ep1-2
2か月空けてしまった……。すみません、とりあえずできるだけ早めにep1を終わらせるように努めます。
夜が明けて僕達は一度例の小屋に戻った。研究所のゲートを使えれば楽にアライエス地方に行けるんだけど、今回は一研究員の依頼であるため使用許可が下りるのに時間が掛かることになるだろう。なので、小屋の魔法陣から向かうことにした。
「さてと、では行くとするか」
僕は魔法陣の前に立つ。
「開け光の扉よ。険しき山々が広がる彼の地――アライエス――へと道を繋げ。」
魔法陣から溢れ出る光に僕らは飛び込む。光の先には大きな扉があり、そこをくぐると、簡易な検閲所に出た。勿論そこには門番もいる。
「あ、これが許可書です」
僕はそう言って門番に一枚のカードを見せた。
「ユウヤ・ヒビキさんですね。少しお待ちください」
検閲が済み、僕は料金を支払って出る。
この世界では移動呪文が施されたゲートと呼ばれる扉が各地に存在し、長距離移動の場合、それが主な移動手段となる。とはいえ、犯罪者や他国の軍隊が好き放題移動されては困るので、国家がこのような検閲所が設けられたり、一度に行けるのは数人程度だったりと、対策が取られているのである。
まぁ、何事も例外はある訳で、僕が使用している魔法陣のように個人が所有しているものもあるし、国家内の移動の場合、大規模なものが用意されて場合もある。
検閲所を出て北へ十数分ほど歩くと、山岳地帯へと出た。ここを越えればレクス研究所がある。だが、この一帯は見晴らし代わり場所が続くと聞いている。そして、ここら一帯を拠点としている山賊もいるという話だ。
「気にしても仕方がないな。ミスト、ウィン行くよ」
そして、二匹に魔力を与えた。何があってもすぐに対応できるように。
「石ばかりで歩きづらいな。舗装までは望まないけど、できるだけ平坦なほうが楽なんだけど」
「まぁ、仕方ないよ。アライアスだし」
そこらに散らばっている石や起伏ででこぼこしているため、歩きにくくしている僕に対して、ミストはすいすい歩いていく。一方、ウィンは僕の肩に乗って暇そうにしている。
「それにしても面倒な場所だな」
周囲は荒地で木こそないが、起伏にとんだ地形で、岩がごろごろ転がっている。聞いている通り厄介な場所だ。地図によると、崖に挟まれた場所や、吊橋を通らないといけない所もあるとか。
ひとまず山賊の姿は見ていない。できるだけ楽に行けるのに越したことはないが。
「そこの少年、身包みを置いていってもらおうか」
やっぱり出た。
現れた男は黒ずんだ鉄の鎧を着ており、腰には剣を差しているのが見える。傭兵崩れといったところか。さて、どう「対処」するか。
「悪いけど、お断りします」
僕は呪文を唱える。
「青き水の刃よ、今一度我が手に」
すると、青い龍のペンダントが水の塊となり、抜き身の剣を形作る。これがこの剣の秘密である。このペンダントは魔力が形作って存在し、それを瞬時に武器へと変化させることができるのだ。僕はそれを握り、傭兵崩れの男と対峙する。
「魔法でできた剣か。また珍しい。高く売れそうだな」
男は感心しながら剣を抜く。
「奪えるものならですけどね」
「では、そうしよう」
その言葉を皮切りに男は突っかかってきた。僕はそれを左に避ける。すると、男は向きを変えて追い討ちをかけてくる。僕は飛びのいてかわす。
「どうした、逃げているだけでは勝てんぞ」
そんなことは言われるまでもなく分かっている。既にどう「対処」するかは考え済みだ。
「ミスト!」
その言葉に応えて、ミストは霧状化し、周囲は霧に包まれる。
「なるほど、霧にまぎれて攻撃するつもりか。そう簡単に上手くいくと思うなよ」
そして、彼は剣をじっと構えて集中した。こちらの攻撃に備えるために。その行動は間違っていないだろう。仮にこちらが攻撃を加えるとすれば、だが。
僕らは集中している男を擦りぬけて、遠くに去っていくのだった。
「先が長いのに、わざわざ戦って疲れたいと思うもんか」
「……まぁ、な」
ウィンが呆れる一方で、僕は機嫌よく逃げていくのだった。
「有り金、全部いただくぜ」
崖に挟まれた道を進んでいると、突如岩陰に隠れていた山賊が現れた。まぁ、よくあることだ。
「謹んで、お断りさせていただきます」
ぺこり、とお辞儀する僕。まぁ、当然そんなことを言っても許してくれる訳ないはずで。
「じゃあ、死ね!」
前後左右から一味が襲いかかって来る。
「よし、裕也! 応戦だ! バトルだ!」
「謹んでお断りさせていただきます」
だって、面倒なのは嫌だし。
「ウィン、空に逃げるよ」
「へいへい」
ウィンは渋々ながらも空に飛び上がり、僕はミストを水の魔法石に戻した後、その足にぶら下がった。
「誰が逃がすか」
そう言って何人かの山賊が矢を射ようとする。僕は風の呪文を唱えてけん制し、ウィンに左側の崖の上に逃げ込ませた。そして正面に現れる数人の男。
「残念だったな。上に誰もいないと思って……」
僕は着地と共にウィンを風と変え、その風の一部を剣に纏わせて斬撃で飛ばす。油断していた相手に直撃する。
「不意打ちとは卑怯な!」
いや、それは山賊のセリフじゃないだろ、というツッコミは置いておこう。僕は相手が怯んでいるうちに僕は右へと向きを変えて走り出す。
「貴様、挙句の果てに逃げるのか」
当然追いかけてくる山賊達。もちらん崖の下の奴らも退路を塞ごうとする。
「悪いけど、そっちの都合は無視させてもらうよ」
僕は再度風を前方の崖に目掛けて飛ばす。その風は岩盤を切り刻み、岩が崩れ落ちる。そして、ウィンを鷹の形態へと戻して、崖崩れの奥の山道へと飛んでゆく。
「では、失礼します」
そう言って僕はそのまま去っていった。
飛ぶ手段がない山賊達は崖の下は崖崩れで道がふさがれ、上からは降りるのに時間が掛かり、追いつくことはできなかったのだった。
「なぁ、あんなに崩して大丈夫なのか」
「他に山道があるし問題ないよ、きっと」
深いことは考えても仕方がないだろう。まぁ、命が懸っていたんだから良いよね、たぶん。
意気揚々と進む裕也達の後ろに忍び寄る一つの人影。
「あれが、例の奴だな。大したことはなさそうだな」
そう呟いていると、背後から怒鳴り声が響く。
「貴様、何者だ! まぁ、いい。身ぐるみ置いて……」
その刹那、風が山賊の首が切断をした。
「どうやら、先に掃除をしないといけないようだな」