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第10話  邂逅――。(かいこう)




   ―――ひと目見た瞬間に私は、息をするのを忘れた。


圧倒的な存在感に、意志の強そうな目元、背はすらっと高くてバランスが整っている。ひと言でいうと、正に『黒』という印象だった。着替えの途中だったのか、少しはだけた感じの着衣を整えながら近づいてくるその姿と漂う色気は、あまりに『毒』が強すぎた。


―――決して好みではない!


(そう、好みのタイプではないのに……その、マズイ、非常~に、マズイ!!このビジュアル的破壊力は、くぅ〜っ!また、加護あれの予感)


ヤバい、私!思ってるよねっ!!


ダメッ!今は、絶対思っちゃダメ!!

我慢(がまん)よ、我慢!!そう。ふぅ~、大丈夫、……無念無想。


あっ!ダメだ〜、この感覚は―――、

ヤバい!ダメ、ダメ、ダメ、ダメーーーーーッ!


けれど、抗えば抗うほど、本音の蛇口は勢いよく弾け飛び、静かな部屋に私の声が豪快に響いた!


「いえ、全然大丈夫です。『っていうか、むしろ男の人のそういう無防備な格好の方が、私は大好物です!……ってか顔良き〜っ!ん〜んっ、ちょっと抱きつきたいかも!……つきたいかも!……たいかも!……かも!……』」


   緊急事態!  


   緊急事態!!


   ヘボ加護発動っ!!『強制本音吐露』、全っ開!!


「「「「……」」」」一同、絶句。


「終わった!……今ので完全に終わったわ!!し、死にた〜い……あぁぁぁぁあ〜っ!もう、ヤダ!何なの?この加護は!?こんなの恥ずかしすぎる!!」

私は、恥ずかしさのあまり、その場にへたり込んでしまった。


「―――穴があったら入りたい!ふふっ……そして誰か、そのまま私を埋めて……」

(私の心に黒歴史が深く刻まれた)


「……プッ、アハハハッ」

『鬼の目に涙』ならぬまさかの『黒イケメンの目に()()()()』で見て分かるくらい肩を震わせている。


「ありがとう!では、このままで失礼するよ。私は、この国の第二王子で名はノエル。さっきはヒースを助けてくれありがとう。感謝する」

そう言って、口元に手をやり笑いをこらえながら……、と言うか明らかにこらえきれてないが、こちらへ、さらに近づいて来た。


「『えっ?お、王子?!第二王子?ど、ど、ど、どういう事!!高貴な感じはしてたけど王子様って?冗談って事は、……』」

普段は、決して言うはずのない心の奥底にある疑問ですら『強制吐露』の対象だ。


「ン、ンッ!」

セグナの咳払いでようやく確信が持てた。彼は、本物だ!!


「こ、これはとんでもない失礼を!知らなかったとはいえ、大変申し訳ありません!!」

へたり込んだまま謝ったので、綺麗な土下座に……。


「フッ、いや、よい。しかし変わった謝罪だな。確か東方の島国にそんな礼儀作法があったような……。記憶違いだったかな?まぁいい」

「も、申し遅れました。わ、わた、わたくしはシャロン=アルカイド。ノエル殿下、お会いできて光栄ですわ。以後、お見知りおきを」

(そう言っておいて、自分で言うのも何だけど、なんというひどい挨拶だろう。ホント、今すぐ帰りたい!)


もう遅い!と、思いつつも土下座ではなく、貴族らしくカーテシーをして取りつくろったけど、貴族令嬢になって、たかだか数日の私が、上流階級の作法など咄嗟(とっさ)にできるわけもなく恥の上塗りだ。


「それより、ヒースが世話になった。主人として感謝する。本当にありがとう」

ノエルは、優しく微笑み、私の手を取って感謝の意を伝えた。


この人は、不敬にもあたるような失態に目をつむり、王子という立場なのに身分の低い私にも礼を尽くしてくれた。多分、いい人なのだろう。けれど、少し口角が上がった口元に、まだ信用は置けない。


