表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/18

第14話  ベルンツで飛び交うそれぞれの思惑【動き(波)】




   【ジルベルトの控室】


「兄者が婚約だと?!」

「はい、たった今、ノエル殿下自ら、そのように宣言なさいました」


「相手は?誰だ」

「そ、それが例の人族の女で名は、……シャロン=アルカイドとのことです」

顎に手を当て記憶の(おり)を探るジルベルト。


「シャロンだと?聞いたことがないな……。で、素性は分かったのか?」

「はい、どうやら名門アルカイド家ローランツのひとり娘で、何でも公の場には姿を見せず、ほんの数日前まで家にこもる生活をしていたそうです」


「家で腐っていたような女が、何でベルンツに参加している?!」

「わ、分かりません」

バンッと、テーブルを割れんばかりの勢いで叩くジルベルトに、従者はうろたえた。


「他にわかったことは?」

「多くはありませんが、名前の他に『女神様のお人形』と呼ばれていたり、パルテール教会のフィデル枢機卿のご令孫(れいそん)のブリトニー様と交友関係があるようで」


「チッ、パルテール教会のフィデルは厄介だな―――、ん?『女神様のお人形』それは聞き覚えがあるぞ……確か―――。そうだ!アルテナだ!!」

頭を抱えていたジルベルトはハッと目を見開いた。


(一体どういう事だ?何が狙いだ!ノエルとどうつながっているんだ?くそっ!!分からん!)

彼の内側から焦燥(しょうそう)が、ふつふつと突き上げてくる。


「ど、どうかなされましたか?」

黙り込んでしまったジルベルトに従者は、恐る恐る尋ねた。


「―――いや。その女のこともっと詳しく、できるだけ多くの情報を集めろ。場合によっては隠密部隊を使ってもかまわん!だが、けっして気取(けど)られるな」

「はっ。(かしこ)まりました」


従者は、静かに頭を下げ扉に向かった。入れ替わりに別の従者がジルベルトに声を掛けた。

「失礼いたします。殿下、ベルンツ閉会の時間です。ご挨拶をお願い致します」

「うむ、分かった。今、行く」


(アルテナとつながる女か……。もう少し慎重に事を運ばなければならんか)

ジルベルトは、ゆっくりと立ち上がり控室を後にした。



   【イリアの控室】


「お兄様が婚約!??そんなの聞いてない!!何かの間違いじゃないの?」

テーブルに手をつけ立ち上がるイリア。


「いえ、先程、皆がいるところでノエル殿下ご自身から」

「そんなバカな、大兄様の一件がまだなのに、……ありえないでしょう?!」

ふらっとなり、ソファに座り込む。隣にいた侍女がイリアの体を支えた。


「大丈夫ですか?イリア様」

「あ、ありがとう、タニア。大丈夫よ」


「ノエル殿下が……。それにしてもあまりに突然すぎますわね―――あっ、いえ、私が口を挟むようなことではありませんでした。申し訳ございません」

イリアの腕を支えているタニアが、眉をひそめながらボソリともらした。


「何?タニア、何か分かったの?」

「は、はい。ですが、―――」


「もぅ~、じれったい!いいから話しなさい!!」

タニアは少しイリアに近づき周りを見渡した後、耳打ち気味に手を添えて話し始めた。


「はい、これはあくまで私の臆測なのですが、殿下は何か弱みをその女性に握られているのでは、ないでしょうか?」

「弱みですって?」

イリアも声のトーンを抑えて話した。


「はい、そうでなければ今日会ったばかりの人を、しかも長い間引きこもっていたという噂のあるお方を、あの聡明なノエル殿下が妃に迎えるなど絶対にありはしません」

左手で髪をいじりながら、顎を右手の甲に乗せ考えを巡らせるイリア。


「……確かにそうですわね。お兄様がそんな無分別なことをなさるはずがない。もしそれが本当なら、イリアが制裁を……。では、その方の詳しい事が知りたいですわ。タニア、情報を集めて報告して」

「はい、では、早速」


「お兄様、これはいったい何の冗談ですの?……」


そう言って部屋を出るタニアの背中を見ながらイリアは吐き捨てるように言った。



   【ブリトニーの控室】


「はぁ~っ?婚約?!……、そうだ!先ほど、ふたりが急いでいたのは、この事だったのね!!」


ブリトニーは扇子を広げ、ソファやテーブルの周りを何やらぶつぶつと独り言を言いながら、行ったり来たりを繰り返していた。


「でも何故?あのふたりは今日会ったばかりのはずですの。しかも、記憶を失われたとシャロン様の父君が言われてましたのに」


「ぷっ、先輩なんか人形劇に出てくる人形の様な動きですよ」

「面白いだろうペドロ。だがあまりジロジロ見るなよ」

少し離れた所で背筋を伸ばして手を後ろで組み、ブリトニーの少し離れた場所で待機している男がふたりひそひそ話しをしている。ブリトニーお付きの従者だ。


「……、はっ!!もしかして?!」

ブリトニーは、持っていた扇子をポロリと落とし、そのまま崩れるように床に手をついた。


「ま、まさか、既に手籠(てご)めにされてしまったとかですの?いや、いや、いや!!さすがにそんな事は……。でも、あの男のことだ!顔も()()に良いし、シャロン様だってお年頃だし―――」


床をバンバン叩いていたが、突然赤くなった顔を上げた。


「な、なんと羨ましい!!……いえ、そうじゃなくて!!という事は、―――」


「先輩、倒れ込んだようですが、声を掛けなくてもいいんスか?」

「あぁ、軽い発作のようなものだ気にするな~。さっきも言ったが、ジロジロ見るなよ」


「はいっス、先輩!」

座り込んだままで、首を横に振るブリトニーをふたりは、冷ややかな目で見ていた。


「ハッ!もしやとは思ってはいましたが、やはりそう!そうでしたか!!シャロン様!やっとその時が、来たのですね!!『これが』おじい様のおっしゃっていた『世界線』が動き出すという事に繋がるのでは?……」

