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ep2好奇心は猫を殺す?-1

三か月ぶりの更新になります。一応9、10月中にはep2を終わらせる予定になります。


 とある月曜日の昼の授業。僕、響裕也はいつも通り授業中に寝ようとしていた。僕を起こそうとする悪魔の囁きは無視して。

 僕はこの世界といくつかの異世界を行き来する旅人――これを僕らはゲートトラベラーと呼ぶ――である。だが、その一方でこちらでは未だ高校生であり、そのため旅は長期を除き、土日しかできないような小さなものが普通だ。しかも日曜日に帰るのが遅くなれば、翌日が大変な訳で。

 だから、今ここで寝ているのも正統な理由があるのだ、と心の中で言い訳しておく。

「先生、響君が起きません」

 先ほどから僕を起こそうとしていた右隣の席の女子が先生にそう言った。その声に反応して先生のはぁという呆れ声が聞こえてくる。

 先生に気付かれた以上、教科書にうつ伏せになっているだけ、と言い訳をするか。

「なので、起こすためハンマーを振り下ろしてもいいでしょうか」

「そこ、ちょっと待て!」

 慌てて飛び起きる僕。

「僕を殺す気か」

 それにあっけらかんと答える少女。

「大丈夫。とある学校ではハンマーを振り下ろしても寝続けた生徒がいる――と面白いなと思う」

「願望系だろうが!」

「響も起きたし授業を再開するぞ」

 先生、今さっきの衝撃発言に対する注意はないのですか? ハンマーなんかを振り下ろされれば死ぬと思うんですが。

「そりゃ、ハンマーを振り下ろそうとするなんて、冗談だと持って誰も信じてないよ」

 こら、そこ人の思考を読むな。

 起こされた僕は授業に渋々参加するのであった。かすかに残る眠気に耐えながら。

 

「とりあえず、言い訳を聞こうか」

 僕は廊下で、茶色の髪を後ろに垂らして青色のリボンで括っている少女――望月瑠奈――に詰問する。例の右隣の席の少女である。

「お前は知っているだろ、僕がなんで寝ているのか。というか、そもそもお前はわざわざ起こすような殊勝な生徒でもないだろ」

 瑠奈は苦笑しながら返事を返す。

「うん、知っているよ。昨日一昨日と異世界で依頼を受けていただろうということも分かるし。でも、だからって寝てもいいということにはならないと思わない?」

 それはそうだろうけど。でも、僕はこいつがそんな正義心から起こしたのではないと断言できる。

「だから、起こした時の裕也の反応で楽しめたら、じゃなくて裕也が今後の勉強で困らないように、と」

「いや、その訂正は無意味だから。既に本音が出ているから」

「まさか、私の心の中が読めるなんて。ああ、裕也はなんとエスパーだった!」

 わざとらしく大げさに驚く瑠奈。きっと僕をからかって遊んでいるのだろう。

「あー、そう言う茶番はもういいので。ところでハンマーについてなんだけど、本当は持っていないよね?」

「うん、持ってきてない」

「そりゃ、そうだよね……」

 明るく宣言する瑠奈に対して、僕はげんなりとして返事する。普通、ハンマーを携帯するような女子高生がいるはずもないし、あれは僕を起こすための一芝居だったのだろう。

「地属性の魔法で鉄の強度になっている程度の木槌しかないよ」

「なんで、そんなものを持っているんだよ!」

 ああ、そういえばこいつは普通じゃなかったんだった。

「えーと、いざというときの暇つぶし用?」

「良く分かった、この一連の流れを見越してだね」

 暇つぶしでそんなもの持ってくるのにそれ以上の理由が見当たらない。

「とりあえず、二度とそんな危険物を持ってくんな。というか人で遊ぶな」

「裕也が困っているなら仕方ないかな。うん、気が向いたらちゃんと止めるよ」

 たぶん、これ以上言っても無駄なんだろうなと思う。

「じゃあ、そろそろ授業も始まるし先に教室に戻っているね」

 そう言って教室へと向かう。

「それはいいんだけど」

 まだ何か言うことがあるんだろうか。

「さっきの授業中にミストが魔法石から出て、外に出ていったんだけど、大丈夫?」

「先にそういうことを言え!」

 ああ、どうして僕の周りは問題起こす奴だらけなんだ。人で遊ぶ少女に、契約者に黙って勝手に動き回る精霊獣に。

「先生に保健室寄っているって言っといて! 理由は任せた」

 そう言って僕は走り出す。

「どう頑張っても信じてもらえないと思うのは、私だけ?」

 そんな瑠奈の呟きは焦る僕には聞こえなかった。

 

「あの、猫どこにいるんだ」

 僕はいらつきながら、校内を探していく。もちろん先生に見つからないように注意しながら。

 精霊獣は魔力を有さない人には見えない。だから、こちらの世界で見える人なんてそんなにいないんだけど。だけど、仮にこの学校の知らない誰かがそうで、たまたまそいつが出歩いていて、面倒事に巻き込まれることもありえる。

 そんなのお断りだ。

 適当に付近を捜し回るが見つからない。このまま校内を探し周るのは時間がかかるし、時間をかけると先生に見つかりかねない。なら、見晴らしの良いところから探すのが良いだろう。

 僕は一旦校庭に出て外にいないかを確認することにした。この時間は外で体育がないのでちょうど良い。

「えーと、どこだ」

 一先ず校庭をざっと見渡してみるが、確認できない。次はあいつがよくいる窓際を確認する。そこにもいない。仕方がないので、中庭の方へと向かった。

 すると、建物の隙間に奴はいた。ちょこんと座って尻尾を手前の方に垂らしていた。

「おい、ミスト」

 僕は誰かに聞かれないように小さく呼びかける。すると、ミストはすんなりこちらの方を向く。

「あれ、裕也。授業は大丈夫なの?」

「大丈夫じゃない。けど、お前が外に出ているって瑠奈から聞いたから探しに来たんだよ」

 すると、ミストはげんなりした顔をする。

「裕也は心配性だなぁ。この時間に出歩いている生徒はいないじゃん」

「先生、トイレ、教室移動、色々可能性があるだろ。察しろ」

 そう言って、僕はポケットから青色の魔法石を取り出す。

「とりあえず、早く戻れ」

「いいけど、その前にこれを」

 そう言ってミストは一枚のチラシをくわえて僕に見せるのであった。


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