ep1-4
これでep1終了。すみません、結局3ヶ月と少しかかりました……。
日が昇り、僕達は再び研究所を目指す。
「さてと、奴は出てくるかな」
「さぁね。正面からくるにせよ、奇襲をかけてくるにせよ、仕掛けてくるには間違いないだろうよ」
この近くで人が住むような場所はレクス研究所しか聞いたことがない。と、すれば、そこへの道のりで待ち伏せすれば、遭遇できると考えるだろう。
「どうする裕也? 遠回りをして後ろから行くこともできると思うけど?」
「うん、それが一番素直かなと思うんだけど」
その作戦には一つ問題がある。
「そうすると、下手すればもう一回野宿しかねない」
そうなれば、学校に遅刻することは確定だ。連絡もなしにそんなことをすれば面倒なことになるのは間違いない。うん、とても私的なことなのは分かっているけど。
「じゃあ、正面突破する、っていうことだね」
「そうするしかないかな」
僕達は今、山道の出口へと近づいていた。山道を出ると、盆地が広がっているらしく、そこに研究所がある。
研究所に着いて荷物を渡せば、この依頼はそれで終わり。ついでに、機密情報でなければ、この魔法玉にどのような魔法がかかっているかぐらいは確認してもいいだろう。これがつけ狙われ、苦労して届けているのだから、どのようなものか気にもなる。単に研究所からの物品なので、価値のあるものと考えて狙ったというところだろうが。いずれにせよ、この依頼もあと少しで達成となる。
さてと、では最後の関門を突破するとしようか。
「えーと、青ターバンの不審者さん、出てきてくれませんか」
当然の如く返事は返って来ず、沈黙が広がる。
僕が来た方向で、研究所へとたどり着くのは、この道しかない。また、僕が回り道をするかも分からない。そうである以上、無理に探すよりは、ここで待ち伏せする方が良いと判断すると踏んでいるのだが。
「まぁ、わざわざ有利な地形を破棄するはずもないか」
ばれているからといって出てくる相手でもないよな。
ミストが横から話しかけてくる。
「裕也、どうする?」
「しらみつぶしに探している方が、ありがたいんだけど」
それなら遭わずに済みそうだから。けど、
「いる前提で考えたほうがいいだろうな」
「そうだね」
ウィンの言葉に僕は頷く。いなければ杞憂で済むが、逆にいるのに想定していなければ不意打ちをくらう。
「じゃ、全速力で駆け抜けるとしようか」
「了解だ」
「ん、分かった」
僕は了解が取れたのを確認し、大声で合図を出す。
「じゃ、“いつも通り”いくとするよ!」
その言葉を皮切りに僕は走り出した。ミストは僕の少し前を走り、ウィンは上から見渡せるように空へと飛ぶ。
周囲には少し両側が高くなっている以外は他の場所と変わらず、辺りには身を隠せるような岩がいくつもある。どっから来るなんて分からない。
どの岩から攻撃が来るか、それが問題だ。それさえ分かればどうにでもできる。僕達は辺り岩に注意を払った。
そして、風を纏ったナイフが右から飛来する。
僕は慌てて水になったミストを纏い、少しでも威力を軽減する。ナイフに右足を切りつけられるも、十分立っていられるぐらいだ。
そして、ちょうど上空からも死角となるような岩から青ターバンの男がナイフを両手にして、こちらへと切りかかってくる。僕はそれが目に入った瞬間、体を捻る。
そして、すぐさま剣を横に振り抜く。
「何!」
相手は僕がよけるとばかり考えていたため、不意打ちとなり、右腕からそのまま一撃を受ける。今回、水の剣は刃の部分は鋭くしていないが、相当な威力となったはずだ。相手のナイフはその勢いで飛んでゆく。
「上手くいったな」
ウィンがそう言って降りてくる。
相手は今まで逃げてばかりの僕をイメージしている。足の速さや剣の速度は熟知していただろうが、反撃が来るとは想定しづらかったはずだ。それに、たとえ想定しても、心の中でわずかな油断が生じるだろう。
ましてや、見せていたものより、剣の速度がいつも以上に速ければ防げないのが道理。
「まさか、今まで手を抜いていたのか」
僕は丁寧口調ではなく、タメ口で相手に返答する。
「一応、こんなこともあるかも、と思ってね」
奴は歯軋りしながらも、更に尋ねてくる。
「では、逃げ続けていたのも、この時のために?」
「そちらは、ノー。僕の任務は贈り物を届けることで、賊を退治することではない。だから、先が長く何があるのかも分からないのに、戦い続けるのは危険と判断しただけだよ」
だけど、今は違う。ここは最終地点で、こいつはこの依頼を達成するのに避けては通れない敵。
だから、今こそ戦う。
「まぁ、いい。今の一撃で優位に立ったと思うな」
奴はマントからナイフを取り出して構える。
