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魔王が歌って何が悪い!


 人混みを掻き分けながら進むエイネルとリンカードはやがて広々とした空間に到着し、大通りよりも規模の大きな人だかりが広場のあちこちで発生していた。

 本格的なイベントも行われているらしく巨大なステージの上で踊る人がおり、むさ苦しいまでの人々が炎天下にも拘らず熱狂して声を張り上げている。

 真っ黒な服とは言え袖無しミニスカートのゴスロリ衣装のエイネルは別に問題なさそうだが、マントを羽織っていても鋼鉄の鎧を背負っているリンカードからすればこの場所は熱くて仕方ない。

 勿論エイネルだってリンカードが本当はこんな場所に居たくないことは分かっているものの、彼が文句を言わずに案内をしてくれているのだからそれに甘えることにする。


「ねえリンク、あの人達は一生懸命ステージの上の人を応援してるけど、応援すると何かいいことがあるの?」

「あー先に言っとくぞエイネル、間違っても大声で『結婚できるわけでもないのに応援して何になるの?』とか『お金取られるだけなのに』とかは言うなよ」

「なるほど、あの人達はステージの上の人達に夢を見てるのね。そしてステージの上の人達は、応援してくれている人達に夢を売ると」

「たまにお前って感が鋭いと言うか理解が早いよな。でもそれだけじゃない、両方とも楽しんでいるんだよ」

「城に居た時は定期的に演説と言うか朝会的なのはしたことあるけど、沢山の配下の前に立っても全然面白くはなかったよ。あの人達は、何であんなに楽しそうなんだろ」

「そう言うのとは違うと思うんだが、まあ見てみようじゃねーの。これが人間の娯楽の一つ、魔王様の目にはどう映るだろうな」


 エイネルがどんな反応を示すのか若干ながら期待しているリンカードだが、彼女の表情はただ広大な広場を埋め尽くす人と溢れんばかりのエネルギーに圧倒されていた。

 現在の魔界ではまず感じることが出来ないほどの熱気、何故か胸の奥から溢れ出て来る高揚感、不思議なまでに輝いて見える人ばかりの景色。

 もしこれで人だかりや熱気が無ければただ目が痛くなるだけの不気味な配色をした景色なのだが、似た様な不気味さを放っている魔界でこんな気持ちを感じたことは恐らく数回しかない。


「不思議とわくわくして来る、これが人間界の娯楽なんだね」

「さて、とりあえず片っ端から見て行こう。大道芸、アイドル、ロックバンド、とにかく色々ある。ここで満足しなければビリヤードやボーリングなんかの室内遊戯も――」

「ねえ貴方! 歌に自信あったりしない!?」


 リンカードの説明中に人垣の中からマイクを持った女性が一人現れ、肩を掴まれたエイネルは突然知らない人間に話しかけられ、しかも歌がうまいかどうかなど聞かれて戸惑いを隠せない。

 キラキラと輝く金色のロングヘアーに透き通る様な白い肌、多くの男性を惹きつけるであろう形の整った流線型の体、空のように青い瞳、歌うとあらばこの本人の方が絵になりそうなぐらいに整った美貌の持ち主。

 だが説明中に割って入られたリンカードは如何にも不機嫌そうな表情で舌打ちするが聞こえなかったらしく、彼女は「どうなの!?」っと困惑するエイネルに迫る。


「歌は好きだけど、いきなりなんなのさ!? て言うか、お主は誰だ?」

「私は……あー説明している時間が勿体無い! どうなの、歌には自信があるの? ないの!?」

「いきなり押し掛けて来て何だその態度は。不躾にも程が――」

「貴方は黙って! 私はこの子に用があるんです」

「エイネル、正統勇者は現行犯じゃなければ原則的に逮捕されないが、自称勇者は証言だけでも牢獄行きの可能性がある。この女ちょっとボコるからお前は黙ってろよ」

「おおお落ちついてリンク! 何やら急いでる様だから簡単に答えるが歌は普通だよ。人に自慢できるほどじゃ無い」

「それで結構! よっしゃ、借り物競走は私が一番頂き! 貴方はお兄さんかしら、失礼だけど少しこの子を拝借させてもらうわね!」


 エイネルの手を掴んだ女性はリンカードを置き去りにしてあっと言う間に人だかりの中に消えて行き、面倒臭そうに溜息をつきながらもリンカードは人の間を縫って追跡する。

 見ず知らずの女性に手を引かれながら進むにつれて後方のリンカードの姿は見えなくなり、少し不安を覚えたが鎧が擦れ合う音が常に小さく聞こえるので着いて来ていると信じたい。

