第11話 嫌悪感の正体
「お、お戯れを……」
私は、この中で一番まともそうなセグナに(何言ってるの?この人!冗談だよね)って、目で合図したら大きく首を縦に振った。
「戯れなどではない!」
「で、殿下!」
平然とした態度で話すノエルに、慌てて、セグナが彼の言葉を遮ったが、ノエルはちゅうちょなく話しを続けた。
「私は、冗談でこんな事を言っているのではない。私は君が欲しい!そう言っている」
ノエルは、身を乗り出し距離を詰め、私をソファーの端へと追い込んだ。
「それは、ちょっと……、私が困ります!」
さらに距離を詰めるノエル。すると、私は例のアレが……。
「『ちょっ!近い!近い!近い!!』って……あっ!!申し訳ございません!大変失礼な物言いを」
私は、慌てて謝罪したが、どうやらノエルはこうなると知っていてわざとやったみたいだった。
「君のその特殊な加護『真心』いいね。どうせ、婚約者には、しがらみのない人族から取ろうと思ってたし、丁度いい」
ノエルは、屈託のない笑顔だ。
(加護?どうせ?丁度いい?何それ!!)
「「はぁ〜っ?!」」
何故か私とセグナが低い声で綺麗に揃った。セグナは、目を泳がせ、口に手を当ている。
多分、私に感情移入したのだろう。何だかセグナとは仲良くなれそうな気がする。
ノエルはかまわず、続けた。
「君にも利のある話だと、私はふんでいるが違うかな?」
「『どうしてそれを』……あっ!」
まずいと思い、口に手をやったが間に合わず、またもやヘボ加護、暴発!!
ノエルは「フッ」と、不敵に笑う。
(ん~っ、悔しい!!やっぱりねって顔してるぅ~)
「そう思うのは易いかな。記憶を無くし不安を抱え、誰も見知る者もいないこんなところ。ましてやベルンツは、それぞれの思惑や欲望が飛び交う場所だ。そこに君はひとりで足を運んだ……」
ノエルはテーブルに両肘をつけて組んだ手に顎を乗せ、長いまつげの奥にある澄んだ瞳が鋭い目線を、私に送っている。
「―――何かあるのは当然だと思うのだが、……違うか?」
(う〜っ、鋭い!!考え無しのバカ王子かと思ったら、とんでもない切れ者だわこの人)
「『はい、その通りです』」
(これはヤバいかも……加護のせいで私は嘘が付けない。まずい!!このままだと全てを知られてしまう!どうしよう。この人は私の加護の事を知っているできるだけ隠すよう言われていた『異世界から来た転生者』だという事も知られてしまうかもしれない)
焦りから、私はノエルから目線をそらした。
「ほほぉ~、そうやって目を泳がせたのは、隠しておきたかった事なんだな?」
「『そ、そうです……』」
(うぅ~、マジやばいかも、頭の回転どころか洞察力も鋭いじゃない!!)
「やはりそうか。では、その何か?と、いうのは今、聞かないでおこう。これは君の加護を知り、『十分に理解している』私だからこその配慮と思って欲しいかな」
「?」
(助かった?……の?)
彼の言っている意味が、いまいち理解できなかった。
「それはどういう事でしょう?」
「今、君と話しをしていて分かったんだが、多分、今の君よりも私の方が『真心』をしっかり理解しているように思える。つまり、そういう事だ」
「……」
どうして、ノエルが『真心』についてそこまで詳しいのか、とても疑問だった。私が『真心』を理解できていない事って何?それはかなり気になる!
その事を私が、ノエルに聞こうとしたら、「詳しくは、また今度。ん~そうだな」そう言って不敵な笑みを浮かべながら顔を近づけてきた。
「今度ゆっくり。できれば、ふたりっきりで……」
ノエルがそう耳元でささやいたので、思わず動揺してしまった。
「は、はひ?!」
(私のバカーーッ!!そんな返事の仕方では『真心』が発動するまでもなく簡単に心を見透かされてしまうじゃないの!それより、イケメンに対する免疫力が、なさすぎなのよ!私っ!!)
ささやかれた側の耳を両手で押え、のけぞる私。耳まで真っ赤な私を見て、ノエルはクスクスと笑いだした。
(く~っ!異性に対しての免疫のなさがまるわかり。えぇ、えぇ、どうせ私には、未だ恋話参加資格など、ございませんから!ふん!!)
