喉を一気に冷やし潤していく。


「どうした、エイネル。そいつは?」

「砂丘の中に埋もれてたの。脱水症状みたいだからとりあえず氷食べさせたけど、何かまだ苦しそう」

「日陰で休ませた方が良いな。オアシスに急ぐぞ、あそこなら植物の影も多いだろう」

「わかった」


 先ほどまでエイネルが乗っていたラクダに男を乗せ、リンカードとエイネルは遠方に見えるオアシスを目指して歩き出す。

 率先して先頭を歩き続けるエイネルは敵方の魔物に遭遇しないように細心の注意を払いながら進み、数十分で何事も無く小さなオアシスに到着した。

 殺風景な景色の中にこんな美しい景色があることにエイネルは感動したが、今はその気持ちを押し殺して衰弱しきっている男を植物の影に横たわらせる。

 リンカードはラクダの手綱を岩に結びつけるとタオルを取り出し、湧水で濡らしてから男の額へと荒々しく押しつけた。

 冷えた水が撥ねて来たのでエイネルは気になって緩やかに溢れ出ている水に手を伸ばして触ってみると、それなりに暑い砂漠のど真ん中にある湧水だと言うのに驚くほどに冷たい。

 しかしエイネルが驚いたのは水の冷たさよりもその透明度と緩やかさ、魔界にも数ヶ所泉が湧くところはあるがどこもかしこも濁っていてまるで粘着性がないへどろ。


「それにしても、護衛も無しにこいつはこんなところで何をしてたんだ。ひょっとして視察志願者だったか? そうだとしたら悪いことをした、今のうちに適当に身包みを剥いでおくべきか」

「リンク、自称とは言え仮にも勇者がそんな追剥みたいなことするってどうなの。倫理的に」

「魔王からそんな突っ込みを受けるとは意外だったな。でもまあ良いじゃないか、砂漠で死んだら何も残らん。金品強だ……確保も勇者の仕事だ」

「いま『強奪』って言おうとしたよね? 言おうとしたよね」

「うぅ……ぐっ、ここは?」

「ッチ、目覚めやがったか。あと半時間ぐらい寝てれば良かったものを」


 男に聞こえないよう本気で舌打ち気味に悪態をついたリンカードに対してエイネルは男が目覚めたことに安堵し、すぐ傍にしゃがみ込んで目の前で手を振る。


「大丈夫か、どこか痛いとかない?」

「あ、貴方達が助けてくれたのですか。どうもありがとうございます……あっ! バ、バッグは! バッグはどこですか!?」

「アレのことか、その慌て方からしてよほど大事なものがあるようだな」


 リンカードがラクダの鞍に引っ提げているバッグを指差すと男はよろけながらも立ち上がって駆け出し、荒々しく中身を確認してから胸を撫で下ろした。

 どうやら中身の物は無事だったらしく男の表情が一気に生気を帯びて来たが、安心した反動で足の力が抜けてその場にへたれ込む。


「お前、こんなところで護衛も付けずに何をしていた。それにそのバッグ、何が入っている」

「そうだ! ここはどの辺りでしょうか!? グリーンシュタットまでどれぐら――」

「質問してるのは俺の方だ。俺はな、質問を質問で返されるのとカリフラワーはこの世で呪っても良いってぐらい嫌いなんだよ」

「だからこの前のサラダでカリフラワーだけ露骨に避けてたのか」


 グリーンシュタットに着いた日の昼食でリンカードが露骨にカリフラワーを横に退けていたことを思い出し、エイネルは溜息をつきながら呆れる。

 多少凄みを効かせながら言い放ったリンカードの圧迫感に男も少し言葉を詰まらせ、ラクダにぶら下がっているバッグを一瞥してから口を開いた。


「実はグリーンシュタットに商品を売りに行くところでした。少しでも早く届ければ値段も弾むと言うことでしたので、多少の無理を覚悟してマウントデザートを横断しようと思ったんです」