 やたら男が多い人だかりを揉みくちゃにされながらもエイネルは手を引かれて進み、しばらくすると視界が開けて目の前に大きなステージが現れた。

 幕には『アイドルユニット「SaY HellO」イベント会場』と印字されており、そう言えば人だかりの男性達がやたらと女性が通って喜んでいたような気がしたことをエイネルは思い出す。


『おーっと最初に戻って来たのはリーダーのソフィア! どうやら歌の上手な少女を連れてきたようです!』


 ステージ上の司会者の言葉にソフィアは一番最初に返って来たことを確信して拳を握り、階段を駆け上がってテーブルの上のボタンを押す。

 かなりの人数がステージ上に注目して喚起していたのだが、注目されているのが自分ではなくソフィアの方だとすぐに分かったのでエイネルは緊張が感じられない。


「ふー久しぶりに結構走った。さて、それじゃあ……えっと、名前はなんだっけ?」

「エイネル。とりあえず着いて来たけど、もういいよね? 私もう戻りたいんだけど」

「待って待って! あのねエイネルちゃん、私達今借り物競走で勝負をしててね、私の連れて来る人の条件が『歌が上手な少女』なの。だからその、歌ってくれる」

「いきなり歌えって言ったってそんなに人間か……メジャーな曲は知らないよ」

「そ、それはちょっと困ったわね。でも歌ってもらわないと私も困るし……えーっとうーんっと、じゃあこの曲を歌って欲しいんだけど、楽譜分かる?」

「まあ少しぐらいは……ふーん、魔界の曲と大して変わらない。これなら大丈夫そう」

「え、魔界?」


 うっかり口を滑らせたエイネルだがすぐに過ちに気付くと額に汗が浮かび、とりあえず相手が追及して来るより先に適当に誤魔化すため言葉を紡ぐ。


「あーその私のいた村では魔界風音楽もあったもんだから、ついついそう言っちゃっただけ!」

「なるほどね、魔界風音楽か……それはそれで面白そうね、今度調べてみましょう。それで、何とかなりそうかしら」

「うん。歌うのは別に構わないんだけど、こんな大勢の前で歌わないと駄目なの?」

「お願い! この勝負に負けると私罰ゲームでバンジージャンプさせられるの! だからその、何とかお願い!」

「バンジージャンプ? 良く分からないけど怖いことなんだね。じゃあ歌ってみるよ、音楽お願い」

「まっかせておいて! ギターとドラムさん、演奏お願い!」


 切迫したソフィアの表情を見たエイネルはとりあえず楽譜を眺め、それほど難しいテンポや言葉遣い、セリフなどが無いことを確認する。

 その間に準備を終えたギターとドラムが互いに頷きあってからエイネルにアイコンタクトを取り、エイネルもしっかり頷くとドラムが叩き出して演奏がスタート。

 エイネルは目の前に広がる観客が少なからず自分に何かを期待してることに気付き、マイクをソフィアから受け取って楽譜を豪快に投げ捨てた。


『本当はソフィアさん達の音楽を聞きに来たんだろうけど、せっかくだから私の歌も聞いて行って! 曲名は、ブラストハート!』


 何気に少し調子が乗って来たエイネルは音楽が始まると同時にテンションがさらに上がり、観客も借り物競走とは言えいきなり現れた少女が叫び出したのでとりあえず全力で応援し出す。

 大衆の中間辺りで暑苦しく鎧とマントに身を包むリンカードはこの中に何人ほど真正のロリコンが居るのか考えつつ、魔王がこんな堂々と人前に顔と名前を晒して良いのか若干心配にもなった。

