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悪役令嬢の烙印を押され追放されましたが、辺境でたこ焼き屋を開業したら、氷血公爵様が常連になりました  作者: 緋村ルナ


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第九章:建国祭の招待状、それは罠か好機か

 リリアナの刺客事件から数ヶ月が過ぎた、穏やかな秋の日。王都から、一通の仰々しい封蝋で封をされた手紙が、ヴァルテンベルク公爵城に届けられた。

 差出人は、国王陛下。

 そして、名指しされていたのは、私、オリヴィア・フォン・クライネルトだった。

 手紙の内容は、こうだ。

『来る建国祭の記念行事として、王国各地の珍しい名物料理を集めた「王国食覧会」を催す。つきましては、ヴァルテンベルク領の代表として、オリヴィア・フォン・クライネルトの作る「たこ焼き」を、国王直々の指名で招待する』

 手紙を読み終えた私は、思わずため息をついた。

 王都へ、帰る。それは、私を罪人として追放した、あの場所へ戻ることを意味する。

 表向きは、これ以上ない名誉なことだ。国王陛下直々のご指名なのだから。しかし、その裏に何があるかは、火を見るより明らかだった。これは、十中八九、聖女リリアナが仕組んだ罠だ。王都に私を呼びつけ、大勢の前で恥をかかせ、再起不能のダメージを与えようという魂胆だろう。

「……お断りした方が、よろしいでしょうか」

 私の呟きに、向かいのソファで腕を組んでいたレオニール公爵が、静かに首を横に振った。

「いや、行くべきだ」

 彼の灰色の瞳が、強い光を宿して私を射抜く。

「これは、罠であると同時に、またとない好機でもある」

「好機、ですか?」

「そうだ。お前がヴァルテンベルクで成し遂げたこと、お前が生み出した料理の価値を、王都の連中に、そして何より国王陛下ご自身に見せつける絶好の機会だ。そして……」

 彼はそこで言葉を切り、鋭い視線で続けた。

「……あの偽物の聖女の化けの皮を剥がす、最高の舞台にもなる」

 彼の言葉には、揺るぎない自信と、私への絶対的な信頼が満ちていた。この数ヶ月、彼がリリアナの悪事を暴くための証拠集めを着々と進めていたことを、私はこの時初めて知らされた。刺客の証言録から、彼女の金遣いの荒さ、そして聖女の力の偽装に関する証拠まで、完璧に揃っているという。

「だが、危険なことに変わりはない。もし、お前が行きたくないと言うのなら、俺が適当な理由をつけて断る。決めるのは、お前自身だ」

 彼は、あくまで私の意思を尊重してくれた。

 私は、じっと自分の手を見つめた。

 マメだらけで、少しごわついた、貴族令嬢だった頃とは似ても似つかない手。でも、この手で、私はゼロから自分の居場所を築き上げてきた。この手で焼いたたこ焼きが、たくさんの人を笑顔にし、私自身に誇りを与えてくれた。

 私を追放した王都。私を嘲笑った貴族たち。私を陥れたリリアナ。そして、私を信じなかった元夫、クラウス。

 彼らの前で、惨めにうつむく私ではない。

 私はもう、か弱き元王太子妃オリヴィアではないのだ。ヴァルテンベルクで自分の足で立つ、一人の事業家、オリヴィアだ。

 顔を上げると、不安げに私を見つめるレオニール公爵と目が合った。

「レオニール様。私、行きます」

 私の決意に満ちた声に、彼は満足そうに頷いた。

「そう言うと思っていた。……安心しろ、オリヴィア。俺も共に行く。王都では、お前に指一本触れさせはしない」

 その力強い宣言が、私の最後の不安を吹き飛ばしてくれた。

 怖い、という気持ちがなかったわけではない。でも、それ以上に、私の胸の中には、自分が作り上げた「たこ焼き」という作品への誇りと、何があっても私を守ってくれるこの人への信頼が満ちていた。

「最高のたこ焼き、焼いてきます。王都の皆さんを、あっと言わせるようなやつを」

 私は不敵に笑って見せた。

 これは、屈辱の帰還なんかじゃない。私の、そして私たちの、華麗なる王都凱旋だ。そのための準備を、今すぐにでも始めなければ。最高の材料と、最高の仲間たちを連れて、いざ、決戦の地へ。

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