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悪役令嬢の烙印を押され追放されましたが、辺境でたこ焼き屋を開業したら、氷血公爵様が常連になりました  作者: 緋村ルナ


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第七章:新商品開発と、公爵様の不器用な贈り物

「オクト・スマイル」の成功に安住する私ではなかった。大阪商人魂が「一つの商品に頼るのは危険やで」と囁くのだ。私は早速、事業の多角化を目指して新商品開発に着手した。

 幸い、主材料であるモリダコは、レオニール公爵の計らいで安定的に供給される体制が整っていた。モリダコ漁(?)専門の部署まで作ってくれたらしい。公爵様、仕事が早すぎる。

 まずは、モリダコを細かく刻み、特製の出汁で炊き込んだ「たこ飯」。これは、お弁当として販売すると、市場で働く人々を中心に大ヒットした。

 次に、モリダコの足にスパイスを効かせた衣をつけて揚げた「たこ唐揚げ」。これは、お酒のつまみとして、酒場を経営する店主たちから絶賛された。

 そして、極めつけは、このヴァルテンベルク領の数少ない特産品である、濃厚なチーズを使った「チーズたこ焼き」だ。とろりとしたチーズと、熱々のたこ焼きの組み合わせは、特に子供たちや女性客の心を鷲掴みにした。

 私の商才は、自分でも驚くほど留まるところを知らなかった。前世で食品メーカーに勤めていた経験が、こんな形で開花するなんて。毎日が楽しくて仕方なかった。

 そんな私の姿を、レオニール公爵はいつものように、少し離れた場所から誇らしげに見守っていた。彼の表情は相変わらず硬いが、その灰色の瞳が、昔よりもずっと温かい色を宿していることに、私は気づいていた。

 しかし同時に、彼はどこか寂しげな表情を浮かべることもあった。私がどんどん事業を大きくして、新しい世界に羽ばたいていくことが、彼を不安にさせているのだろうか。まるで、自分の手から離れていってしまうのを恐れているかのように。

 そんなある日、彼が珍しく、私の仕事が終わるのを待っていた。

「オリヴィア。少し、いいか」

 彼の手に、布に包まれた大きな長方形の包みが抱えられている。

「なんでしょうか、公爵様」

「……君にだ」

 ぶっきらぼうに差し出された包みを受け取ると、ずしりと重い。布を解いて、私は息をのんだ。

 そこにあったのは、見事な「たこ焼き用鉄板」だった。

 しかも、ただの鉄板ではない。私が今使っているものよりも二回りも大きく、熱伝導率を上げるために特殊な合金が使われているらしい。持ち手の角度、くぼみの深さと間隔。その全てが、使い手のことを考え抜かれて設計されていた。一目で、とんでもなく高価で、特別な品だとわかった。

「これは……」

「俺が、デザインした」

 レオニール公爵は、少し照れくさそうに、そっぽを向きながら言った。

「君がもっと効率よく、もっと美味しいたこ焼きを作れるように、職人と相談しながら……その、作った」

 驚きで言葉も出ない私に、彼は続けた。

「君の努力に対する、俺からの投資だ。だから、遠慮はいらない」

 投資。彼はそう言った。でも、その言葉とは裏腹に、彼の耳はほんのりと赤く染まっている。その不器用な優しさが、たまらなく愛おしかった。

 これは、ただの贈り物じゃない。私の仕事への、私自身への、彼の深い理解と敬意、そして何よりも、温かい愛情が込められたプレゼントだ。

 胸に、じんわりと温かいものが込み上げてくる。

「……ありがとうございます、レオニール様」

 私は、初めて彼のことを、爵位ではなく名前で呼んだ。彼は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに、ふっと口元を緩めた。それは、私が今まで見た彼のどの表情よりも、優しい笑顔だった。

「大切に、使わせていただきます」

 この鉄板は、私の宝物だ。そして、私たちの関係が、もはや単なる領主と領民ではないことを示す、確かな証となった。この鉄板で焼くたこ焼きは、きっと、今までで一番美味しいものになるだろう。そんな予感がした。

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