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悪役令嬢の烙印を押され追放されましたが、辺境でたこ焼き屋を開業したら、氷血公爵様が常連になりました  作者: 緋村ルナ


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第十二章:過去との決別、未来へのプロポーズ

 リリアナの悪事が全て白日の下に晒され、彼女は捕らえられ、その罪の重さに相応しい裁きを受けることとなった。王都を揺るがした偽聖女事件の顛末は、あっという間に王国中に知れ渡った。

 事件の解決後、私は国王陛下に王宮へと召し出された。

 玉座の間の上座から、国王陛下は私に深々と頭を下げられた。

「オリヴィア・クライネルト。いや、オリヴィア嬢。そなたには、まことに申し訳ないことをした。我が国の至宝であるそなたの価値を見抜けず、偽りの言葉に惑わされ、そなたを追放してしまったこと、心から詫びる」

 そして、驚くべき提案がなされた。私の名誉を完全に回復し、望むならば、王宮に復帰させる、と。それは、私を再び貴族社会の中心に戻すという、最大限の謝罪のしるしだった。

 その時、一人の男が私の前に進み出て、その場にひざまずいた。

 クラウス王太子だった。

 彼の顔には、深い後悔と苦悩の色が浮かんでいた。

「オリヴィア……。私が、私が全て愚かだった。リリアナの甘言に惑わされ、君というかけがえのない存在を、自らの手で手放してしまった。どうか、この愚かな私を許してほしい。そして、もう一度……もう一度、やり直してはくれないだろうか」

 それは、真摯な懇願だった。かつての傲慢な王子の姿はそこにはない。ただ、失ったものの大きさに打ちひしがれる、一人の男がそこにいた。

 だが、私の心は、もう微動だにしなかった。

 私は、ひざまずく彼を見下ろし、静かに、しかしはっきりと首を横に振った。

「殿下、お顔をお上げください。私は、もう殿下をお恨みしてはおりません。むしろ、感謝しているくらいですわ」

「……感謝?」

「はい。もし、あのまま王太子妃として王宮に留まっていたら、私は本当の自分を見つけることも、心から打ち込める仕事を見つけることも、そして……本当に大切な人に出会うことも、ありませんでしたから」

 私の視線は、部屋の隅で静かに私を見守る、レオニール公爵へと注がれていた。

「殿下、私はもう、あなたの妃ではありません。私の居場所は、王宮にはございません。私の居場所は、私の焼いたたこ焼きを『美味しい』と笑って食べてくれる人々のいる、あのヴァルテンベルクにあります」

 私の言葉は、過去との完全な決別を意味していた。

 失意に沈むクラウスを残し、私はレオニール公爵と共に、王宮を後にした。

 ヴァルテンベルクへの長い帰り道。広大な草原が、美しい夕日に染め上げられていた。私たちは馬を降り、しばしその景色を眺めていた。

「……よかったのか」

 ぽつりと、レオニール公爵が言った。

「王宮に戻れば、何不自由ない暮らしが約束されていたはずだ」

「いいえ。私には、今の暮らし以上の幸せはありませんわ」

 私はきっぱりと答えた。自由で、自分の力で生きて、そして、彼のそばにいられる。これ以上の幸せが、どこにあるというのだろう。

 その答えを聞いて、彼は満足そうに頷くと、私の前に向き直った。その真剣な表情に、私の心臓がどきりと跳ねる。

「オリヴィア」

 彼は、私の手を取り、その灰色の瞳でまっすぐに私を見つめた。

「俺は、君の焼くたこ焼きが好きだ。君のたくましいところが好きだ。困難に立ち向かう強さが好きだ。そして、君の笑顔が、君の全てが好きだ」

 彼の言葉は、貴族が口にするような甘い愛の囁きではなかった。朴訥で、飾り気がなくて、でも、心の底からの本心であることが、痛いほど伝わってきた。

「俺の隣で、これからもずっと、君の好きなものを作って生きていってほしい。オリヴィア、俺と、結婚してくれ」

 それは、王侯貴族の求婚とは全く違う、素朴で、どこまでも誠実な言葉だった。

 私の瞳から、涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。でも、それは悲しみの涙ではない。喜びと、幸せと、愛しさが溢れて止まらない、温かい涙だった。

 私は、満面の笑みを浮かべて、力強く頷いた。

「――はい、喜んで!」

 夕日が、幸せに包まれた二人を、いつまでも優しく照らし続けていた。

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