「それで結果的に死に掛けた訳か。金が大切なのは分かるが、砂漠を横断するなんて馬鹿なこと良く思い浮かんだもんだな」


 エイネルが冷めた視線でリンカードを見ていたが彼はそれを無視し、男もその言葉に反論できず俯いてしまう。


「護衛は居たんです。『カラフルデイズ』の仲介所で勇者を二人雇ったのですが、途中で強大な魔物に襲われてしまって。私は辛うじて逃げ切れたものの、恐らく勇者の方々は」

「死んだだろうな。そもそもカラフルデイズの仲介所にいる勇者なんて大半が役に立たねーよ。あそこの勇者は平和ボケした奴が多い、どうせ今回も砂漠の雑魚魔物を殺すゲーム感覚で護衛引き受けたレベルだろう。不運だったな」

「困った、護衛が居ないのではグリーンシュタットに辿り付けない……そうだ、貴方達はどちらへ向かう予定でしょうか?」

「私達はとりあえず東に向かってるよ。グリーンシュタットとは反対側かな」

「それに俺は自称勇者でこいつは……まぁ、自称勇者だ。仮に雇うとしても正規の金額で雇えるとは思わないことだな、一般料金の何倍も俺は求めるぜ」

「じ、自称勇者だと!? なんて運がないんだ私は、よりによって自称勇者に助けられてしまうなんて。まさか、金品が目当てか!」

「人の金品を勝手に強奪するほど落ちちゃいねーよ」

「リンク、魔物でもそこまでふてぶてしく嘘をつくものは居ないと思うよ」


 気絶していた男が話しを聞いていなかったのを良いことに強盗しようとした事実をあたかも最初からなかったように扱うリンカードの態度に、エイネルはもはや呆れを通り越して感心していた。

 本当に心底困ったように頭を抱える男を見たエイネルは彼に背中を向けつつ小声でリンカードに話しかけ、なぜ自称勇者がまるで盗賊同然の扱いを受けているのか聞いてみる。

 リンカードの返答は至極簡単、以前にも彼は説明していたが勇者は今の時代英雄的扱いを受けるものではなく、正式な職業になっているらしい。

 カルティナ王国直属の国家機関『ヒーローズ』が実施している筆記試験と実技試験に合格し、さらにしっかりとした納金を行っているものだけが現代では正式に勇者を名乗ることができるシステムだ。

 勿論どちらかの試験に合格できなかったりそもそも試験を受けていないのに勇者を名乗るとするなら『自称勇者』になり、『正統勇者』と『自称勇者』の信頼度はまさに雲泥の差。

 依頼料金や行動範囲など違いは色々あるが、自称勇者はプータローか暴れたいだけの輩がなることが非常に多い。

 最大の違いは正統勇者は依頼主を裏切ることを許されず、もし違反してしまえばライセンスの没収すらあり得るのに対し、自称勇者の多くは自分が危なくなったら依頼前の約束など簡単に反故にして逃げる。

 要するに忠誠心の差があり過ぎる上に、不確定要素が多過ぎる自称勇者は商人にとって金だけ奪って行く盗賊と大して変わらないのだ。


「困ってるみたいだけど、リンクは助ける気がないの?」

「無いな。俺にだって予定はある、態々引き返してまで安い賃金で働くつもりはない。それにまだもう一つ、こいつから聞いていないことがある。場合によっては連れて行ってやらんことも無い」


 頭を抱えて困り果てている男の前にリンカードが近づくと彼もそれに気づいたらしく頭を上げ、その瞬間リンカードの大剣が鼻先すれすれを掠めて地面に突き刺さった。

 何が起きたのか瞬時には理解できなかった男だがそれが剣であると分かると悲鳴を上げて後ろに倒れ込み、必死に逃げるが後方の岩に背中をぶつけて蹲る。


「リンク! 何して――」

「お前が運んでいた商品、アレは何だ? おっとその前にお前、名前を言え」

「シャイル・ヤーロッドだ! た、頼むから殺すことだけは」

「しねーよ、俺を殺人鬼と一緒にするな。だがお前の荷物は確認させてもらおうか。大凡見当はついてるんだけどな」

「や、止めてくげへぇ!?」


 立ち上がったリンカードの足にしがみつこうとしたシャイルを膝で迎撃し、強烈に撃ちつけられた鼻を抑えている彼の顔は血で赤色に染まった。


「カルティナ王国は最近魔物の売買をする商人への刑罰を強めた。当然だ、強大な戦力になりえる魔物が個人の手に渡れば治安は一気に乱れかねない」

「魔物の売買って、その話しは本当なの!?」

「いくら売値が安くなり通行に関税が掛かるとは言え、通常の商人なら南に遠回りしてでも安全な道を選ぶ。しなかった理由は明白、商品を検査されたら困るからだ。カラフルデイズの仲介所で雇った勇者も、半端者だから物をチェックされないと踏んでの判断だろうな」

