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魔王がファンで何が悪い!



 ライブが始まると同時に大量の人間が広場に流れ込み、ソフィア達がステージの上に立って挨拶をするとさらに激しい熱気が全体を包み込んだ。

 滞りなくスタートしたライブはエイネルが想像していた以上の盛り上げりを見せるが、先日同様ただその活気に感動している場合ではない。

 今この瞬間にもソフィア達を狙っているであろう人物がこの会場のどこか、さらに言えばステージや舞台セットの内部にいるかと思うと何故だかどうしようもなく不安になる。

 リンカードは怪しい人物がいないかどうか舞台の周りを見廻っており、エイネルは視力と聴力が素晴らしいためソフィアの周りを常に警戒するようリンカードに言われた。

 朝から始まったらライブは太陽が昇るにつれて歌の勢いも観客の勢いも増していき、演目を一つ消化したソフィア達が慌ただしく舞台裏に戻って来る。


「次の衣装用意されてます! すぐに着替えて下さい!」

「赤照明一つ壊れたぞ! 代わり持って来い!」

「さっき確認したけど次の曲がパンフレットの演目に書かれてなかったぞ、そのままやっても良いのかこれ?」

「そんなことどうでも良いから代わりの照明持って来いって!」


 慌ただし過ぎる人の動きにただ日陰で座っているだけの手持ち無沙汰なエイネルは暇を持て余していたが、こう言う裏方作業は第三者が手を貸しても大抵は逆に作業効率が落ちてしまうものだ。

 この妙に人が入り混じっている時こそ何か仕掛けを施したりする者が居ないかエイネルは目を見張らせ、聴力もできる限り全力で音を拾うがこれだけ雑音が多いとどれが何の音が良く分からない。


「こんな人が多いと、さすがに何の音を聞き取れば良いのか分からないよ。はぁ、私もリンクと一緒に見廻りしたい」

「残念だが見廻りも別に楽しいわけじゃないぞ」

「あ、おかえりリンク。略しておかえリンク」

「次言ったら張り倒す。確認するが、部外者が入って来た感じはないな」

「うん、耳と目で舞台裏までなるべく探ってるけど特に怪しい出入りはないね。それにしても、何も無いのは良いことだけど逆にちょっと不安になるね」


 足をぶらぶらさせて天井を見上げるエイネルに対して、見廻り中特に何も異常を見つけることが出来なかったリンカードは慌ただしく動き回るスタッフやソフィア達を横目で見る。

 会場の周りを色々見て回ったが怪しい仕掛けが施されている様子もなければ怪しい行動をしている人物もおらず、観客の会場入り前から事前にワイヤーがセットされていたことを考えればやはり部外者の線は考え辛い。

 そうなると当然のことながら必然的に内部的な犯行になるのだが、スタッフだけでも数十人、さらに警備員や『SaY HellO』らを含めたらもう少し増える。

 問題はそれだけではなく脅迫して来た者がエイネルやリンカード達の存在を危ういと判断し、今日のライブでは何もせずに彼らがいなくなってから万全の状態で再び活動をするかもしれない点だ。

 相応の依頼料をもらっているのだからリンカードとしても何も出来ず素通りしてソフィアが怪我をするのは癪だし、エイネルとしては友達になった以上彼女を傷つける相手を黙って逃がすわけにはいかない。


「ソフィア達は今日ライブをしたら首都『カルティネリア』に向かう予定だからな、目が届かなくなる前に決着はつけたいところだ」

「何であんなに頑張って歌ってるのに、ソフィアのことを恨む人なんているんだろ。別にソフィアが悪いことしたわけじゃないのに」

「大した理由なんて無いのかもしれないな。単純に気に入らないとか、もしかしたら商売敵だとか、色々理由は考えられるが今回の場合は前者に近いだろう」

「どうして?」

「さっきのワイヤーもそうだがソフィアの話しを聞く限り、これまでの攻撃も内部の人間にしかできない可能性が高い場所やタイミングで実行されている。商売敵や変質者がもしいたら、真っ先に捕まってるはずだ」

