第13話 ベルンツで飛び交うそれぞれの思惑【ロイヤルエンゲージメント】
【ジルベルトの控室】
「ジルベルト様」
「何だ?」
「つい今しがた、ノエル殿下の従者より雛壇使用の許可を申し出てこられましたが、いかがいたしましょう?」
「雛壇使用の許可だと……」
『今さら雛壇で何を……さっきの騒動の弁明か?フッ、まぁいい、尻尾は掴ませていないのだから』
「もう直ぐ閉会だが、オレの挨拶の前なら構わん。好きにさせろ」
「はい、ではそのように伝えます」
『しかし、こちらが先手を取っていたはずなのに、いったいどうやって?偶然?いや、流石と言うべきなのかな。今回は、ホークの時みたいに簡単にはいかなかったか』
ジルベルトは鼻で笑いながらも、その瞳の奥には、普通の魔族にさえ有り得ぬ澱んだ闇が渦巻いている。
【ノエルの控室】
ノエルとセグナが話を終え、これから直ぐにこの場を借りて婚約を宣言するとの事で、私は、ノエルについてくるように言われた。さすがは王子様ということかしら、行動力が桁違いだわ。
さっき入ってきたドアの横にある、少し小さ目のドアから会場の方へ出ようとした時だった。
何やら外が騒がしくなっている。何だろう?先頭を切っていたセグナが緊張感を漂わせた。
ヒースもそれにすぐ反応して、私とノエルの前へとスッと移動し構えている。
さすがはロイヤルガードね。凄い!
どうやら女の人が騒いでいるようだった。
「ちょっと離しなさい!わたくしをブリトニー=クラークと知っての狼藉ですの?今すぐ、シャロン様をここへお連れしなさい!!」
(えっ?何、私の事??そう言えば、さっきセグナが言ってたのはこれね)
「いくらノエル殿下とはいえ拉致監禁など許される事ではありませんの!」
ちょっと大袈裟ともいえる身振りで文句を言っている。
周りにいた人たちも足を止め見てしまうほどに。
「君の知り合いか?」
ノエルが、私に耳打ちした。
「いえ、存じ上げませんが、もしかしたら知り合いだった……かもしれません」
ノエルは、コクリと小さくうなずき、何も言わずにここで待つよう指示した。
「セグナ、あのご令嬢は確かフィデル枢機卿の孫娘のブリトニーだったか?」
「はい、確かに。ブリトニー様で間違いないかと」
「はぁ~、これはまた厄介な……」
頭を抱えながらノエルは、私達を制して前に出た。
「これはブリトニー姫君ではありませんか?どうかなされましたかな?」
「ノエル殿下!!」
なんだか動きが芝居がかっている。
「自らお出で頂けるとは、話が早いですの」
「すまないが、こちらも急ぎ用件がある故、手短に願う」
「シャロン様の拉致監禁についてですわ」
「拉致監禁?一体何の事で?シャロン嬢は私の大切な賓客だ。お越しいただいたが、そのような真似は一切」
「であるなら、シャロン様をここへ」
ヒースとセグナが避けたので、私とブリトニーは目が合った。
「まぁ、シャロン様!!ご無事で!」
三文芝居だ、ブリトニーは真っ直ぐこちらに駆け寄ろうとしたが、セグナとヒースがそれを遮る。
「何の真似ですの?」
その瞬間、彼女の瞳から温度が消える。これは本気だ。漏れ出た聖女としての圧がピリリと空気を震わせる。
「わたくし、シャロン様の父君に今回のベルンツでのシャロン様の事をお願いされてまして、さすがにこのまま見過ごすわけにはいきませんの!」
「あの~、ブリトニー様……」
私は、セグナとヒースの間からブリトニーに声を掛けた。
「先ほど殿下の言われた通り私は、拉致監禁などされておりません。ただ、今は、少し急ぎます。ここはひとつ」
「まぁ、そうでしたか!これはとんだ失礼を致しました。申し訳ございませんの。殿下に対し何という無礼を……。こうなればいかなる罰をも、お受けいたしますの!どうぞ、わたくし奴にお与えください!!」
ブリトニーは、目を閉じ、深くひざを折りお辞儀をした。
「いや、誤解だったのが分かってもらえたならば、それで構わない」
「さすがはノエル殿下!寛大なお心遣い、ありがとう存じますの」
片目を開け、少し悪びれた様子のブリトニーに対し、ノエルは笑った顔を見せたが、その背後から、どす黒い何かが立ち上った気がした。
「フン、道化を演じよって……」
「ん?何か?」
(何?この二人仲悪いのかな?う~ん、その間に立つのちょっと嫌だな~)
だが、今はそんな悠長なことを言ってる場合じゃない!私は、少し前へ出て頭を下げた。
「あなたがブリトニー様でしたか?確かにベルンツへ出発する前、父ローランツからご助力を頂ける方の話しは聞いておりました。気づかず申し訳ありません」
「いえ、そのような事はよろしいのでごさいますの。今は立て込んでいるご様子。私の事はかまわずともよろしいのでどうぞ、お急ぎを」
ブリトニーは優しく私の手を取り、一瞬で憑き物が落ちたような満面の笑みを浮かべた。
「は、はい、失礼いたします」
「また、いずれあなた様とは、じっくりお話がしとうごさいますの。近いうちに、こちらからご連絡差し上げますわ。それでは、シャロン様、殿下、皆様方、ご機嫌よう」
あぁ、なんだろう?突然吹き荒れたり、そよいだり……くるくると、変わる人だ。
まるで風のよう……。
うふっ、なんだか面白い人。どうやら、悪い人ではなさそうね―――。
「セグナ様、あの方はいったい……」
私は、歩きながらすぐ隣にいたセグナに小声で尋ねた。
「彼女は、パルテール教会のフィデル枢機卿の孫娘でブリトニー。世界に10人といない聖人聖女のひとりです」
「パルテール教会?」
「おや?シャロン殿はご存知ありませんでしたか。パルテール教会は女神アルテナを信仰神とする団体で、アルテナ教を世界に広めるために作られた宗教団体です。宗教団体の中では最も大きく力のある組織ですね」
なるほど、今後の事もあるし、帰ったら、ローランツとハイメに私との関係性をちゃんと聞いておかなきゃ。
「そうでしたか。ありがとうございます。セグナ様」
「いえ」
そうこうしているうちに、私たちは舞踏会場の大広間を一望できる雛壇に立っていた。
皆が見上げる中ノエルの話が始まった。ノエルが私の手を取り、高らかに声を上げる。
「皆に報告がある。―――ここにいるシャロン=アルカイドは、本日、私のフィアンセとなった!」
会場が、爆発したような騒然に包まれる。
私の紹介に至っては歓声とも罵声ともとれる様な感じになり、奇妙な雰囲気になってしまった。飛び上がり喜ぶ者や眉をひそめる者もいたが、ノエルの巧みな言葉が、知らぬ間に、この婚約発表をお祝いの雰囲気にさせていた。
(これも王子のカリスマ性なんだろうか?!凄い!!)
ノエルの話が終わるころには、ここにいる全員が突然湧いて出たロイヤルエンゲージメントの話に花を咲かせ、ベルンツ閉会直前とは思えないほどの大盛り上がりとなった。
【ジルベルトの控室】 「何ぃーーーーっ!」
【イリアの控室】 「何ですって?」
【ブリトニーの控室】 「ふ、ふたりが~っ??」
「「「婚約ーーーーっ??!」」」
私とノエルの婚約の話は瞬く間に彼らの耳に届いていた。
それは、それぞれの控室の主の声を荒らげるに十分だった。
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