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第6話   憧れの世界(異世界)と私の駄目能力(ヘボ加護)




「これがシャロンの身に起きたことの全てよ。今度はあなたのことを……って、ちょっと! どうしたの?」

ハイメは私の顔を見るなり、驚いてソファから立ち上がり、隣に座り直した。


「ご、ごべんなざぃ……ううぅ、ひっく……」

鼻水と涙でぐちゃぐちゃになりながら、私はしゃくりあげた。


「もぅ、しょうがないわね。あなたが泣くことではないでしょうに」

ハイメが優しく差し出してくれたハンカチで顔を覆う。


―――関係ない。


確かにそう。私はただ、この体を借りているだけの赤の他人だ。だけど、そう自分に言い聞かせても、思わず感情移入してしまい、胸の奥から溢れ出す感情を止められなかった。


「だって、もし私が、その場にいたら、シャロンの味方をしてあげられたのかなって?私は、彼女を怖がらずに友達として話ができたのかなって?そう思ったら……」

「……」

ハイメは、黙って私の話しを聞いてくれた。



『真心』の加護。


それは嘘を暴き、本音を(さらす)す。


「本当のことしか言わない。今、思っていることをそのまま話してくる人を前に、自分都合で噓を言うような私のことを友達と呼んでくれるのかな?」


そう、きっとみんな、シャロンが怖かったんじゃない。彼女を鏡にして、自分の中の『汚い部分』を突きつけられる。嫌な自分を見透かされる、えも言われぬ恐怖を感じてしまうんだ。


適当に同調し、自分を取り繕って生きてきた私。もし前世の私がシャロンに出会っていたら、やっぱり彼女から逃げ出していただろう。


――その残酷さが、十歳にも満たない子供にどれほどの絶望を与えたか。考えるだけで、胸が苦しくなる。


余計なことを言ってしまうこんな加護を背負うにはあまりにも荷が重すぎるし、幼すぎる。


ハイメもまた、同じ後悔を抱えていた。


しばらく経って、シャロンの引きこもりを知ったハイメは、いたたまれずに会いに行き、その時のことも少し話してくれた。


―――ハイメと面会したシャロンは、ほんの少し顔がほころんだようにも見えた。


けれど、すぐ元の「人形シャロン」に戻ってしまい困惑したという。


両親もこんな感じのシャロンに手を焼き、どうやら放置していたようだ。


見るに見かねたハイメは、子供のいない自分たちの為だと言って、シャロンを養女として迎えたいと、弟夫婦に申し出た。


そんなに簡単な問題ではないのだから時間をかけて、と思っていたら、あっさりと受け入れられたのだ。


それは、娘の幸せを願う譲歩ではなく、厄介払いができるという歓喜に近い承諾だったという。


もちろん、住む場所や環境が変われば、シャロンにとっていい刺激になるのでは?と、いうハイメの心使いではあった。


環境が変われば、何かが変わるかもしれない。そう願ったハイメの優しさは、皮肉にもシャロンに「親からも捨てられた」という決定的な傷をシャロンに与えたのかもしれないと後悔もしたそうだ。


こうして、シャロンがローランツとハイメの養女になり、ここで一緒に暮らすこととなった。


しかし、シャロンは、実家からわざわざメイドふたりを連れ、自分の世話は全てふたりに任せ、それ以外の人との接触をかたくなに拒んだという。そのメイドふたりこそ、さっきのアイラとナタリーというわけだ。


ここへ来てからもシャロンは相変わらず食事も部屋でとり、一日の大半を庭の見える窓で過ごしていたという。そう、まるで窓際に置かれた人形のように。


こうしてシャロンは、実家から連れてきた二人のメイド――アイラとナタリーだけを唯一の壁にして、この屋敷の窓際で、感情を失った『お人形』として時を止めてしまう。


こんな日々が、何年も何年も続きはしたが、ハイメはシャロンの幸せを願い続け、本当の意味で彼女の母親になると、心に誓ったようだ。



「話が長くなったわね。ごめんなさい」

「いえ、私も少し落ち着きました」


「そう、あの子はもう行ってしまったのね……」

ハイメは唇を少し嚙んで、悲しみをこらえているのがうかがえる。


「どうしても、あなたがシャロンじゃないと思えないもので……。いえ、そうではないわね。私が信じたくないだけね」

寂しそうな横顔の彼女に私は、慰め一つ口に出せなかった。ハイメは唇を噛み、込み上げる悲しみを必死に堪えていた。


「実は、昨日あの子からこうなると話しがあったの。にわかには信じがたい話と思ったのだけれど、あの子の加護の性質上、嘘を疑うわけにはいかないから、言われた通りあなたに伝えるわね」