「甘く見ないさ。油断は命取り、というのが定番だから」
僕は剣を構えて、水属性の回復呪文を唱える。すると、癒しの水が切られた足の傷を一時的に塞いでくれた。
ウィンは空へと飛び上がり、ミストは僕の横で控える。
「消えろ!」
奴はまず上空へと風の呪文を放った。ウィンを狙ったものである。ウィンは悠々とそれをかわす。
青ターバンの男が呪文を唱えた隙に、僕は切りかかろうとする。奴はそれを予見していたように、すぐさまそれを後ろに跳び退く。だが、僕の剣は振り下ろされず、左に倒し、前へと踏み出し、右へと振り抜く。
「くっ」
相手が痛みを堪えきれず、呻き声を発する。
「もう一撃だ」
僕はよろけた相手に追撃をかける。だが、そう上手くはいかず、左に避けられて、同時にナイフが僕とミストに投げつけられる。ミストは水上へと流し出して作り、ナイフは威力を弱める。
だが、その瞬間、奴はナイフを持って切りかかってくる。そこで、ウィンが上空から急降下し、その勢いで敵を切りつける。
そこで僕は、一旦距離を取る。
「間合いを取ったか」
奴は改めて僕に視線を向ける。そこにはミストはもちろん、ウィンもいた。
「一気に決着とさせてもらおうか。ウィン、いいね」
「ああ」
ウィンは風となり、僕の剣に纏わりつく。
それを見た相手も風の呪文でナイフに風を纏わせる。
「いくぞ」
相手がこちらを目がけて駆けてくる。僕もそれに応じて、駆け出す。そして、互いの距離が近まり、あと少しで僕の剣の範囲内となる。敵はそこで更に加速する。こちらより早く一撃を加えるために。一方の僕は――剣を振ろうとしなかった。
そして、いきなりミストが霧と化し相手の視界を奪う。
「何っ」
相手は驚きながら、がむしゃらに前へとナイフを振り切った。だが、僕はそのとき右へと飛び退いており、奴の攻撃は空を切る。そして、僕は横から風を纏った一撃を加える。そして、相手は吹っ飛び、岩へとぶつかり、気絶したのだった。
「ふー、何とか終わったか」
僕はその後、相手の手当てと捕縛を済ませて、研究所へと連れて行った。後の対処は向こうに任せるとしよう。
そして、依頼を果たしにリーサ研究員へと会いに行く。
「これをタリスさんからの依頼で持ってきました」
「ええ、ありがとうございます、大変だったでしょう、この辺り治安が悪いから」
本当に大変でした、という言葉は飲み込み、適当な返事をする。うん、時に本音は黙っておくべきものだろう。
「ところで、その魔法玉ですが」
仮にも研究所の道具だ。見ておく価値はあるだろう。それに、もし機密ものだったら――絶対追加請求してやる。あの青ターバンの男程度だったらまだしも、もっとやばい奴らに狙われた可能性だってあるのだから。
「では、こちらに来ていただけませんか」
そう言ってリーサ研究員は奥の方へと歩き出した。僕はその言葉に従って付いていく。
そして、ある部屋へと入る。そこには庭が広がっていた。リーサ研究員はそこに魔法玉を埋めて、呪文を唱える。すると、魔法が開放され、無数の芽が出た。
「この場所では、少ない養分で成長を促進する呪文を研究しているのです。この辺りは見ての通りの荒地ですから」
なるほど、と僕は相槌を打つ。この一帯は不毛な土地だから、豊かにするにはその手の呪文が必要だ。
「タリス研究員も協力して下さっていましてね。まだ研究段階だから、狙われる可能性は低いと思っていたのですが」
「まぁ、研究所からの依頼だったので、これぐらいなら覚悟してましから、大丈夫です」
本当は少し慌てていたけど。
でも、研究段階の上、強力な呪文というほどではない以上、あの男の行動は偶然と見なせるぐらいか。武器に転用しづらいし、それに未完成品だから、追加請求の必要はないな。
「それと、ゲートの使用許可は取ったので使って下さい」
「え、本当ですか、ありがとうございます」
よし、これでもう一度あの道を通らなくて済む。さてと、帰ってゆっくりするとしようか。
僕らは好意に甘えて、レクス研究所のゲートを使って、基地にしている小屋へと戻る。そこからライグスシティの魔法研究所へと向かい、タリスさんから報酬を受け取る。これで依頼は無事終了。
そして、もう一度小屋へと戻り、ゲートを通って家へと帰り、今回の旅を終えるのだった。
「ふー、じゃあゲームして遊ぶぞ」
「裕也、俺も混ぜろよ」
僕らはお菓子を広げて机に置き、ゲームをしてゆっくり過ごす。仕事の後の休息は何と楽しいものなのだろうか。
でも、何か忘れているような……。
「裕也、宿題しなくてもいいのかなぁ。たくさん出されているって言っていたけど」
翌日僕が叱られたのは言うまでもない。
ep2はおそらく9月頃投稿開始。それまでにssは書くかもしれませんが。