ブリトニーは、これまた突然そして、今度は一変して歓喜の表情で胸の前で手を組み勢い良くその場で立ち上がった。


「ん~、けれど、なぜあの男と……?あっ!そういえば、花摘みの花壇でシャロン様と出会った、あの魔族の男の子も確か王子と言っていたわね?!まさか?あの時の、―――」


ブリトニーと従者のペドロとの目が合った。ペドロは、すぐさま目を泳がせたが遅かった。


「ペドロ!」

「ハッ!」


「ほら、言わんこっちゃない」

「ブルーノ!」


「ハッ!って、俺もか~い?!」

ブリトニーは、床から立ち上がりソファに座り直した。


「ブルーノ、この後の予定は?」

「ハッ、夜はベルンツの晩餐会。明日は、夕方までにこのエリア近辺、三ヶ所への訪問となっております」


「全てキャンセルよ!」

ツンとした表情で組んだ腕を片方外し、ブリトニーは、あしらう仕草で即座に答える。


「そ、そんな無茶苦茶な……、それでは折角準備してくれた―――」


「お黙り!!それからふたり共、これからのスケジュールを詰めて、近いうちに何とか一日の時間を作るわよ!今から日程を変更するから準備なさい!」


「「(かしこ)まりました!!」」

少し上を向きふたりは、揃っていい返事をしたが、顔はかなり面倒くさそうである。



   【会場の庭】


ノエルが話を終え、興奮冷めやらぬ会場を後に、私達は足早に王族専用の馬車が待つ庭へと急いだ。


群衆の騒ぎに巻き込まれない為だ―――。

(私は、自覚の無いまま、一瞬で『時の人』になってしまったみたい)


もし、ノエル達がこんな感じで手配してくれていなかったら、今頃もみくちゃにされ、会場を出ることですら難しかったと思う。


私が馬車についた時は、付き人として一緒に来ていたナタリーとアイラは、もう馬車の中にいて、いつでも出発できるように準備していた。


「いいな、セグナ、ヒース!三日間!!明日から三日間で、こちらは迎え入れの準備を済ませる。その間、シャロンの護衛を頼むぞ!」

「はい。ですが、私とヒースのふたりだと殿下の護衛は誰が?」


「なに、師団長が今、こちらに向かい、もう直ぐ着く頃だから心配ない」

ノエルは、心配そうなセグナの肩をポンポンと叩き、安心させた。


「!!・・師団長・・?!」

珍しくヒースの方が反応した。


「俺、あの人苦手・・だからセグナ・・馬上護衛・・俺が先でいいか?・・もう出ていいか?」

「あぁ!!先でいいが、まだ出るな!!」

既に馬に乗り、駆け出し始めたヒースにセグナは大声で呼び止めた。そして、無言でノエルに馬車の奥を指差し何やら合図している。


「!!」

その事にノエルが気が付いた。


「ヒース!もう、出ていいぞっ!」

やれやれ、という表情のセグナ。


「シャローーーーーン!!」

馬車の奥に座って見えなくなっていた私をノエルが呼んだ。


「は、はい。殿下」

私は、声のした方の窓から不安そうな顔をのぞかせた。


「最後まで君をエスコートできず、すまない!」

「いえ、そんな事は、―――」

出発準備が整った馬車がゆっくり動き出す。


それに合わせて歩き始めたノエルを従者が制止した。

「王宮で―――、王宮で君を待っている」

「はい」

少し、はにかみ微笑むノエルの顔に、私は沢山あった不安の一部が剝がれ、少しだけ軽くなった気がした。


「殿下……」

私は、何かを言いかけたが言葉が出てこない。こんな時こそ、何でもかんでも強制的に吐露させる『ヘボ加護』の出番なのに―――、


もぉ、役立たず……。

(言葉に出来ない気持ちとは、もしかして、こういう「形にならない祈りのような感情」の事なのかな?)


私は、不安げな笑顔しか彼に送れなかった。馬車は、ぐんぐんスピードを上げ、ふたりをどんどん引き離してゆく―――。


こうして、私とノエルが起こした目に見えない波紋は、私の不安と共に今、徐々に拡がりつつある。


そして、それはそれぞれの思惑と交差して、やがて大きなうねりとなり、この波を押し返してくるのでした。


―――後に、ここで開かれたベルンツは、この世界の歴史的重要人物が一堂に会した場所として、知らない人がいないくらい有名なものとなったのです。






最後までお読みいただき、ありがとうございます!


シャロンの『ダダ漏れ本音』にクスッとしたり、ノエルの『溶けていく心』にキュンとした方は、ぜひ下の【☆☆☆☆☆】から★で、この作品を応援してもらえると嬉しいです!


「面白い!」という方は★5つ、「期待外れ」という方は★1つ、もちろん正直に、感じた気持ちで構いません。


あわせて【ブックマーク】で、二人の行く末を最後まで見守っていただけると、なお嬉しく思います!!


皆様のリアルな反応が、シャロンたちの物語を空高く押し上げてくれる【翼の羽】となります。


※【予告:40話付近のサプライズ】

実は、第40話を超えたあたりで『大きな仕掛け』を用意しています。

この世界がより深く、切なく繋がる「特別な体験」をお届けできるはずです!


毎日【21:20】に1話ずつ、完結の100話まで一気に走り抜けます。


明日のシャロンも、漏れているのかな?(笑)。


次回更新もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