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ep1-3

やはり裕也は今回も逃げます。追うものと追われるものと。

 その後もミストやウィンの能力を使って僕達は逃げていくのだった。

「……まだ、まともに戦闘してないぞ」

「目指せ、戦闘回避百パーセント」

 できるなら戦いなんてせずに済ましたいのが本音。というより、こんなところでまともに戦っていたらもたない。今でこの山の三分のニほど過ぎたところだけど、既に十数回程追剥と遭遇している。下手に戦って疲れるよりも、楽に済ませたい。この一帯の盗賊退治の依頼を受けたなら別だけど。受ける気はないけど。

「あー、もうイライラするぜ」

 とはいえ、研究所で着いてから少しぐらい退治しようか。こいつのストレス発散のために。

「ボクは逃げるだけで十分刺激があって楽しいけどな」

「戦闘好きだからね……」

 戦いが本能の一部なんだろうな。精霊獣ではそういうのも多いらしいけど。

「そこのガキ、荷物を置いてけや」

 僕らが雑談していると、また一人、追剥が現れた。面倒くさそうなのを隠さずに僕は剣を出現させる。

「ミスト、ウィン行くよ」

 その言葉に反応し、二人は臨戦態勢に入る。

「精霊獣使いか、そんな貧弱なのは俺の敵じゃねぇな」

 図体がでかい山賊は斧を持ちながらニヤニヤ笑う。

「確かにあなたの敵じゃないかもしれないかな」

 だってこちらは戦う気がない訳だから。

「それは素直な心がけだな。何、命まで取らねぇよ」

 機嫌よく返事をする山賊。その機嫌も僕の返事ですぐに悪くなるだろうけど。

「でも、荷物を置いていくのは嫌なので、どうぞかかってきて下さい」

「馬鹿な選択をしたな。そんなひょろい体で勝てるとでも思ってんのか!」

 案の定怒った山賊は斧を振り上げてこちらにやってくる。それと共にミストは霧となり、視界が悪くなる。

 僕はいつも通り山賊の横を擦り抜け、そして、そのちょうど山賊の右後ろ辺りで、右に体を向けながら、後ろへと飛びのいたのだった。

 そして一陣の風が辺りに吹き荒れる。


「なんだこれは!」

 山賊が切り刻まれる中、僕はミストを水と化して纏い、その威力を軽減した。

「防いだか」

 言葉と共に大きな岩の陰から現れる不振な人物、顔は青いターバンで巻かれていて見えない。薄汚れた灰色の服装と相まって、危険そうな印象しか受けない。

 後ずさりして、相手との距離を置きながら、僕はその人物に質問を投げかける。

「誰、と聞いても答えてくれませんよね?」

「無論な」

 奴は僕の質問に間髪入れず返事し、じりじりとこちらに近づいてくる。

「じゃあ、冥土の土産に目的ぐらいは教えてくれませんか?」

「魔法研究所の荷物、とだけ言っておこう」

 それはまた面倒だな。ただの追剥ならば、標的は誰でもいいので遠くまで逃げれば助かるかもしれない。しかし、標的が荷物ということならばくれてやる気がない以上、しつこく折って来るのは間違いない。

 とりあえず、今はすべきことに集中するか。

「ウィン、風を巻き起こせ!」

「了解だ!」

 ウィンは風を起こし、辺りは一体砂埃で見えにくくなる。更にミストが霧を発生させ、視界は最悪となる。これまでは、視界の悪さで奇襲を受けることもあったが、それを逆に利用した形となった。

 そして、僕は記憶を頼りに奥の道へと走り出す。

「やはり逃げるか」

 青ターバンの男は呪文を唱え、強力な風が音を立てて砂埃、水蒸気を共に吹き飛ばす。

 そして、こちらを追うと共にナイフをこちらに投げつけて牽制してくる。僕はウィンに命じて風を起こさせ、その勢いを弱め、ナイフは地面へと落ちる。

「ウィン、適当にどこか逃げ込めそうな場所に誘導しろ!」

 ウィンはバサバサと羽音を立てて飛んでいき、視界から消えていく。 ウィンが戻って来るか、それとも奴に追いつかれるかどちらが先になるかな。

 

 なんとか岩を避けて、必死に逃げる僕。その後ろには、軽々と移動しながら、こちらに来る青ターバンの男。

 現在、敵との距離はまだある。先に走り出した分と、奴が呪文を唱えた時間の分、猶予はある。が、いずれ追いつかれる可能性は十分にある。ましてや、山賊とかが現れたら逃げ切れないだろう。

「チッ、逃げ足の速い奴だ」

 再度ナイフが投げられる。対してミストは僕の肩に乗り、ナイフの方に水を押し出す。ナイフは勢いを失う。

「ならば、これはどうだ」

 奴は走りながら風の呪文を唱えた。その風はミストの水では防ぎきれず、弱まりながらも僕達を切り刻む。

「裕也、大丈夫?」

 よろめいた僕にミスとの心配そうに聞いてくる。

「問題ないさ」

 僕は元気よく答え、体勢を立て直して走り出した。 しかし、奴はすぐ後ろまで来ていた。

「終わりだ」

 この距離ではナイフを投げつけられれば回避することは無理だ。戦うしかないか。

「裕也。こっちだ!」

 そのとき、前方を飛んでいたウィンが戻ってくる。

「逃げられると思うな」

 青ターバンの男は再度呪文を唱えようとする。

「そうはさせるか」

 ミストは球状の水を発生させ、それを相手にぶつけた。それにより詠唱が中断される。

「ナイス、ミスト!」

 僕はミストを魔法石に戻して、ウィンにつかまり、そのままウィンは上空へと飛んでいく。

「くそ」

 ターバンで顔は見えないが、いらつく様子が窺える

「裕也、もうすぐだぜ」

 次第に崖が見えてくる。少し遠回りするだろうが、あそこをウィンで飛んで着地すれば逃げ切れるだろう。僕達はその崖を降りていった。

「くそ、逃がすか」

 青ターバンの男は崖の上から風の呪文を放ってくる。しかし、ウィンはその攻撃をなんなくかわしていった。

 

 崖の下に降りてからは山賊とかの追剥にはあったが、今のところ、青ターバンの男とはあわずに済んでいる。

 遠回りをすることになったこともあり、日が暮れていく。僕らはそこらを探して、ちょっとした洞窟で夜を過ごすことにした。

「はぁ、結局一晩過ごすことになったか」

 溜め息を吐く僕に対して、ミストがフォローを入れてくれる。

「仕方ないよ。いきなりあんなのが襲ってきたら、無理に戦うのをやめておいた方が無難だし」

「それにしても、奴の狙いの預かり物は何なんだろうな」

 ウィンが声を荒げて話す。

「まさか、あの研究員に何か厄介な物を押しつけられたんじゃないのか」

 僕は首を横に振る。

「それはないと思うよ。機密のある物にしろ、危険な物にしろ、会ってすぐの人にそんな物を渡すとは思えない。とりあえず、届け先で確認するとしようよ」

 そう言って僕は寝始めた。おそらく明日対峙することになる敵を浮かべながら。


後1話でep1は終了の予定。

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