ep1魔法研究員の贈り物-1
響裕也はこちらの世界ではユウヤ=ヒビキ。漢字文化圏でないので。
魔法陣の光の向こうに着くと、そこは古びた木造の小屋の中である。こちらでの僕の活動拠点である。
とはいえ、ここにいることはあまりない。大きな仕事の際に話し合いに使ったり、たまに知り合いが訪ねてきたりするぐらいである。ここを事務所とかにしていたら別なのだが、常駐している訳ではないので、それをすることはできない。
「さてと、どこに置いていたっけ」
という訳で、基本的には武器とかあちらに置いておけないようなものの置き場として使っている。現在はとある忘れものを探しているのだが。
「うーん、見つからないなー」
布団が置いてある部屋の方を探していたミストの声が聞こえる。僕は居間を、ウィンは物置となっている屋根裏の方を探している。」
「裕也、あったぜ」
ウィンが翼で青いペンダントを投げつける。
「サンキュー」
僕はキャッチしてそれを首にかける。
ペンダントは翼を持つ龍の形をしている。繊細できれいな線が彫られており、一流の職人が作ったものと遜色しないようなできである。また丈夫であり、少なくともこれが欠けるようなことは一度もない。
実はこのペンダントにはとある秘密があるのだが、それはまた後で説明することにしよう。
「ったく置き忘れるなよ」
「ごめん、ごめん。ちょっと本を見ていたときにはずして、ついそのままにしちゃって」
怒るウィンに、僕は笑って謝る。
「とりあえず、これで準備OKだね。後は必要なものを揃えて出発しよ」
ミストがにこやかにほほ笑みながら話す。ウィンと違って、こちらは単純に見つかって喜んでいるみたいだ。
「そうだぜ。オレ達はあんな狭いところに居て窮屈だったんだからな」
今回はウィンの言い分ももっともなことだろう。
そうして、僕達は必要なものを整えて近くにある街の方へと向かうことにした。
街に着いた僕達はギルドに一直線に向かう。
この街は商業都市で、また、門でのチェックも軽くすむ。そのため、商人や旅人はもちろん、賞金稼ぎや犯罪者もよく入り込んでくる。良くも悪くも、人が集まり活気のあるという訳だ。
そういう訳で、冒険者ギルドも賑わっており、僕もお世話になっている。
「さてと、着いたな」
ここのギルドは酒場を兼ねている。バーに注文してから、どのような依頼があるか、リストを確認するのが通例だ。国や領主からの依頼ならば、玄関から向かって正面の掲示板に載ることもあるが、その場合、賞金首や特別な遺跡の調査、護衛の仕事などが主で、長期に渡ることが多いので、僕はあまり活用していない。
また、店には冒険者やバーテンダー、ギルドの役員以外にも、ギルド公認の情報屋もいる。そして、この世界では賞金首も冒険者ギルドが取り扱っており、そのため賞金稼ぎも来ている。
僕はそのまま直進してバーの方へ向かう。
「ミルクお願い」
「あいよ」
別に未成年の禁酒は決まっていないのだが、一応自重している。というか一度勢いで飲んだことあるけど、普通に酔いつぶれたからな。うん、大人になるまでやめておこう。
「それと、これはユウヤに来ている依頼だ。渡して置くぜ」
「ありがとう」
そう言ってバーテンダーから一枚の紙を受け取る。僕の場合、常にこの世界に居る訳ではないので、ギルドの方に預かってもらっている。僕に限らず、他の世界に住居を置いている人の場合、ギルドに預かってもらうことが多い。
「で、どんな依頼だ、裕也」
逸るウィンが確認してくる。なお、こちらの世界では精霊獣の存在は当然で見えない人の方が少ない。なので、当然彼らを魔法石から出している。
「ちょっと待って。えっとライグスシティの魔法研究所の研究員からの依頼みたいだ」
「魔法研究所からの依頼?」
ミストが不審そうに聞いてくる。研究所によっては、ドラゴンの牙が欲しいとか、カーバンクルを捕まえてこいとか、厄介な依頼の場合があるからだ。
「この前知り合ったタリス研究員からだよ。個人的な贈り物で、送り先はアライアス地方のレクス研究所だって」
タリスさんはたまたま魔法石の採掘所で知り合った人で、何か頼みたいことができたら、依頼の手紙を送るって言っていたっけ。
「アライアスのメインゲートへの移動呪文は知っているし、今日研究所行って、明日ゲートを通じて行けば、レクス研究所まで一日あれば充分かな」
ウィンがその言葉を聞いてニヤリとする。
「じゃ、決定だな」
僕も笑って言葉を返す。
「うん。そうだね」
僕はバーテンダーに情報料としてのお金を渡し、ギルドを出た。
研究所に行って、事務員にタリス研究員の呼び出しを頼む。
夕暮れの中、外のベンチで待つこと十数分、タリス研究員がやってきた。
「ユウヤ君良く来てくれたね」
タリス研究員は茶髪緑目で穏やかな雰囲気の人である。年も若く、研究員としてはそこそこの業績も挙げているらしい。
「で、依頼についてなんですが」
「ああ、これをレクス研究所のリーサ研究員に渡してほしいんだ」
そう言って手のひらサイズの橙色の魔法石を僕に渡した。魔法石には、何か紋様が浮かんでいた。魔法を入力してあるのだろう。橙色ということは、おそらく木属性といったところか。
「了解しました」
「あの採掘所での見せてくれた腕前があれば大丈夫だろ。ちょっとばかし厄介なところだけど、頼むね」
「はい」
その日はすでに暗くなりつつあったので、近くに宿を取り、そこで夜を過ごした。
ペンダントの秘密は次回出す予定です。この小説ではあまり伏線を張ることもないはず。(だって短編集予定だから)