第5話 世界に拒絶された「女神様のお人形」
心配そうに見守るシャロンの両親とざわめく周りの人たち。
皆、両膝を床に着け、胸の前で手を組んだシャロンにくぎ付けになっている。
しばらくして周りから光の粒がまるで雪のように舞い、シャロンへと降り注ぎ始めた―――。
「おぉ、何だ?!」
ザワ
「うわぁ~、綺麗!何、あの光?」
ザワ
ザワ
ザワ
「おい、おい!凄いぞあれは!!こんなの見たこと無い!」
「なんだ、まさかあれは……女神アルテナ様の『光の降臨』じゃないのか?」
「間違いない、伝承にある通りだ! 生きている間に拝めるとは!」
ザワ
「多分そうだ!スッゲ~!俺も見るのは初めてだ!」
確かにシャロンの周りに、さっきまでの光の粒だった物が次第に集まり始めた。
それは、幾重にも重なり光の環となってシャロンを包み込んだ。
光は収束しやがて、シャロンの身体に溶けるように入っていく。
「いよいよだ……加護の名が、下るぞ!」
―――、誰かが言った。
先ほどのざわめきから一転して、今度は場内 が、水を打ったように静まり返る―――。
老いた神官が震える手で分厚い経典をめくり、ある頁でその動きを止めた。
「…………加護の名は、『真心』」
皆、一様に顔を見合わせ、聞いたことのない加護にざわめきだした。
神官は片眼鏡を直すと、声を張り上げる。
「名は『真心』。光属性。女神アルテナ様の加護である!その名は知られるも、かつて顕現した記録の一切なき、伝説の加護なり!」
「「「おおおおおーーーーっ!!」」」
皆、歓喜の声を上げる。
顔を合わせホッとする両親。よく分からずキョトンとするシャロン。
周りからは、色々聞こえてくる。
「どこの娘だ?」
「アルカイドのところの末娘だよ」
「アルカイドのところの娘か! とんでもない奇跡だぞこれは!」
「スゲーーッ!あんな洗礼見たことねぇ」
「ほら、私の言った通りでしょ!あの子、あの歳でもうすでに精霊を宿してるって噂よ」
「ほう、それは凄いな」
「三歳で読み書きをこなし、学術書も理解しているという噂は本当だったんだな」
「まぁ、素晴らしい!」
「ところで、『真心』って何だ?誰か知っているか?」
「『真心』か……アルテナ様の力なら、世界を救う力に違いない!」
熱狂はさらなる憶測を呼び、事実に尾ひれがつき、理とは異なるところへとシャロンをどんどん追いやっている。
こうして、シャロンの洗礼式は称賛と歓喜の嵐に包まれ、他に類を見ないほどの盛り上がりとなり、シャロンは、幸せの階段を駆け上るかに思えた。
が、しかし―――、
その「加護」の正体が知れ渡ると同時に暗転する。
『真心』と言う加護がシャロンに顕現したことにより、今まで不確かな部分が明らかとなったのだ。
シャロンが授かった加護の『真心』とは ”真なる心” つまり噓偽りなき心の事で、嘘偽りを一切口にできないのと、想いがそのまま言葉となって溢れ出してしまうという性質だった。
当初「神話級」と謳われたその力は、その恩恵があまりにも貧弱で、あまりの利便性の低さと、社交界での不都合さゆえに、瞬く間に「低級」へと下方修正されてしまう。
そのせいもあり、世間の目は、シャロンに対し冷ややかなものとなっていく。
それでも人々は、光の降臨を受けたシャロンに対し期待を寄せてきた。
光の降臨は、「聖女の証」だからだ。
人というのは、こういう事に過剰かつ敏感に反応するものだから、当然シャロンの将来性から息子の嫁にと、もくろむ輩や地位や名誉目的に近づく者たちが後を絶たない。
「期待外れだ!」「聖女の皮を被った欠陥品ではないか?」
加護も期待したよりも大したことがなく、こうした欲望に日々さらされ、うんざりの両親も、しだいにシャロンの事をうとましい存在と感じるようになっていたのだ。
――そして、決定的な悲劇が起こる。
洗礼式を済ませた子供たちの、お披露目パーティーに参加したシャロン。
お披露目パーティーの最中。嫉妬に狂った子供たちの手によって、あのお気に入りだった水色のドレスは無残に切り裂かれ、乙女の誉れである、あの美しい亜麻色の髪は、嫉妬という名の錆びたハサミで無残に刈り取られた。
だが、皮肉にもシャロンの加護は、その犯人たちの罪を無慈悲に暴き、白日の下に晒すことになる。
加害者たちは断罪され、償いを強いられた。
けれど、それは同時に、周囲に「シャロンに関われば自分の闇まで暴かれる」という恐怖を植え付ける結果となる。
一人、また一人と、友人たちはシャロンを避けるようになり、大人は目を逸らした。
いつしか、シャロン自身も周りを遠ざけ殻に閉じこもってしまったのだ。
傷つき、辛かったはずの彼女に対し、寄り添う友人も気遣う大人でさえ、シャロンの周りにはいなかった。
ただの、ひとりもだ……。
この一件以来、シャロンは部屋に閉じこもり、心も閉ざしてしまった。
あの明るく元気だった彼女からは笑顔が消え、毎日無表情で窓の外を見る彼女は、いつしかこう呼ばれるようになる。
―――『女神様のお人形』と、
伝説の女神に最も近く、そして誰よりも愛を拒絶された、哀れな少女のなれの果て
……それが、シャロン。
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