第12話 ベルンツで飛び交うそれぞれの思惑【刺客の影】
【ジルベルトの控室】
ガシャン!パリン!
「何ぃ?失敗しただとーーっ?!」
ソファから立ち上がりテーブルの上の物を全てなぎ払う男。
「ヒィ、お、落ち着いてください!ジルベルト殿下」
ジルベルトの剥き出しの苛立ちに、部屋には緊張感が一気に張り詰める。
「では、あの赤目小僧の暴発を阻止したと言うのか?」
「は、はい。意図的かどうかは、現段階では情報不足で把握できておりません。ですが、人族の女が暴発を止めたと思われます」
ビクつき、汗をぬぐう配下の男が震える声で答えた。
「人族の女だと?ブリトニーではないのか!? なぜ人族ごときに暴走を止められる?あり得ないだろう!何者だ、そいつは!!」
「それが、顔を知る者がおらず、素性も知り得ていません」
「エイジャ!こちらの計画がバレていたのか?」
ジルベルトは、隣に控える女――エイジャを鋭く睨んだ。
「いえ、それは無いかと思われますが、それもまだ、わかっておりません」
「ぬぐぅ~、わからん?わからん!わからん!!お前たち、それでは全く報告になって無い!!今すぐ、その女と兄者との関係を探り報告しろ!いいな!!」
「はっ!」
男達が部屋を出たのを確認し、ドカリとソファに座ったジルベルトは、腕を組み落ち着かない様子。
「いったいどれ程の金と時間を費やしたと思っているんだ!この一件で、あの赤目小僧を排除できると思ったのに……くそっ!!」
エイジャは、スッと横につきジルベルトの肩に手を置いた。
「ジル様、私はこの後、何をすれば良いのですか?」
彼女は、少し甘えた声で聞いた。
「そうだな……。場合によっては次の計画を先に行うから、お前はその準備をしておけ」
「では、妹君のイリア様の元へゆけと?」
「あぁ、兄者のことは一度、保留にする。こうなったら先にイリアを潰すかもしれんからな、お前にはそっちを頼む」
「フフフッ、容易い事。では、仰せのままに」
エイジャは、不敵な笑みを浮かべ控室のドアノブへ手をかけた。
【ノエルの控室】
ノエルに対し嫌悪感を覚えた私は、うつむき何も考えられず、口をつぐんでしまった。
部屋には先ほどとは違い、ピリピリした空気が漂っている。
私のせいだ。
あぁ~、今すぐにでも帰りたい!そう思ってしまった。
「すまない……。言葉足らずは、よく言われる。了承して欲しい」
自分がどんな表情をしていたのかは分からないが、ノエルに気を使わせた事は、間違いない。
「……」
私は、何も言わずに彼から視線を外してしまった。
いったい何を?私は、何を彼に期待していたのだろう?会話が途切れ、誰もが会話の切り出しに困ってしまった。ヒースは、相変わらずだが、セグナも何も言えずにあたふたしている。
沈黙を破ったのは、ノエルの静かな声だった。
「恋愛の末の結婚。それはごく自然なことであり一番望ましく、そうあるべきものだと、私も思う。―――シャロン。少し聞いてもらっても良いか?」
私は、ノエルを見ずに黙って、ゆっくりと頷いた。
「恥ずかしながら、私は恋をしたことがない。だから異性への愛も知らない。言い寄られることは幾度もあったが、そういった目で女性を見たことがないんだ」
私は、顔を上げノエルの方を見ると、自嘲気味に微笑むノエルの横顔があった。その瞳に、嘘の気配はない。
「君は一般の女性だ。普通に出会った人と恋をして、愛し合い、結婚するのが幸せだと思う。けれど私のように結婚に、明確な目的や役割を感じている者にとっての婚姻とは、手段のひとつでしか無い。王族として生まれた以上、何より国益、民の為に行動するのは王族の責務だと私は思っている。たとえそこに愛が無くともだ―――」
ノエルは私の視線に気づくと、正面から私を見つめ、言葉を継いだ。
「私は、それに君を巻き込もうとしている。ただ、この婚約と君が『成したい事』とを、天秤にかけるだけの価値があるのか?そうでないのか?答えを聞かせてはくれまいか?」
ノエルの瞳は、どこまでも真剣だった。それは今、紡がれた彼の言葉でわかる。強要は、していない。私に選択権を与えているんだ。身分など関係ない。だから『駒』ではなくこの先、共に過ごす対等なパートナーとして―――。
「―――君の言う愛を与える事が、この先の私に、できるとは言わない。だが君の愛に応える努力は必ずする。それはカルヴィナ王国、第二王子の名にかけて誓おう」
「……」
私は、どう答えるべきなのか?