「殿下が思う、理想の結婚相手と私が持ち合わせているものと合致している事は分かりました。ですが、それでも婚姻を決断するにはあまりに早計ではありませんか?」
「ふむ」
私はこの話題を変えたくって質問をし、ノエルをやんわり押し返した。
「そ、その、何と言いましょうか、こういう事はお互いに時間をかけて徐々に惹かれあって、至るのであって、物を買うみたいに言われても」
「ダメなのか?」
隣に座り直し、足を組むノエル。
「気持ちが大事と言いますか、その……と、とにかく一方的過ぎます!」
「利害は一致すると思うのだが?」
「利害の問題ではなく、心の問題です!!」
「……」
足を組み替え、その長い指をコツコツと打ちながら、何やら考えている様子のノエル。
私は、ノエルの沈黙に煮えて、自分にはまだ経験のない恋愛論を彼にぶつけた。
「結婚とは、互いの好きや愛してるの、その先にあるもので、私たちの間にはそれがまだ……」
「無いと?」
「あ・り・ま・せ・ん!!」
(誤魔化されないように、ちゃんと強調してやった!)
「愛してるか……だが、私は、異性に対する愛を知らん。女性に好意を抱いた事も無い。そこのセグナも女で好きではあるが、多分君の言う好きとは違うだろう。そうだ!セグナはどう思う?」
「おい、私に話を振るな!!」
はぁ~と、大きなため息をつき、少し呆れ顔でセグナはそう答えた。
「えーと、殿下。それは、部下として?それとも幼馴染として?ですか?」
「そんなのはどっちでもいい」
「そうですね。部下としては、『今、色々問題がある中で婚姻の話は時期尚早、陛下と今一度、話し合った上で、』……ですかね」
少し間を開け―――、
「幼馴染としては、―――『バーカ、死ね!そんな簡単に愛が生まれるか!!つ~のっ!シャロン殿の事も少しは考えやがれ!!』……ですかね」
言いたいことが言えたセグナは、ふぅ〜とひと呼吸してモヤモヤ感が晴れたみたい。
「―――ついでだから、もうひとつ!私もお前は嫌いじゃないが男性へ向ける好きの感情が、お前に沸いたことは一度も無い!!」
机を割れんばかりに叩き、プィと横を向いた。
「そうか、やはり愛には時間がかかるんだよな。あっ!セグナ安心しろ!私もお前を女だと思った事は一度も無いから」
「あんだと?!ヒース!あいつ殴っていいか?」
「いや、ダメだろ・・」
拳を握って勢い良く立ち上がり、ノエルを指差すセグナに対し、「俺を巻き込むんじゃねーよ!」と、いった感じのヒース。
「あはははっ……」
こんな感じだから、当然私は愛想笑いに。
「欲しいのか?愛してるが?」
(あれ?茶化すことなく真剣な目で私を見ている)
「そ、そりゃ、欲しいですよ。特に女の子は、……」
セグナもうんうん、うなづいているが、ヒースは、全く興味がなさそうな感じで、あくびを噛み殺している。
「愛の無い結婚なんて互いに不幸ではありませんか?少なくとも幸せを感じることは無いと思いますが」
私は、いかにも知っている風で諌めるようにノエルに言った。
「そうか、欲しいのか?だとするなら私は、君に『好き』や『愛してる』をあげる事はできないかもしれない……」
「なっ?!」
私は、言葉を詰まらせてしまった。彼が、冗談を言っているのではない事は、顔を見れば直ぐに分かったからだ。
あのどこか物事を真剣な顔で考える表情―――、あれ?私、どこかでこんな表情の人を見たことがある。気のせいかな?
こんな表情をしている人に、私、どこかで出会っている気がする。そうだ、以前から知っているような―――、こんな顔をした人たちを……いつ?……どこで?
あぁ、そうだ!思い出した!!
仕事の時だ―――。
仕事の商談の席に付いた人たちだ。誰一人、顔も憶えてはないけど、あれは、私情を挟まず会社の利益を上げるのに真剣な人たちの目だ。誰も悪くはないし、間違ってもいない。でも、あの場の空気に私は何故か「嫌悪感」を抱くんだ。
ノエルは悪くない、それはわかっている。わかっているけれど……それは、私という『人間』への関心ではなく、私という『駒』への期待なのだと気づいてしまった。
抱いた嫌悪感のせいで、私の心が、少し近くなった彼への気持ちを……遠ざけてしまった。
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