「あ、そうか。てことは、この作業員や警備の誰かが単純にソフィアを気に入らないから傷つけようとしているってことなのね」

「それだけじゃないがな……」


 新しい衣装に着替えを終えてプロデューサーや監督との最終調整に入っているソフィア達とその周りにいる人物をリンカードは目敏く観察し、エイネルも倣って同じ方を見るが特に怪しい動きをしている者はいない。


「ちなみにリンクはさ、誰が好み?」

「そんなこと聞いてどうする。第一、俺がそれに答える義務はない」

「悲鳴上げても良いよ。キャーロリコーンって」

「魔王の癖に何言ってんだよお前。てか、どこで覚えたそんなの」

「キャーロリコー」

「あーもう五月蠅いな! オリシアだ、これでいいか」

「やっぱりリンクも男なんだね、パパから聞いた話では人間の男は変態ばかりだから気を付けろって言われたよ」

「お前の親父みたいな奴を親馬鹿ってんだよ。俺はもう一度外を見て来るから、お前もちゃんと見てろよ!」


 周りに気付かれないように小声ながらも怒鳴ったリンカードは出入り口から外へ出て行き、少し慌てた様子のリンカードを見たエイネルは微笑むとソフィア達に視線を戻す。

 簡単な確認を終えたソフィア達は曲が流れると再びステージへと飛び込んで行き、暑くて汗だくで疲れ切っているはずなのに、体を激しく動かして楽器やマイクを手に輝いていた。

 先ほどリンカードはエイネルが作業員や警備の誰かを疑っていた際、明らかに確認作業中のソフィア達のことを懐疑的な目で見ていたのを彼女は見落としていない。

 ほぼ確実なぐらい内部犯の犯行なのは確かなのだがいくらなんでもあんなに仲が良く連携が取れてる人間同士、仲間を傷つけるようなことがするのだろうか。

 特に先ほどの話によればヘンリカなど小学校時代からの学友、仲間内の中でも最もソフィアを心配しているだろうし、そんな彼女すら容疑者に入れるのはエイネルとしても少し心苦しい。

 そんなことがないことを願うばかりなのだが、人間とはエイネルが思っていた以上に多種多様で個体数が多い割にその性格や頭脳は本能で生きてる下級の魔物と比べても多種多様。

 想像できない様なことが魔界よりも遥かに多い場所、それが今のエイネルにとっての人間界なのだ。尤も、だからこそ景観や文化もさることながら人間を見るのも楽しいのだが。


「何も起きないのが良いはずなのに何か起きないとこの先不安になるって、なんか不思議な気持ッ!? え、これって……」


 僅か一瞬だが漏れて来た強大な魔力を確かに感じ取ったエイネルは慌てて立ち上がり、リンカードの言いつけに反することだと分かっていたが急いでその場から離れた。

 入れなかった観客で溢れ返っている会場の周りをぶつからないように高速で駆け抜け、会場の最後尾辺りに辿りついたエイネルは辺りを確認する。

 先ほどの僅かに漏れた魔力は信じられないことだが明らかに地上の魔物の尺度からして異常、あまりに一瞬だったので細かく察知することはできなかったがこの辺りから感じたことだけは確かだ。