「えっ!?私に伝言ですか?」


「えぇ、伝言というか手紙なのだけれど」

そう言ってハイメがテーブルに置いたのは、封筒に「1」「2」と数字が振られているだけの二通の手紙だった。


私は一通目を開封し、そこに綴られた驚くべき「転生ガイドライン」に目を落とした。


要約すると、事態はこうだ。


シャロンは、女神アルテナの使徒として世界で唯一、アルテナの声が聞こえ対話できる存在であり、この『不思議な現象』(私の転生)はアルテナの力によるものだった。


そのアルテナの言葉をシャロンが手紙に綴ったそうだ。


1.この世界に起きる破滅的な事態に、異世界人である「私」が必要不可欠であること。

(……まぁ、そうよね。だから私が呼び出されたって事ね。けど、何で私?……あれ?でも、これから起きるって、未来予知か何か、なのかな?)


2.そのためには現地(この異世界)の肉体が必要であり、それはシャロンでなければならない。

(現地のサーバーにアクセスするには、正規のアカウントが必要ってことなのかしら?肉体はシャロン、中身は私……みたいな?だとするなら、まさに今、ログイン完了ね)


―――でも、これって肉体が必要ってことで、受肉、憑依もしくは転生は可能だったけど、私自身の転移は出来なかったってことなのかな?ん〜よく分んない。


3.一つの肉体に二つの魂は共存できない。そのため、元のシャロンは、これから生まれるどこかの子に転生させた。

(「行ってしまった」のは、死ではなく再出発だったんだ。少しだけ、胸のつかえが取れた気がする)


―――これは、ひとつの肉体に対して精神?魂?はひとつしか入れないって事かな?これもよく分からないや。


4.アルテナの加護『真心』は肉体に定着しており、引き続き発動すること。

(あの『思考ダダ漏れ機能=【強制本音吐露】』のことね。でも……今こうして考えている分には口に出ていない。発動には何か『トリガー』があるのかも?)


5.最後に、いらぬ騒動を避けるため、記憶喪失のシャロンとして振る舞い、異世界人であることはなるべく伏せておく方が良いこと。

(最後はアドバイスというか、これは厳命ね。情報漏洩は命取りになる……そんなの基本中の基本じゃない。わかってるわよそんな事!!)


「……読み終わりました。ハイメさん」

手紙を畳み、そっと机に置いた。


シャロンは、自分の居場所を私に譲り、新しい人生へと旅立った。そして私は、この『聖女もどき』の肉体を使って、破滅的自体に対処せよ!ってことなのね。


「『ふん!何が、いらぬ騒動よ!既にもう、あんたの騒動に十分巻き込まれてるじゃん!私!』」

(おっと、例のアレだ!)


私の心の蛇口がまた開いた。


(ん?……最後?!ちょっと待って!!帰る方法が書いてないじゃん!!!えっ?!もしかして、勝手に呼び出しておいて、そこは放置なの?)


一通目の手紙をもう一度開き、何度読み返しても。

どこにも「元の世界へ帰る方法」が記載されていないのだ。


(そうだ!!二通、ふたつ目があった!きっとそっちに「帰還ポータルの開き方」とかが書いてあるに違いない。なぁ~んだ、びっくりさせないでよ〜。もぉ〜、アルテナのおちゃめさん!)


期待に胸を躍らせて開封した二通目は……


これは元々ハイメ宛で、シャロンが書いたものを私が代読するように頼まれただけのものだった。


早速代読……。


するとハイメは膝から崩れ落ち、嗚咽(おえつ)を漏らして泣き伏してしまった。シャロンとハイメ、二人の間に流れた深い愛情が、文字の端々から溢れ出している。


――それはいい。それは感動的で、胸を打つ話だった!