「いえ、おせっかいかとも思ったのですが、考えるより先に行動してしまう性格なもので……、つい」

「つい?考え無しだった。と、いう事か?」

意外そうな表情をして、私を見ている。


「そうだったか。しかし、ヒースがあの場で『魔力暴走』を起こしていたら大変な事になっていた。大事にならずに済んだのは本当に君のお陰だ」

ノエルはソファーに腰かけ、私に隣に座るよう促した。


「ヒース」

「はっ・・」


「もう、体に問題は無いか?」

「はい、問題無い・・です」

ヒースとセグナにも向かいのソファーに座るよう手振りで指示をしている。


「先ほどの魔力暴走の話も、ハモりの話も本当の事だと思っていいのだな」

「はっ、・・間違い・・ありません・・。こいつ、いえ・・シャロン様・・ハモらない」


ノエルは、少し考えている様子で、沈黙がしばらく続いた。


「けど・・ショタ枠?・・ストライクゾーン?・・意味不明な言葉も・・」

「!!なっ?そんなことも、私口走ってたの?!」

(ちょっと!!誰にも聞かせたくない心の『メタ発言』でさえ口にしてたのっ?!)


「うん・・」

ヒースの言葉に焦った私は誤魔化すように、話の要点のつかめなかった『ハモり』について慌てて論点をすり変えた。


「ヒ……、ヒース、私に「様」はつけなくていいわ。だから普通にシャロンと呼んで。ねぇ、私も知りたいんだけど、その「ハモり」って何の事?」


ヒースは、ノエルの顔が縦に振ったのを確認してから話しをしてくれた。

(ふう〜、ひと安心!)


「オレ・・昔から話すの苦手・・人の心の声が聞こえるから・・話し、しなくてもわかる・・」


時々「ふぅ」と短くため息をつき、たどたどしいけど、一生懸命に話してくれている。


「―――けど、ほとんどの人・・心で思っている事と・・口に出す事と・・違う・・だから・・オレと話すと・・耳から聞こえるのと・・頭の中で聞こえてくるのと・・微妙にズレてる」


彼は、少し目線を下げ、不安気な表情になった。


「―――このズレが『ハモり』・・それ、とても気持ち悪い・・普段は制御できているから・・大丈夫・・けれど・・暴走状態の時は・・頭が割れそうなくらい・・心の声が頭に入ってくる・・それを止められない・・」


ヒースの顔が少し緩んだ。


「―――けど、あの時・・シャロンが触れた瞬間・・完全に平常時の・・魔力量になった・・しかも・・すでに多くのスキルが暴発していたから・・多分ノエル様でも・・近づくの難しいはず」

「ほぅ、私でも難しい状態にまでなっていたのか?さらに興味深いな」

このヒースという少年、幼く見えるが、かなりの強者(つわもの)のようだ。


どうやらヒースの説明だと「ハモり」の話は、本音と建前のズレが不快なノイズとして聞こえるそうだ。彼にとって、私は嘘をつけない加護『真心』の影響で、そのズレが全く無いということらしい。


「シャロン、だったかな?なんだか君に凄く興味が湧いてきた。先ほどの様子からして、私のことを知らないと思ったのだが……」

「あの~、あまり私のことを詮索されるのは、『非常に』困るのですが……」


「私も君を知らないし、ベルンツ参加者で私を知らぬ者などほとんどいないはず」

(うぅ、困ると言ったのに、聞き流された)


「差し詰め君は、『深窓の令嬢』だった、ということなのかな?」

フッと笑ったノエルの顔に、私は、少しムッときた。

(えぇ、えぇ!どうせシャロンは引きこもってましたよ!!)