確固たる目的などない。根拠も確証もないまま、ただ場当たり的に動いているだけの私が、この人の人生を左右するような契約に頷いていいのか。
あのことを、この人に打ち明けるべきなの?
私は、ただ単に、「この世界に呼ばれた理由と、元の世界へ戻る方法の手掛かりを探している」……だけの、
―――『異世界人』ですと。
ノエルは、答えを待っている。私は、答えに迷っている。
この部屋が、またもや沈黙に支配された。
―――あれ?何だろう?
何かが……、何かが違う!違う、違う!!そうじゃない!!
―――今、やっと気が付いた。
婚約の事も、嫌悪感の正体も、帰る方法の手掛かり探しも―――、
(はぁ~、今わかった。嫌だな~私、別にどっちでもいいって思っているんだ)
もし、帰る方法があるなら、この世界の事から逃げて帰ろうとするだろうし、もし、帰る方法が無ければ仕方ないから、これからの事を考えよう。
そんな風に思ってる。
でも、これは、その事実に自分のこれからを決めてもらっているだけで、そこに私の意志は何一つ無いじゃない!!
あっちの世界の時だってそう!全部自分が選んだ道で、その結果なのに、何かに不満を感じ誰かのせいにして―――、
そんな自分が嫌いで―――、
変わりたくて―――、
でも、勇気がなくて……
ただ、目の前の壁に一歩も踏み出せず、いつも同じ場所で足踏みをしていた。
もう、あの場所に戻りたくない!!そう、強く思っていたからこそ、あの場所を思い出させたノエルに嫌悪感を覚えたんじゃない!!
知ったかぶりで愛を語って、バカみたい!!ノエルの方がよっぽど立派よ。ちゃんと一本、筋が通っている!それに比べて私は、
何やってるんだ!
―――『私!!』
「はぁ~っ」パッチン!!
私の唐突な行動に、私以外は目を丸くした。
短いため息と共に、両手で自らの頬に気合のビンタを叩き込む。その痛みが、迷いを真っ向から打ち砕き、私は、ようやくノエルと正面から向き合うことができた。
「殿下、私に少し時間を下さいませんか?お伝えするべきことがあります。―――ですが今は、打ち明けるのが怖いです」
ノエルは、黙って頷いた。
「―――本当は、今、この場で殿下に伝えるべきなのかもしれません。自分でもそう思っているのですが、……申し訳ありません」
「あぁ、わかった。では、今は、聞かないでおこう。君の力になれるかは分からないが、君が話したくなった時に聞かせてもらうとするよ」
ノエルは、言葉を濁す事無く、真っ直ぐに答えてくれた。
その言葉が嬉しかった反面、嘘をつけない私を信じると言ってくれた彼に、隠し事という壁で返している矛盾。その鋭いトゲが、私の胸の奥をチクリと刺した。それは『真心』を理解している彼に、『まだ、あなたを信用できないので隠し事は聞かないでね』と、言っているようなものだから。
「それから婚約の件、色々申し上げましたが、お受けいたします」
「?!シャ、シャロン姫君!」
セグナが、慌てて割って入ったがノエルが制した。
「ありがとうございます。セグナ様。大丈夫です!軽い気持ちや浮ついた返答ではありませんから」
セグナに会釈をし、あらためてノエルの方へ向きなおした。
「私は、挨拶ですらろくに出来ないような世間知らずで、至らない女です。ですが、せめて殿下の隣に立っても恥ずかしくない程度にはなりたいと存じます。そうなれるように殿下にお力添えをいただけますよう、お願い申し上げます」
「うむ、分かった!協力しよう。そうだな、君を誰が見ても素敵なレディだと思えるほどに!」
「あはははっ。え~と、出来れば恥ずかしくない程度で……」
(う~ん、フラグにしか聞こえない)
「セグナ!」
「ハッ!」
ノエルの声に、セグナが弾かれたように直立した。
「このベルンツは、いい公の場だ!だが、もうすぐ閉会。急いでこの件を発表する。すぐに準備を!」
「陛下へのご報告やご相談はよろしいのですか?」
「かまわん!後で筋を通す。せっかくシャロンのお陰で不意の先制パンチを回避できたんだ。ここは逆にカウンターを狙うのが定石だろう?!」
「これは、格闘技の話ではないだろうに、―――まったく!承知いたしました。すぐ準備を……」
「時間が無い。私もここで支度する」
セグナは、苛立ちながらも部屋の外の従者へ、テキパキと指示を飛ばし戻ってきた。
ん?―――けれど、様子が変。何やらノエルに耳打ちしている。
「何、女が?シャロンを……!?」
驚きを声にしたノエルに、セグナは何も言わず、重苦しく頷いた。
えっ?何、私の事?
いったい―――、何だろう?
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