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記念作品シリーズ

吸い込まれました

作者: 尚文産商堂

目が覚めると、滝のような感じの中にいて、ドンドン流されているところだった。

ここはどこかと考える間もなく、滝壺の中に叩きつけられた。


浮き上がると、砂浜が広がっていた。

「こ…ここは……」

「残念、ここにきてしまったのか」

一人の老人が、俺を見下ろすように頭のそばに立っていた。

「こ…どこだ…」

「仙界だ。おぬしは、来てはいけないが、来ることはできる場所にきてしまったのだ」

「どういう…こと…だ」

立ち上がろうとしても、立つことができない。

やっと座ると、老人はコップを差し出した。

「ここにきてしまったものは仕方がない。わしが帰れるように天帝へ奏上してみよう」

「…天帝?」

「なんも知らぬのか。いやはや、なぜここに来れたのかが不思議じゃな」

空中から杖を取り出して、俺に貸してくれる。

「よいか、仙界とは、仙人の世界のことじゃ。天帝は、おぬしがいた人界と天界と仙界のすべてを治めておられる方じゃ。天帝のお言葉は絶対であり、確実に実行される」

「じゃあ、天帝に帰してもらえるように言えば…」

「おぬしは無事に帰れる。じゃが、それまではこの仙界にて修行を受けてもらおう。さもなくば、おぬしが帰る前に塵芥となってしまう」

この日から、俺はよくわからないが、仙人の修行とやらを受けることになった。


穴の開いた桶に水を満たせとか、底がない柄杓で水を沸かせとか、無理難題ばかりをやらされる。

「なあ爺さん」

「じいさんじゃない、仙人じゃ。何の用じゃ」

「なんでこんなことばかりさせるんだよ。これじゃイラついてしゃあないぞ」

俺は怒りながら、仙人に聞いた。

「そう、それじゃよ。イラつかせることが、この修行の最大の目的じゃ」

笑いながら、俺に仙人は自慢をするように話しかけてくる。

「よいか、仙人というのは、常に平常心なのが求められるのじゃ。だからこそ、このような修行が求められる。見ておれ」

仙人はそう言って、柄杓をもち、水が入った壺の中にいれた。

「おい、それじゃ水が入らんだろ」

「黙って見とれ」

仙人は、いとも簡単に柄杓の中に水を入れ、そのまま火にかけた。

「よいか、物質というのは、たがいに見られながら行動をしておる。わしとおぬしのような関係じゃ。そして、極度に恐怖を感じた時、膝が震えるような状態となる。それが、さっきのような状態じゃ。肝心なのは精神じゃ。いつでも、誰が見ていても、心を見失わぬ心じゃ」

「…その心を鍛えるための訓練だったのか」

「そうじゃ。おぬしがここに来れたのは、なぜかは知らぬ。じゃが、ここに来たからには、それなりの心を持っとる。わしができるのは、その精神力を引き出すことじゃ」

「じゃあ、最初にそのことを教えてくれよ。俺のモチベーションがダダ下がりだったんだぜ」

その時、鳥の鳴き声が聞こえた。

「ほう、来たようじゃな」

仙人は、嬉しそうに俺をおいて外へ出る。

仙人の後を追って、俺も外へ出ると、純白のカササギが地面に立っていた。

「誰ですか」

「天帝からの使いじゃ。やっと返事が来たんじゃよ」

首から下げている布袋を取り外し、中にあった巻き物をその場で開いた。

「ほうほう、なるほど、なるほど」

何か分かったようで、仙人はうなづいているが、俺には何も言ってくれない。

「なあ、どういうことなんだよ。天帝からはなんて伝えていたんだ」

巻き物を見せてきたが、漢語で書かれていて、俺には読むことが出来ない。

「簡単に言えばじゃな、おぬしは仙人になるためにここに来たということらしいのう」

「何を言っているにかさっぱりなんだが…」

仙人は俺に言いながらも、何かを巻き物に書いている。

「おぬしの仲間は、どうも良くない物に触れてしもうたようじゃな。おぬしは良かったが、他の物は別の所に吸い込まれてしもうたようじゃ。そして仲間とはもうおぬしは会えまい」

仙人が何を言っているのか、俺には理解が出来なかった。

仲間と言われても、そんな記憶は無い。

目の前で、カササギが飛んでいく。

「おぬし、天帝より目をかけられて育てられたんじゃ。じゃがそれが周りには仇となってしもうた。天帝と繋がろうと思うものは御万とおる。じゃからおぬしは狙われたのじゃ。天帝はそのことに気づき、おぬしを助けた。じゃがおぬしだけを救うのにギリギリの時間しか残されておらんかった。じゃからおぬしだけは助かり、他のものは助からなんだ」

記憶が無い。

でも、この人が言うのは、妙に説得力があるような気がした。

「おぬしは、おぬしの命を守るために、そして仲間を助ける為に、力がいるじゃろう。わしができるのは、おぬしが元来持っとる力を引き出し、伸ばすことじゃ。おぬしは、ついてくるか」

俺はすぐに決断した。

記憶とともに、俺の為にどこぞへ連れ去られてしまった友人たちを救う為に。

「よろしくお願いします、師匠」

お辞儀をして仙人にいった。


暗い部屋の中、小さなそこに数人に男女が両手両足を縛られて運ばれていた。

「そうか、決めたのか」

その部屋の前に、先ほどの白いカササギから手紙を受け取っている人がいる。

「全ては、我々の計画のままに……」

「天使と悪魔、人と神、増えすぎたものは常に適正な数に収めなければならない」

天帝と話しているのは、腰まで髪がある人であった。

「そうだヤハウェ、我が思うに、全ては計画通りに進んでおる」

天帝はそう言って、ヤハウェとともに何処かへいってしまった。

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