 何を考えているか知らないが、もしもこんな場所で先ほどの魔力を持つ者が暴れでもしたらただじゃ済まない。

 最悪の場合数千人単位の死者が出ることすら想定しなければならない今、ソフィアには申し訳ないが優先事項は魔力の源を探ること。


「向こうは私に気付いていないのか? なら、こっちから誘い出す」


 魔力を機敏にキャッチできる人間がいた場合パニックになる恐れがあるので、エイネルは薄く広範囲に魔力を広げて先ほどの魔力を持つ者を挑発する。

 もしかしたら魔力を読み取れる稀有な人間や勇者が連れてしまうかもしれないが、堂々と声を出して呼び出すのはさすがに出来ない。


「さて、釣れると良いんだけど……」

「何やら挑発的な魔力を感じると思ったら、デスゲートか。こんなところで何をしている」


 背後から聞こえた声にエイネルは静かに振り返り、右手で刀の柄を握りながら相手を見てその双眼が驚きに染まる。

 銀色の短髪に緋色の瞳、黒のジーパンに真っ白なシャツとやたら人間臭い格好にサイリウムと言うただの観客を装っているが、エイネルはこの男を知っていた。

 忘れるはずもない。大規模な戦闘が無くなった魔界とは言え小さな小競り合いは割と日常的に発生し、その中で一度壮絶な殺し合いをした相手。


「フィラッシュ・ノーライト!?」

「おいおい、あまり大声を出すな。周りの人に迷惑だろうし、魔王がいるなんて知れたらライブが台無しになっちまう」

「何を企んでいる? もしもソフィア達に手を出すようなら、今ここでヘレゲント平原の続きをしても良いんだぞ」

「そう言うお前こそ何を企んでいる。そう言えば部下からデスゲートの魔王が人間界に向かったとか言う噂を聞いたが、アレは本当だったのか。良いのか、城を空けて」

「お主には関係な……あ、あるけど、今はそんなことを聞いてるんじゃない! もしかして、脅迫状とかもお主の仕業か?」

「脅迫状? 何のことだ」


 殺気立つエイネルに対してフィラッシュは驚くほど冷静で、ソフィア達の曲が終了して辺りが盛り上がると同時に彼も持っていたサイリウムを振って歓声に加わる。

 先ほどの脅迫状に対する反応もとぼけているようには見えず、何より目の前で大多数の人間に混じってソフィア達を応援しているフィラッシュの姿がエイネルには嫌に人間らしく映った。


「いや、やはりソフィアのヴォーカルは素晴らしいな。デビュー当初から好きだったから、にわかファンが増えて少しムカつく気持ちもあるが。あーそれで、脅迫状がどうかしたか」

「な、何でもない。しかしお主、何と言うか……ものすごく溶け込んでいるな。本当に何しに来たんだ?」

「ここに来る理由なんてライブを聴くため以外にないだろうが。兄貴たちには地上の視察って言ったおいたが、本当はこのライブを聞きたかっただけだ。おっと、兄貴たちには言うなよ。あいつら俺が人間のファンだって知ったら五月蠅いだろうから」

「ファンなのか!? 私が言うのも変かもしれないけど、お主は相当変わっているぞ。バセルバやエレキアが知ったらどうなることか」

「だから兄貴たちには言うなって。しかし今日のソフィアちゃん、歌に勢いはあるのになんか心配事でもあるのか? 不安が感じ取れるが……もしかして、さっきの脅迫状って」

「お主には関係ないことだ。言っておくが! ソフィアは私の友達だ、変なことしたらこの場を永久凍土にしてでもお主を封印するからな!」

「おー怖い怖い、心配せんでも何もしないさ。むしろソフィアちゃんに変なことする奴が居たらファンクラブ会員ナンバー05番である俺が粛清してやろう」


 そう言いながらフィラッシュは自慢げに懐から『【ソフィア・ノーズレス】ファンクラブ 会員ナンバー 05 フィラッシュ・ムコウ』と印字されたカードを取り出し、呆れ顔になっているエイネルに見せつける。


「えっと、私はそう言うのに詳しくないんだけど……凄いのか? 五番目と言うのは」

「既にソフィアちゃんのファンは数万人単位だ、その中で五番目と言うのは実に名誉あること。このライブのチケットも本当は手に入らなかったのだが、急に会員のキャンセルが出たからアキノさんから譲ってもらったのだ」

「いや、誰よアキノさんって」

「ソフィアちゃんのファンクラブ創始者だ。俺からしても、まさに彼こそついて行きたくなるような人だ。そう言えばお前のファンクラブもあったぞ」

「何で!? 私何もしてないのに!」

「昨日派手に目立ったらしいじゃないか。それが切っ掛けでメイド喫茶『アーモンド』の会員がお前だと気づいたらしくてな、一気に広まった」


 確かにグリーンシュタットで働いたことはあるがそれもたった一度のしかも数時間、特殊な趣味を持つ人間の情報網とその伝達の早さにエイネルは思わず身震いがした。

 魔王になってから勇者と戦ったり魔界に訪れた人間と関わりを持ったことが無いので、名前や似顔絵とかで正体がばれることは多分ないだろうがあまり大っぴらに自分の存在が知られるのは好ましくない。