「いえ、そう言う訳ではありませんが、この様な社交の場は初めてでして、それに私には数日前までしか、ここの記憶が無く私にとっては殿下どころか、過去に会っていたとしても全員が初対面になります」

(しかし、噓を言わずに素性(すじょう)や本心を隠しながら話すのは意外と、ううん凄く骨ね)


「そうだったのか。それは余計なことを聞いたな。―――ん?シャロン?!」

ノエルは、何か引っかかりを感じ眉間にシワを寄せ、少し間をあけた。


「シャロン!そうか!シャロン!!その亜麻色の髪に瑠璃色の瞳。今、思い出した!君は『真心』のシャロン!!」

私は驚いた。異国の王子が、シャロンを知っていることに。


「……いや、『女神様のお人形』だったかな?」

少年のような表情で言った後、少しニヤリとして、そう付け加えた。


「……」

私は、シャロンを侮辱されたように感じて、無言で抗議したが気持ちがおさまらず。


ダメとは思いつつも、つい素の感情を表に出してしまった。


「殿下、その呼び名は、少々……」

(王子相手に口答えとは、私も辛抱足りないな~)


しかし、少し素の表情になった私をみてノエルは意外にも慌てて、

「いや、今のは配慮が無かった。失言だったな謝罪する。すまなかった」


王子だからもっと傲慢(ごうまん)で偉そうに思っていたけど、意外にもノエルは、素直に頭を下げたのだ。


「そんな、もう、いいです。謝罪を受け入れます。どうぞ、顔をお上げ下さい。母からそうであった話は聞いておりますが、今の私にその記憶はありませんので大丈夫です」

「そうだったのか……いや、実は君の洗礼式の時、私もそこにいて君と少し言葉も交わしたのだが、……憶えてはいないか?」


「えっ?、そうでしたか。申し訳ありません。殿下」

「そうか……。いや、大した事ではない忘れてくれ」


そう言ったノエルの表情がどこか残念そうで、私はつい―――、

「そうだ、殿下!私は魔族の知り合い……と、いいますか、今のところ、お友達すらひとりもおりません。不躾(ぶしつけ)ながら私とお友達になってもらえないでしょうか?」


王子相手に「その提案はない!」とも思ったけど、ノエルの顔が少し寂しそうにも見えたので、なぜだかそう言わずには、いられなかった。



  【幼き日のシャロンとノエル】


『私の名は、シャロン!あなた魔族ね?私は魔族に知り合いも、お友達も、ひとりもいないから。私とお友達になってもらえないかしら?』


そんな、屈託のない少女の笑顔と、今のシャロンを重ね、ノエルはシャロンと初めて出会った洗礼式の日の事を思い出していた。



「……」

ノエルは、少しボーっとした表情で私を見つめていた。


「殿下?……あっ、申し訳ありません!余りにも失礼でしたね?どうぞ今、言ったことは忘れてください!」


焦る私の目を見て、その長いまつげを伏せ、何かを思い出したかのようにノエルは、くすりと笑った。


「いや、すまなかった。いいだろう!では、この際だ。シャロンよ。私と結婚を前提としての付き合いをする。と、言うのはどうだ?」

「えっ、あ〜はい!では、お願いいたしま……すぅ???あれ?」


何か違和感があったのだけど、違和感に気づいたのは、返事をした後だった。


「―――って、今、殿下何と?」


「お、お待ちください、殿下!!」

セグナが、慌てて立ち上がり話しを割ろうとしたが、ノエルはそれを制した。


「では、『了承してくれた』ということで良いな?じゃぁ、フィアンセとして迎える準備を進めないといけないな」

言っている意味はわかるが、今の私に理解が追いつかない。


「『!?けけけっ……結婚?フィアンセ?!ど、ど、ど、どういう事???何でそうなったの????』」

「これからよろしくな!シャロン」


ノエルは、満面の笑顔だ!

(けど、目は笑ってないじゃない!!)



「はぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ??!!」


この大きく静かな部屋に、()()()()私の声が響き渡った。


   最後までお読みいただきありがとうございます!


もし「続きが気になる!」と思っていただけたら、下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援いただけると執筆の励みになります。「期待外れ」という方は、正直に★1つでも構いません。

あわせて【ブックマーク】で、二人の行く末を最後まで見守っていただけると嬉しいです。


皆様のリアルな反応が、シャロンたちの物語を空高く押し上げてくれる【翼の羽】となります。


【予告:40話付近のサプライズ】

実は、第40話を超えたあたりで『大きな仕掛け』を用意しています。

この世界がより深く、切なく繋がる「特別な体験」をお届けできるはずです!


毎日【21:20】に1話ずつ、完結の100話まで一気に走り抜けます。


次回更新もお楽しみに!

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