 アイドルユニット『SaY HellO』、ソフィア・ノーズレス、ヤーニャ・イエスト、ヘンリカ・ウエストル、オリシア・エーストラの頭文字を使って作られたユニット名。

 最近カラフルデイズでは有名なアイドルユニットでそっち方面には疎いリンカードでも一応名前は聞いたことがあるのだが、実際に彼女たちのライブを見たり音楽を聞いたことはない。

 どうしてこんな人が多い中でエイネルが選ばれるのか、その天文学的な数値をリンカードは考えていたが歌が始まった瞬間、色々と考えていた彼の思考がエイネルの歌によって吹き飛ばされる。

 上手い、やたらと上手い。事前にリハーサルでもしていたのではないかと言うほどに音楽のテンポも強弱も素晴らしく、手の動かし方や体の動かし方なんかも素人とは思えない。


「音楽の教師がそんなに優秀だったのか? いやでもエイネルって何気に天才肌っぽいし、連れて来た張本人が何やら呆気に取られてるけど……まぁ、どうでも良いよな」


 先ほどまでローテンションだった観客もその歌唱力とダンスの魅力で一気にハイテンションになり、蛇やらスコップやらどこから持って来たか分からない物を借りて来た他のメンバーも舞台横で呆けたように眺めていた。

 下手をしなくてもエイネルの演奏は恐らく彼女たちよりも上手いのだがこれはこれで空気が読めてないので、ソフィアに見えないようにスタッフがエイネルにカンペを飛ばす。


『ここで君を待っていたらー!……あー、えっとー……すみません、歌詞忘れちゃいました』


 二度目のサビに入ろうかと言うところでスタッフの伝言を読み取ったエイネルは笑いながら嘘をつき、盛り上がっていた観客達も残念そうに落胆するが至るところで拍手が起きた。


『非常に歌がお上手なお嬢さんでした! 出来れば最後まで聞きたかったのですが、忘れてしまったなら仕方ないよね! おっと、他のメンバーもそれぞれ借り物を手に返って来ています』


 その場を何とか流そうと司会者も外で待機していた他のメンバーをステージの上に呼び、妙なものを借りて来たメンバーの反応とトークで観客も再びテンションが上がって笑いも起きた。

 とりあえず一番最初に借り物を借りて来たということでソフィアの罰ゲームは回避されたらしく、次の演目が開始される前にソフィアは舞台の裏にエイネルを案内する。


「ありがとね、貴方のおかげで罰ゲームは免れそう。私高いところが苦手でさ、エフィアル塔からジャンプなんてしたら心臓麻痺で死んじゃうわよ」

「高いところからジャンプって、何かもう罰ゲームというか死刑ねそれ。私も高所恐怖症だから分かる! ソフィアさんが助かってよかった」

「それにしてもエイネルちゃんって本当に歌が上手いのね。正直な話、ちょっと嫉妬しちゃったわ。他のメンバーも多分同じ気持ち……ねえ、エイネルちゃんってどこかの事務所に所属したりしてるの?」

「事務所? うーんそう言うのには所属して無いけど、お城になら住んでるよ」

「城!? えっ? エイネルちゃんってもしかしてどこかのお姫様なの!? はぁー何と言うか、世の中不公平よねー、こんな可愛くて歌もダンスも上手くてお城住まいなんて……うぅ、こんな妹が欲しい!」

「お取り込み中のところ悪いが用が済んだならもう解放してやってくれないか。炎天下でただ待ってるだけのこっちの身にもなってくれ」


 両腕に警備員の首をロックしながら引き摺るリンカードが部屋の中へと入り、エイネルは安心したのか少し微笑んだがソフィアは逆に暴漢の類が来たのかと一瞬身を引いてしまった。