「ちなみに俺も加入しておいた。『【エイネル・シモン】ファンクラブ 会員ナンバー 31』だ」

「捨てろ! 今すぐ捨てろ! てかお主より前に三十人も居るのか!?」

「見た目が可愛いだのメイドを護って巨漢を倒しただの斧を素手でぶっ壊しただの色々聞いたぞ。これはお前より遥かに長く人間界にいる俺からのアドバイスだが、あまり派手にやり過ぎると後で色々苦労するぞ」

「そのアドバイスをはありがたく受け取っておくとして、なんか今日は私の認識が色々とぶっ壊されてしまった日になりそう。まさか私と殺し合いをした奴がそう言う趣味を持っていたとは」

「確かに俺は魔王だが、それ以前に一人のファンだ。第一、魔王が人間のファンで何が悪い!」



『マウントデザートとその周辺』


<<マイク:ON>>

エイネル「はい稀に休んでは稀にやる『まおステ』、今回は私達が通ったマウントデザートとその周辺の説明をしていくよ」

リンカード「マウントデザートはカルティナ王国西部に存在する砂漠の一つで、ラクダを使って踏破するのに大体四日ぐらいかかる。北に夫立つ大きな山があり、その影響で砂漠化しているんだ」

エイネル「地図を見るとマウントデザートの周りには色々と街があるんだね」

リンカード「北のユルネ、南のブルーサイド、西のグリーンシュタット、東のカラフルデイズ、どれも特色のある大きな街だ」

エイネル「マウントデザートは縦に長い砂漠なんだね。だから本編でリンクも横切ってまで、砂漠を越えてカラフルデイズを目指してたってわけか」

リンカード「そうだな、まあ別にそれだけの理由じゃないんだが。ユルネは金持ちの別荘が点在し、ブルーサイドは綺麗なビーチがあって観光客が多い。まあ、機会があれば連れて行ってもいいが――」

エイネル「行きたい! 何それ何それ、凄い楽しそう特にビーチ! パパも言ってたよ、凄い楽しいところだって」

リンカード「そうか、そんなに喜ぶとは予想外だった。おっと、ここで一旦CMだ」


<<CM中>>

エイネル「あー楽しみ、今のうちから水着の用意しておかないと」

リンカード「魔界には海が無いのか?」

エイネル「あるいはあるけど、何と言うかどす黒いの。コーヒーに山芋を混ぜた様に黒くてドロドロしてるの。30年ほど前に入ったけど、ありゃもう完全にヘドロよ、ヘドロ」

リンカード「なんか、魔界は自然環境が壊滅的にキツイらしいな。人間界に憧れる気持ちも、何となく分かったよ」

スタッフ「CM終わります、準備を!」

リンカード「了解」


<<マイク:ON>>

リンカード「続きになるが、エイネルの父親もやはり自然が美しくて感動したのか?」

エイネル「パパは言ってたよ、とても素晴らしい景色だったって。蒼い空、白い砂浜、澄み渡った海、水着姿の女性達に揺れる胸部に触りたくなる太ももだって!」

リンカード「……おいちょっと待て、前半は良いが後半は完全に変態親父だ! いや、内心に留めながらなら良いが娘にする思い出話ではないだろ!」

エイネル「ところでリンク、やっぱり男の人は胸が大きかったり太ももがスリムだと触りたくなるのかな」

リンカード「そんな試す様な眼で見るな! み、南はもういいから北とか東とか砂漠そのもののはないをしようじゃないか」

エイネル「砂漠そのものって?」

リンカード「実はマウントデザートにはガルガンダ大遺跡ってのがあってな、研究者や観光のちょっとした名所なんだ。そしてこれは噂だが、古代兵器が眠っているって言う噂もある」

エイネル「古代兵器ってなんだかロマンな響きだけど、男の人ってそう言うの好きだよね。大昔の人間にそんな巨大な兵器作れるわけないじゃない」

リンカード「何も数百年前の話じゃない。何億年前の今とは別の人類が作ったと言われる兵器だ。一説には一発で王都を滅ぼせる兵器とか空を飛ぶ巨大兵器とか、割と面白いものがあるらしい。まあ、伝説上ではだけどな」

