番外編2:王太子の後悔と贖罪【クラウス視点】
オリヴィアが、そしてレオニール公爵が王都を去った後、俺は父王陛下から、これまでにないほど厳しく叱責された。
「クラウスよ。お前は王太子として、何が最も大切かを見誤った。人の真価を見抜く目を養わず、甘言を弄する者に惑わされ、国にとっての宝を自ら手放したのだ」
返す言葉もなかった。
オリヴィアを追放した後、王太子妃の座に内定したリリアナとの日々は、今思えば空虚なものだった。彼女は常に甘い言葉で俺を称賛したが、その裏では浪費を繰り返し、俺の知らないところで我儘を通していた。彼女の隣にいると、心が満たされるどころか、言いようのない疲労感だけが募っていった。
そんな時、ふと思い出すのは、いつもオリヴィアのことだった。
彼女は、物静かだったが、俺が国務で行き詰っていると、的確な歴史の知識を引用して助言をくれた。彼女の淹れる紅茶は、いつも完璧だった。彼女がいるだけで、執務室の空気が澄んでいるように感じられた。俺は、その価値に、失ってからようやく気づいたのだ。
辺境での彼女の成功の噂を聞くたび、胸がちくりと痛んだ。下賤な食べ物だと侮蔑したのは、そうでも思わなければ、自分の過ちを認められなかったからだ。
そして、食覧会で再会した彼女は、俺の知らない女性になっていた。自信に満ち、輝き、そして、彼女の隣には、彼女を絶対的な信頼の目で見つめるレオニール公爵がいた。あの男の視線が、俺が失ったものの大きさを、何よりも雄弁に物語っていた。
全てが明らかになった後、俺は彼女にひざまずき、許しを乞うた。だが、彼女はもう、俺を見てはいなかった。彼女の瞳に映るのは、北の公爵ただ一人。俺の入る隙など、どこにもなかった。
父王から王位を継いだ俺は、あの日以来、私情を捨てることを誓った。オリヴィアへの贖罪の念を胸に、ただひたすら、国のために、民のために尽くす。それが、俺にできる唯一のことだと信じて。
時折、部下にヴァルテンベルク領から「たこ焼き」を取り寄せさせることがある。一人、執務室で食べるその料理は、驚くほど美味しかった。
一口食べるごとに、あの日の自分の愚かさが胸に蘇る。これは、俺が生涯背負っていくべき、後悔の味だ。
北の空を見上げ、彼女の幸せを静かに祈る。それだけが、今の俺に許された、ささやかな想いだった。




