表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/15

第8話   手掛かりの真実は、――唯一の『プルーバー(観測者)』




ガタゴトと、ほぼ一定のリズムで馬車が揺れる。


窓の外には、見たこともないほど澄んだ青空と、どこまでも続く深い森が広がっていた。

(……本当に、来ちゃったわね)


私は豪華な座席の感触を確かめながら、数日前のあの午後のことを思い出していた。


すべては、あの埃っぽい書庫から始まったのだ―――。



ブックトローリーワゴン(と、言ってもこちらの世界の本は大きく重たいのだろう、ほぼ『台車』と呼ぶべき頑丈なワゴン)に数冊の古書を積んで、書庫の椅子に座る私とハイメの所へローランツが戻ってきた。


「お待たせ。魔術関連の文献をいくつか漁ってみたよ。それじゃ手分けして探してみようか」

そう言って、腕まくりをしたローランツは私とハイメに一冊ずつ古書を渡し、私達は、そういった記述がないか調べることにした―――。


パラ、パラと紙を送る音だけが静かな書庫に響く、書庫の空気は知的好奇心で満ちていた。私たちは三人がかりで、分厚い古書の海に飛び込む。人族の歴史、精霊の分布、そして召喚魔術の基礎―――。


だが、調べれば調べるほど、私はある種の「違和感」に喉を焼かれることになった。


「……駄目ね。召喚の基礎を記した『白印ハクイン』という項目は見つけたけれど、肝心の魂の転生、肉体の転移に関しては記述が皆無だわ」

ハイメが溜息混じりに本を閉じた。

(召喚はあるのに、転生はない。魔法はあるのに、物理法則は中途半端に生きている。……何なの、この整合性のなさは)


思考の霧を切り裂いたのは、ローランツの何気ない提案だった。


「そうだ、シャロン。転生や転移、召喚といった魔法絡みの高度な事象は、やはり魔族に聞くのが一番の近道かもしれないね。僕たち人族の研究は、残念ながら本家本元には遠く及ばない」

ローランツの提案に、私は商社マンとしての「情報収集のイロハ」を思い出す。餅は餅屋、魔法は魔族だ。


「そりゃそうですね。魔族か……。でも、そう簡単に魔族の方達と接触できるものなんですか?」

落胆して肩を落とす私に、ローランツはにこやかに歩み寄って来た。


「なら、いい集まりがある。―――『ベルンツ』だ」

「ベルンツ?」


「ああ、人族と魔族が唯一、対等に交わるための交流の場さ。やはり、高度な魔法事象は、魔族に聞くのが一番の近道だ。詳しくは後で話すとして、そこで有力な魔族と繋がりを持てれば、彼らの持つ秘匿(ひとく)された文献や歴史書に辿り着ける可能性は非常に高いと思うよ」

その言葉に、私の目が輝く。


「そうですね、知り合いになった魔族の、その人たちを通して、文献や歴史書などから情報を得るのもひとつの手ですね……」

足を使った泥臭い情報収集なら自信がある!商社時代に嫌というほどやってきたんだ。


「明後日?……いや、もう少し先、だったかな。近々開催されるはずだ。調べておくよ。……もし参加するなら、僕も『信頼のおける筋』に頼んで、君を全力でサポートさせるし、安心していい」

「それは……本当に、助かります!」


一旦、書庫での文献探しは後にして、今後の進め方について、私たちは入念に打ち合わせた。ローランツとハイメの温かさに触れ、私の心は確かに救われつつあった。


けれど、そんな二人にも、どうしても口にできない―――いいえ、口にしてはならない「手掛かり」に、私は独り、辿り着きかけていた。それは―――、


(……この世界、あまりにも『出来すぎ』ていないかしら?)