エイネル「伝説には尾鰭が付くものだからね、当時の王都はボロボロの一軒家だったのかもしれないよ」

リンカード「そうかもしれないな。おっと、もっと説明をしたかったが時間が無いな」

エイネル「本当だ! なんか今日は短いわね……まあいいか、魔王が旅して!」

リンカード「何が悪い!……まぁ、女に古代兵器のロマンはわからねーよな」


<<放送終了後>>

スタッフ「はーい、お疲れ様です」

エイネル「お疲れ様!」

リンカード「お疲れ」

エイネル「あ、リンク、別に私だって兵器が嫌いなわけじゃないんだよ。最近じゃ人間界には戦車って武器が作られたのは知ってるんだよ」

リンカード「ほう、さすがに魔王だけあって人間界の軍事事情には精通しているのか? カルティナ王国はレヴァンド大陸最大国家で隣国が小国ばかりだから基本的に戦争なんてないが、他の大陸から攻められる可能性はゼロじゃないからな」

エイネル「いつでもどこでも戦争は起こって、技術はどんどん発達するんだよね。魔界じゃ身体能力と魔法の戦いが多くてね、そう言う技術の進歩には疎いのよ」

リンカード「そう言えばエイネル達の魔界の魔族は殆どレヴァンド大陸にやって来るけど、ほかの大陸にも魔物っているのか?」

エイネル「いるね、ただ私達の魔界のゲートがレヴァンド大陸と繋がってるからそこにいるだけ。他の大陸には他の魔界に繋がるゲートがあったり、全く別の進化を辿った人間の脅威が存在するみたい。詳しくは知らないんだけど」

リンカード「俺も知らないことだらけのようだな。他の大陸に行く時は、色々と気を付けた方がよさそうだな。言語の壁とか」

エイネル「リンカードって他の大陸行きたかったんだ。ふーん」

リンカード「こう見えて結構旅行好きなんだよ。自称勇者で放浪してるが、割とその辺の事情もあるぞ」

エイネル「いつかさ、一緒に行けたらいいね」

リンカード「……あぁ、そうだな」


<<スタッフルーム>>

ジュルジェ「エイネル、人間界に旅立ち様々な知識を身に付けて、ついには他の大陸にまで興味を示すとは。デストラ、お前の娘は立派に成長しそうだぞ」

アキノ「あれ、ジュルジェさんは他の大陸に行ったことないんですか?」

ジュルジェ「一度ジパングと言われる国に行ったのだが、どうも様式が違い過ぎて戸惑いましたね。皆が同じ顔に見えるし、料理は肉が全然無いし、草を編み込んだタタミとか言う床は落ち着かない上に臭いがきつかったです」

アキノ「文化が違い過ぎると、それに馴染むのも一苦労ってわけですか。だけどまあ、郷に入っては郷に従えって言いますし、その文化が悪いってわけじゃないですよ」

ジュルジェ「そうですね。でも一番困ったのは『オンミョージ』とか言う訳の分からん連中に追い回されたことです。魔法とは違う奇怪な術を使って、これがなかなか手強かった。逃げ切りましたけどね」

アキノ「ジパングの陰陽師と言えばちょっと有名ですね、高名な退魔師です。本来は占いなどを専門にしてるみたいですけど、そっち方面でも実力はケタ違いだそうで」

ジュルジェ「思い出しただけでも恐ろしい。白黒の服に身を包んで集団で取り囲んで来る機械のような正確さ、体を縛りつけたりする謎の呪文、暴れるわけにはいかなかったとはいえ下手すると殺されていましたよ。まあ私が全力で戦えば負けはしないと思いますが」

アキノ「大変だったみたいですね。ところでジュルジェさん、地下の記録の整理整頓終わったんですか?」

ジュルジェ「終わっていない! やばい、マネージャーにまたどやされる。それではアキノさん、また!」

アキノ「大変ですね、あの人も」


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