「じゃあ、そのバッグの中には魔物が入っているってこと? でも、魔物が入っていたらさすがに私が気付くけど」

「止めろ! 触るんじゃないこの勇者崩れふぼぉ!?」


 後ろから再びしがみつこうとしたシャイルに今度は容赦のない回し蹴りが鳩尾を直撃し、少し離れた場所に吹き飛ばされた彼は悶絶してその場で激しく痙攣する。

 いくらなんでもやり過ぎではないかと思っていたエイネルだが、リンカードの迷いのなさに間違っているのは自分なのではないかと思わずにはいられない。


「何も魔物が全て生体として顕現しているわけじゃない。結構長いこと旅をしてたからな、最近は減ったが昔はよく見たもんだ」

「や、やめ……てく……」

「生きた魔物は気性が荒くて欠陥……おっと、誤解するなエイネル、商品としてはって意味だ。だが魔物が生まれる際、極稀にだが体の形成に失敗することがある。すると魔物は魔力の塊になってしまう」

「リンク、もしかしてそのバッグの中……」

「気付いたようだな。魔物なのに安全に持ち運べ、高価で取引され、なおかつ検査に引っ掛かる。そして恐らくこいつを襲った魔物は、『こいつ』と同類のタイプ」


 バッグを漁るリンカードは目的の物をすぐに見つけ、取り出された彼の手に握られていたのは拳大の白い石。


「そう、『魔石』だ」

「止めろ! 出すな! や、奴が来る!」


 シャイルが叫んだその直後、大地を下から揺るがすような激しい揺れがエイネル達を襲い、二人は直ぐに腰を落として倒れないようにその場へしゃがみ込む。

 少し離れた場所の地面が強烈に盛り上がるとその先端から巨大な砂の塊が発射され、腹を抱えて倒れていたシャイルを狙うが紙一重でエイネルの放った斬撃が大砲の弾のような攻撃を斬り裂いた。

 その攻撃は今のエイネルにとっては非常に強烈に感じられ、難無く斬れると思っていたにも拘らず両手が激しい衝撃に僅かに麻痺する。

 立て続けに二発同じ攻撃が放たれるが一発は全く見当違いの方向に飛んで行き、もう一発はリンカードに迫るが間一髪で何とか彼も攻撃を回避。

 代わりに一頭のラクダに砂の塊が直撃し、断末魔を聞くことすらなく押しつぶされて圧死した。


「畜生! 死ぬかと思ったじゃねーか!」

「出やがった! に、逃げよう! 魔石をバッグにしまってくれ! アレは魔力を遮断する物体で出来ていて――」

「あー駄目だな、今しがた野郎の攻撃で壊れちまったよ。諦めろ」

「なぁ!?……し、死んだ。はは、私達はもう死んだ。アレに遭遇したらお終いなんだ」

「言っておくが俺は死ぬ気はないぞ。だが逃げられる相手でもなさそうだ、覚悟を決めるとしよう。エイネル、お前はどうする」

「あの気配はヘルエデンの配下か。サンドドラゴン、強大な魔物だけど大丈夫。フレイムドラゴンとかだったらヤバかったけど、私はあれと相性が良い。だけど今の私一人じゃ厳しい、だからリンク……一緒に戦ってくれる?」


 盛り上がった巨大な砂を崩しながら現れたのは全長20メートルはあろうかと言う程の巨大な砂の竜で、エイネルやリンカードを一飲みしてしまいそうなほどに大きい。

 エイネルは髪留めを外すと長く綺麗な髪が靡き、髪の間に入った砂を払い落してから再び髪をポニーテールに結び直して気合を入れ直す。


「俺も死にたくはないからな。とは言え、魔王が魔物相手に修羅場ってのはどうなんだか」

「旅に出るときから危険は覚悟してた。それに、魔王が修羅場で何が悪い!」


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