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第2話   私じゃない私


      ・

      ・

      ・


     !!!


「クハーーーーーーーーッ!!」


掛けられていた布を跳ね除け、私は肺が破れそうな勢いで息を吸い込み、飛び起きた。


高いところから落ちる夢を見た時、体が「ビクッ」となるアレの、十倍は跳ねた自信がある。


「……何? 何だったの、今の……っ」


泥のように重い頭を抱え、必死に周囲を見渡す。


そこにあったのは、見覚えのない景色だった。


「えっ、ってか、……ここどこ?」


知らないベッド、知らない家具、知らない部屋。


「私、まだ酔ってるの?夢?……じゃないわね!?」


値踏(ねぶ)みの知識はないけれど、どれもが超がつく高級アンティーク的な物が置かれていることは何となくわかった。


今、私が眠っていたこのベッドだって……。


「いったい、何人一緒に寝れるのよコレ?!」


って、いうかチープな物がなにひとつ無い!


物珍しさから辺りを見渡していると、不意に手前のドアから控えめなノック音が3回した。


びっくりした私は思わず、「ハイッ!!」と、背筋を伸ばして反射的に返事をしてしまった。


もし、幼稚園の先生がいたら、良く出来ましたと褒めてもらえ、頭を撫でられる程の歯切れのよい、見事な返事だ。


身についた習慣とは、―――恐ろしい。


「失礼いたします」


ドア向こうから、元気そうな女の子の声がした。


扉が重々しく開き、メイド姿の少女が入ってきた。


「おはようございます。シャロン様。朝食の準備が整いました」


そう言って少し頭を下げてから、こちらへと向かってくる。


「お食事はどうなさいますか?いつものようにお部屋で取られますか?」


どう見ても私に話しかけてる。


「……シャロン様?」


明らかに私に話しかけている。


けれど、私の思考は別の場所へ飛んでいた。


「『ワ~ォ!コスプレ少女。初めて見た!』」

「は、はい??」


質問と違う答えに、少女は困惑に眉を寄せ、こちらを見ている。


「えっ?あっ!違うの!!『うわ~何言ってんの?この人!って、目をしてる!完全に初対面の人にかける言葉じゃなかったーーーーっ』ごめんなさい!!」


(ん?あれ?今の……、何だろう?この違和感!)


「あれ?!今、私、……」


慌てて手を口に押し当てる。


何かがおかしい!


さっきから思ったことが、そのまま口から滑り落ちている気がする。


メイド少女は、少し心配した様子で私に近づいて来る。


「大丈夫でしょうか?」

「えっ?あぁ~、うん。大丈夫!平気、平気」


『何が』大丈夫で、『どう』平気なのか自分でも分かっていないが……。


「えぇーと、私こそ、ごめんなさい。知らない間に、ここで眠っていたみた・い・・で?……」


そう言いかけた私は、まるで壊れかけのロボットみたいにゆっくりと固まってしまった。


「はっ!?」私は完全に凍りついた。


ベット脇のドレッサーの鏡に映る少女。


二十代半ばだった私より、少し幼いだろうか。


十代後半――、少女と呼ぶのが相応(ふさわ)しい危うい美しさだ。


美人だが、まだ幼さの残る少女が鏡の向こうで目を丸くしている。


「あ、あれ~~っ??????」


透き通るほどの白い肌に、光沢のある亜麻(あま)色の髪の少女。


今も、その吸い込まれそうなほどの深みのある瑠璃(るり)色をした瞳の美少女と鏡越しに目が合っている。


「!!こ、これは、……」


震える手で自分の頬を触れば、鏡の中の少女も同じ場所をなぞった。


「えっ?!どういう事?!一体、何が起きてるの????」

「……様!……ロンさ……」


メイド少女の声が遠く聞こえる。


状況は把握した。でも、理解が追いつかない!


混乱のあまり絶叫が喉までせり上がってきた。


「なんで私、別人になってるのぉぉぉぉぉぉぉぉ〜っ!?」


私は、腕を伸ばし、手の平と甲を交互に見てみる。


細く綺麗な手だ。


でも、それは―――、


私の手じゃない!


「シャロン様!!!」


チョット泣きそうな顔で覗き込むメイド少女のその声で、ようやく我に返った。


「シャロン様!大丈夫ですか?」

「あ、あぁ~、大丈夫……。じゃないけど大丈夫」


と、また支離滅裂(しりめつれつ)な返事をしてしまったが、メイド少女の声に反応したことで、彼女はようやく安堵(あんど)の色を浮かべた。


「本当だった。奥様の(おっしゃ)った通りになってる。あたし、ナタリーさんを呼んでくるのでちょっと待ってて下さいね」


そう言残すと、メイド少女は弾かれたように、一目散に部屋を出ていった。


静まり返った豪華な寝室。


私はひとり、自分の手を握ったり開いたりしながらじっくり見た。


いつもと変わらないくらい、しっくりくるけど、……この体は私じゃない!


「……一体、何が起きているのよ」


一人になったことで熱を帯びていた思考が、ようやく(なぎ)に向かう。


「え~っと、私、何してたんだっけ?」


頭はスッキリしているのに、なかなか思いだせないでいた。


「そう、お風呂!お風呂上がりにアイスを食べて、スマホで……そうだ、WEB小説を読もうとしたんだ。そしたら、いきなり画面が光って……光って……って、ダメだ!!全然、思い出せない!」


そこから先の記憶がない!


まるでハサミで切り取られたように存在しない。


気がついた時には、もうベッドにいて、


―――この美少女『シャロン』として目覚めた。


「ちょっと待って!これって、もしかして、WEB小説でよくある()()なわけ? 私―――、転生しちゃったの?それともこの子に憑依したってこと?ううん、そもそも、今のこの記憶が前世の記憶だったりする??」


ダメだ!色んな事が頭の中でグルグル回ってる!!


「んーーーっ!全然分かんないっ!!」


だけど、ひとつだけ確信を持つことができた。


鏡に映る美少女。これは間違いなく。


―――私『樹里』じゃない私『シャロン』だっ!!








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