「それにしてもここの警備はやる気があるのか? もう少しまともな警備を雇った方が良いぞ。少なくとも高が自称勇者にフルボッコにされる奴らよりはな」

「リンク、来てくれたんだ!」

「あのですね、いくら妹さんが心配だからって暴力で迎えに来るのはどうかと思いますよ。もしかしてシスコンなんですか」

「……別に妹じゃないが? 変なことになっても困るから心配で来ただけだし」

「ねえねえリンク! その、私の歌どうだった?」

「率直に言って上手かったな。俺は歌苦手だから良く分からねーけど、その辺の奴よりは随分良いだろう。もう行くぞ、これ以上は俺の娯楽にもならないし金にもならない。時間の無駄だ」

「お金に困ってるんですか? そう言えば自称勇者って言いましたね……リンクさんと言いましたか?」

「リンカードだ」

「自称勇者なんですよね。それにエイネルちゃんも、武器を持っているってことは多分勇者よね。その、お願いがあるんです。お金はちゃんと払いますから、聞いて下さい」


魔王と自称勇者のラジオステーション


『マッケンエルクとグリーンシュタット』


<<マイク:ON>>

エイネル「エー皆さんこんばんは。まず最初に、解説コーナーの名前が若干変わりました」

リンカード「『魔王と自称勇者のラジオステーション』、略してまおステらしい。魔王が捨てられたような名前だな」

エイネル「止めてよそういうの! もしもなったら怖いじゃない!」


エイネル「若干ネタが尽きて来た感が早くも溢れているこのコーナーですが、そんなことはお構い無く今回もやっていくよ!」

リンカード「今回はエイネルが人間界に来てから訪れた村と街を紹介しよう。まず一つ目は、あまり長く在住していなかったマッケンエルク」

エイネル「静かで良い村だったよね。朝日が良く見えてそれを反射する朝靄も綺麗で、もう一度行ってみたいなぁ」

リンカード「この村はこれと言って特産品が無い。敷いて言えばカルティナ王国最西端の村って言うネームバリューぐらいか、一応『退魔の七ツ星祭』と言うのがあるらしいが、一般には知られていない」

エイネル「なんか分かり辛いね。具体的にどういう祭りなの? その、『退魔の七ツ星祭』って」

リンカード「年に一度だけ天体の関係で東から西に掛けて七つの一等星が線を結ぶように輝くが、それを記念する祭りらしい。退魔と付けたのは、まあ験担ぎだろう」

エイネル「間違ってはいないんだろうね。魔王である私が早々に村を出て行ったんだから」


リンカード「次はグリーンシュタットの説明に入ろう。マッケンエルクから東に向かって進むと見えてくるのが、グリーンシュタットって都市だ」

エイネル「凄い人間の数だったよね。色々な服を着てる人がいて、髪の色も瞳の色もまさに色々だったよ。お守り売ってくれたおっちゃん、元気にしてるかな」

リンカード「それなりの街で人も多く、東には砂漠が広がっているが南北にそれぞれいくつか都市がある。東の砂漠には謎の建物や古代の建築物なんかもあって、それらの調査もあるからここは交通の要所に成り易いんだ」

エイネル「だからあんなに色々な人がいたのね。そう言えば野菜も美味しかったよね、もう一度食べたい……お腹減って来た」

リンカード「グリーンシュタットは西側の平原に大量の畑があってな、そこで多くの野菜を育てているんだ。今回はスタッフが色々と持ってきてくれたぞ。揃うまで少し待とう」


<<マイク:OFF>>

スタッフ「野菜持ってきますね。テーブルの上空けておいて下さい」

エイネル「ふああああ! ねえねえリンク、色々来たよ! 私ね、甘いトマトも好きだけど酸っぱいトマトも結構好きなんだよ! それにキャベツは水水しくて美味しいし、ニンジンやキュウリはパリパリしてるし、最高だよね!」

リンカード「むぅ……確かにグリーンシュタットの野菜は美味だ。美味だが……俺は、こいつだけは受け入れることが出来ない」

エイネル「カリフラワー? ふさふさして美味しいと思うけど」

スタッフ「運び終わりました。マイク付けますので、それぞれ席について下さい」

エイネル「はいよ!」

リンカード「……嫌な予感がする」


<<マイク:ON>>

エイネル「えーラジオのため見せられないのが残念ですが、私達の目の前には沢山の野菜が並んでいます。これ、グリーンシュタットの野菜です。産地直送です」

リンカード「くじ引きで引いた野菜にドレッシングを付けて食べて感想を述べるようだな。エイネル、引け」

エイネル「確かリンクが先だった気が……まあ良いけど。それじゃあまずは私から、どれどれ……じゃじゃじゃん! リンゴ! 野菜じゃなくて果物だけどまあいいよね! それじゃあいただきまーす!」