かつてのワンルームで、あの不思議な光に包まれる直前の記憶。


脳裏に薄っすら浮かんでは消える、あの長ったらしいWeb小説のタイトルを必死に反芻(はんすう)する。


「魔族」、「嫌われ半魔」、「300年前」、「魔王子」、「アルテナ」、そして「プルーバー……」。


それらの言葉を思考の中で乱雑に並べ置いた瞬間、私の脳裏にあの長ったらしいWeb小説のタイトルが、稲妻のように(ひらめ)いた。


確か、……【Web小説から始まる恋物語。『嫌われ半魔の娘に花冠を……』】だったような……。


あの時、画面越しに失笑した「ありがちな設定を匂わせるタイトル」と、その後のあらすじの冒頭が「Web小説の新着を読もうとしたら突然、光に包まれ小説の中に迷い込んでしまった私」と書いていたはず……。


そして、ここは魔法が存在し、魔族が歩く、私たちの世界ではあり得ないほど都合の良い法則に満ちた世界。


ここは本当に、悠久の時を経て自然に生まれた世界なの?


それとも―――誰かの夢か、あるいは書き上げられた『空想の物語』の内部なのか?


(もし、後者だとしたら……)


背筋に冷たいものが走る。


(ああ、そうか。ようやく繋がったわ)


書庫の片隅で、私は震える指先を隠した。


人族の文献に「転生」の記述がないのは、当たり前なのだ。なぜなら、ここは悠久の時を経て生まれた自然な世界などではない。


誰かの指先によって「設定」され、書き上げられた、文字の箱庭―――『物語』の内側なのだから。


私は今、文字の羅列で構築された「設定」という名の檻の中に放り込まれている。そして、その設定を知っている私は、この世界で唯一の『観測者プルーバー』ということになるのでは?


私がページをめくるのを止めない限り、この世界は現実として動き続ける。


女神アルテナが言った「私にしかできないこと」の答えは、この物語を「観測」し、歪んだ結末を書き換えることにあるのではないか。


(まだ仮説。でも、確信に近い……はず)


この世界の「向こう側」を知る、唯一の異分子として。この物語の結末を知り、観測し、書き換えることができる唯一の『プルーバー(観測者)』なのかもしれない。


あの日、書庫で抱いた不気味なほどの確信。


それは、巨大な岩場に見つけた、指先さえかからないほど小さな窪みだった。


けれど、私はそれを見つけた。


その窪みこそが、私がこの世界を攻略するための唯一の手掛かりだ。



―――馬車の窓から過ぎゆく森の風景を、焦点を合わせずに眺めていた。


「シャロン様、顔色が優れないようですが、大丈夫でしょうか?」

向かい側に座るアイラが、心配そうに覗き込んできた。


「ええ、大丈夫よ。長い間、馬車に揺られ疲れたのと、少し考え事をしていただけ」

私は努めて穏やかに微笑む。


「……ううん、絶対に緊張してる顔です! 大丈夫ですよ、シャロン様!私がついてますから!!」

アイラは鼻息荒く胸を叩くが、根拠のない自信だ。だが、その真っ直ぐな熱量は今の私にはありがたかった。


馬車は林道を抜け、石畳の街並みへと入る。


速度を上げた車輪の音が、人族と魔族の交流の地『ベルンツ』が近いことを告げていた。


   最後までお読みいただき、ありがとうございます!


もし「ちょっと、続きが気になるかも?!」と思っていただけたなら、下の【☆☆☆☆☆】から★で、この作品を応援してもらえると嬉しいです!


「面白い!」という方は★5つ、「期待外れ」という方は★1つ、もちろん正直に、感じた気持ちで構いません。


あわせて【ブックマーク】で、二人の行く末を最後まで見守っていただけると、なお嬉しく、執筆の励みになります!!


皆様のリアルな反応が、シャロンたちの物語を空高く押し上げてくれる【翼の羽】となります。


【予告:40話付近のサプライズ】

実は、第40話を超えたあたりで『大きな仕掛け』を用意しています。

この世界がより深く、切なく繋がる「特別な体験」をお届けできるはずです!


毎日【21:20】に1話ずつ、完結の100話まで一気に走り抜けます。


次回更新もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