「……けど、……二通目にも、帰る方法が書いてなぁぁぁぁいっ!!!」

私の絶叫が豪華な部屋に響き渡った。


(これって詰みじゃん!完全に詰んでるよね?)

私は、床に手をつき、しばらく呆然となった。


ハイメは、私が読み終えた手紙をくしゃりと胸に押し当て、まだすすり泣いていた。


(私も泣きたい……)


色々と煮詰まり、どこか理不尽さも感じたので思わず―――、


「ハイメさん、信仰神のこと、悪く言うので先に謝っておきます!ごめんなさい!」

「えっ……?」


キョトンとするハイメに背を向け、大きく息を吸い、私は腹の底から空に向かって怒鳴り散らした。


「こんな何の役にも立たないヘボ加護を押し付けたアルテナなんて、大嫌いいいいいいっ!!」

ふぅ~っ、と息を吐く。


「異世界転生なら、最強スキルくらい、よこしなさいよおおおおおおっ!!」

また、ふぅ~っ、と息を吐く。


「ハイファンお決まりの無双鉄板展開は、どこいったのっ?!忘れててんじゃないわよ!このポンコツ女神いいいいいい!!!」

もう一度、吐き出す。


最後に「フン!今さら文句言っても仕方ないんだけどね!!」と毒づいて肩を回した。


ハイメさんは、涙も引っ込むほど、ドン引きのご様子。


(……ったく!)


けれど、叫び終えると不思議と腹が据わり、少しスッキリはした。


帰れない。最強スキルもない。あるのは、思考ダダ漏れの「ヘボ加護」と、美貌だけが武器の「もどき」の肉体。

(い……いいわよ、やってやる、やってやろうじゃないの!)


叫び終えた私の心には、スカッとした爽快感と、それ以上に重い「現実」が居座っていた。


シャロンの手紙と、ハイメさんの説明。断片的な情報を繋ぎ合わせ、私は自分の置かれた状況を改めて「検分」する。


ここは私のいた世界の過去でも、遠い未来でもない。魔法が、魔族が、当たり前に存在する世界。


そう、つまり―――ここは異なる世界……。


   つまり異世界!!


召喚とは違う転生に近い感じなのかな?そこに私の精神だけが、強引にハッキングするようにこの子(シャロン)に上書きされた。精神の『転生』か……。


ミッション(呼び出された理由)の目的も、クライアント(女神)の意図も不明。


そして何より、最も重要な「帰還パス」(帰る方法)が不明。


そんなことを考えれば考えるほど怖くなって不安が爆発しそう……。


「はぁ~~……」

ハイメは、ようやく泣き止んでくれたが、魂が抜けたような顔で大きな溜息をつく私を、ただ無言で見守っている。


「……あの、ハイメさん。言った後で聞くのも何なんですが。女神様をポンコツ呼ばわりした罪で、異端者審問にかけられたりしませんよね?」


チョットだけ気になったので聞いてみたのだけど、ハイメにはスルーされてしまいました。どうやら、そんな不敬極まりない発言をする『シャロン』は、彼女の理解の範疇(はんちゅう)を超えてしまったらしい。

(うぅ、どうしよう……)


さて、この美しくも、嘘を許さない呪われた体で、私は、この先をどう生き抜けばいいのだろう?


そんなことを考えれば考えるほど、暗雲が垂れ込めるように、重い不安が私の肩にのしかかった。


   最後までお読みいただきありがとうございます!


もし「続きが気になる!」と思っていただけたら、下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援いただけると執筆の励みになります。「期待外れ」という方は、正直に★1つでも構いません。

あわせて【ブックマーク】で、二人の行く末を最後まで見守っていただけると嬉しいです。


皆様のリアルな反応が、シャロンたちの物語を空高く押し上げてくれる【翼の羽】となります。


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実は、第40話を超えたあたりで『大きな仕掛け』を用意しています。

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毎日【21:20】に1話ずつ、完結の100話まで一気に走り抜けます。


次回更新もお楽しみに!

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