リンカード「皮ごと馬鹿みたいに喰うとはな。歯茎痛くなったりしないか? そもそもうまいのか?」

エイネル「美味しいよ、作者も普通に皮ごと食ってるらしいし。それに皮を食べたからって死ぬわけじゃないし、食べれる部分増えるし」

リンカード「そうか。何と言うか、魔王なのにどケチ根性が染みついてるところあるよなお前。さて、俺の番か……ニンジン、ほぉ」

エイネル「露骨に安心するね。そんなに嫌なの? カリフラワー」

リンカード「このニンジン上手いな」

エイネル「追求を避けた! よし、次は私の番ね。えーっと……てい! ブロッコリーです。ふさふさしてて美味しいよ!」

リンカード「ッチ……落ち着け俺。二回で終わりなんだ、放送が終われば後はこいつが勝手に全部喰う。これで俺がカリフラワーを引かなければ良いだけだ」

エイネル「あまり悩み過ぎると引いちゃうよ?」

リンカード「黙れ! よし、これだ!……キャベツか。ははは、ほらな、そんな簡単には当たらねーよ。オチは無かったようだな」

エイネル「残念、リンクがカリフラワー食べるところ見たかったのに。あ、時間が! そ、それではみなさん今回はこの辺で! 魔王が旅して!」

リンカード「何が悪い」


<<舞台裏>>

スタッフ「お疲れ様です!」

エイネル「お疲れ様でーす! さてリンク、色々野菜が余ってるわけだけど……やるよね、続き」

リンカード「やらねえよ。誰が好きで地獄に突っ込むか」

エイネル「何でそんなにカリフラワー嫌いなの? 食わず嫌いは良くないよ」

リンカード「……あれは確か、四歳の誕生日のときだ」

エイネル「なんか始まった」

リンカード「家族は毎年同様盛大に誕生パーティーを開いてくれた。その時出されたカリフラワー、俺が口にすると凄まじくまずかった。それもそのはず、腐っていたからだ。しかも中には大量の蟲がいてな、すっかりトラウマになった」

エイネル「何と言うか、不幸だったね。でもほらこのカリフラワーは中に蟲も居ないし、腐ってもないから大丈夫だよ。ほらリンク、食べてみて!」

リンカード「断る! 絶対に断る! 死んでも断る! 頼む、それ以上カリフラワーを俺に近づけるな!」

エイネル「リンク!? ま、待ってよー!」

リンカード「それを持って来るな!」


<<スタッフルーム>>

ジュルジェ「全く、最近の若者は我儘なものだ。昔の人間は食料の確保ですら苦しんでいたのと言うのに」

スタッフ「いつの話ししてるんですかジュルジェさん。それより、廊下の掃除は終わったんですか?」

ジュルジェ「勿論ですよ。ところでアキノさん、最近エイネルのファンクラブが出来たって聞いたんですが。本当でしょうか?」

アキノ「出来ましたね。『アーモンド』で知り合いが一目でファンになったみたいで、私は会員ナンバー02ですよ。ジュルジェさんも入会したいなら是非どうぞ」

ジュルジェ「いいのですか? その、私は魔物なのに無理言って働かせてもらっている身なのに」

アキノ「ファンになるのに人間も魔物も関係ありませんよ! それではジュルジェさんは【エイネル・シモンファンクラブ 会員ナンバー 03】ですね。今度カード持ってきます」

ジュルジェ「ありがたい。それでは、私は上の階の掃除に行ってきます」

アキノ「はい、頑張って下さいね」


ジュルジェ、部屋を出る


ジュルジェ「……デストラが知ったら怒るだろうか? まあ大丈夫だろ、地獄であいつも喜んでいるに違いない。多分な」



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