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ラブコールは銀河から――僕が地球代表だそうです  作者:


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9/13

シャバへの復帰

 国際会議が終わり、ひと段落が付いたというのに、山田は離脱研に軟禁されたまま放置されていた。

 佐野に帰りたいと伝えてはいる。


「会議も終わったし、もう解放してもらってもいいでしょう」


 そう言ってみても、「まあまあ」としか返ってこない。

 考えた末に、提案をしてみた。


「あの、離脱経験のある方々にアドバイスをするとして、二十四時間、僕がここに居て、どうなるものでもないですよね」


 改まって佐野にこう切り出すと、非常に驚いた表情で山田を見た。

 まるで、急に犬がしゃべりだしたかのような顔をしている。

 さすがにがっくりときた。


「僕にも、考える頭が付いているのです。ついでに話せますので」


「あ、いやあ。何の事かな?」


 こいつなら文句も言わず、黙って言うなりになると思っていたな、と確信した。


「つまりですね、今の状況、僕は国家権力に拉致監禁されているも同然です。諸外国にこの状況をリークすれば、どうなると思いますか?」


(おお、良く舌が回る)


 山田は自分自身に感動していた。必死になれば、結構できるものだ。


「で、どうしたいのでしょうか」


 急に言葉遣いが丁寧になった。


「そろそろ、僕をいつもの生活に戻してください。この仕事を続けるにしても、時間を決めて通うので十分でしょう」


はあ、まあ」と口ごもってから、しばし考え込んだ。


「相談してみます」

 そう言って佐野は出て行った。


 この数日、山田はいつもの仕事が恋しくなっていた。


「ああ、戻りたい。そしてラーメンが食べたい。カツ丼も食べたい」


 そう口に出すと、ますます我慢できなくなってくる。

 好物のラーメンを、いつもは週に二回は食べているのに、一ヶ月近く食べていない。

 カツ丼は特に興味がなかったはずだけど、やはり取調室のイメージがこびりついているようだ。


「カツ丼出してくれなかったもんな。薄い茶しか出てこなかった」

 そこに不満が残っているのもある。


 数時間後に三人が部屋にやって来て、明日自宅に送り届けると約束してくれた。そして今後の相談が始まった。

 腹立たしい事に、彼らは言われて初めて、山田を拘留する無意味さに気付いたようだ。


「まずは、今までの報酬を支払います。金額は一日5万円で一か月三十日分をお支払いします。それに国際会議出席手当十万円を加えて、160万円になります」


 どうだ、という顔で金額を告げられた。

 拉致されてから二十日が経っていた。

 十日分多いのを慰謝料と考えると、だいぶしょぼい。訴訟大国なら、桁が二つ位違うだろう。

だが、国によっては命に関わることも有るのだ。そう思って、贅沢を言うのはやめておいた。

 そして次の朝に、車で会社の前まで送ってもらうことで話がついた。

 一人暮らしの部屋に戻っても、実感が沸かない気がしたのだ。


 いつものフロアにエレベーターで上がり、自分の席に向かう。

 椅子に座り、机の上を撫でまわした。

 山田は机につっぷし、慣れ親しんだ匂いを嗅いでいた。


「おい、お前、山田か? 今までどうしていたんだ」


 大声で話し掛けてきたのは松岡主任だった。


「おはようございます。離脱研で実験の補助をしていました。会社にも連絡を入れたのですが、お聞きになっていませんか?」


 そこは手を打っていた。

 会社から連れ去られ、その後、離脱研で二週間ほど働いてもらうと連絡を入れているが、何の仕事かは明らかにしていない。

 そのため実験補助で押し通すことになったのだ。


「なんで、いきなり離脱研で働くことになったんだ」


「初めは人違いだったのですけど、機密にも少しだけ触れたわけです。それで国際会議終了まで外出禁止になり、実験の補助作業をしていました」


 この言い訳で、不在だった二十日間を煙に巻いてしまうのに、スピーカーの松岡主任は適任だ。

 相変わらず流されやすい松岡主任は、あっさり流されてくれた。


「やっぱりな。言わなくて良かったよ。お前が離脱体験者だなんてありえないもの」


 アハハと気分良さげに笑い、自分の席に戻って行った。これで、他の社員にも広まるだろう。一件落着だと山田はほっとした。


 その日のランチは、千二百円の餃子・炒飯・ラーメンセットを食べに行った。贅沢だ。

 明日はカツ丼に決めている。

 山田は幸せを嚙み締めた。


 この日から山田の生活は変わった。

 週5日の就業日の内三日を会社で、二日を離脱研で働く。この仕事は長くとも半年以内には終わる予定だ。


 週二日の仕事で、月給は会社の二倍。これには口止め料も含まれる。

 会社の給料は、国からの補助が入って満額もらえる。つまり以前の月給の三倍だ。これでは、生活がゆるゆるになりそうで怖い。


 現に給料日の今日、約70万円が振り込まれた口座を見た山田は、今から2300円のランチを奮発しようとしている。

 会社から近い、ステーキチェーン店の『プチ贅沢ランチ』だ。


 目の前に運ばれた鉄板には、こぶし大のハンバーグとバターが流れる丸ごとのジャガイモが載っている。ご飯は大盛りで、食後にコーヒーとデザートまで付く。

 こんなに幸せでいいのだろうか、と泣きそうになった。


 大満足で店から出ると、同期の二人が、斜め向かいの立ち食いそば屋から出てきた。


「おいおい、贅沢してんな、山田。離脱研のバイトで潤っているんじゃないの?」


(おいおいはこっちだよ。変な絡み方するな!) 


「別に副業しているわけじゃないから、週五勤務で変わらないよ。今日は給料日だから、ちょっとした贅沢だよ」


「ふうん、そうか」となんとなく納得している。


「ハンバーグ、うまかったよ。デザートまで付くんだ。お前らも行ってみろよ」


「なんだ、ハンバーグか。やっぱり山田だな。なんか安心する」


「え? げんこつみたいなハンバーグに、丸ごとのジャガイモだよ?」 


 山田が戸惑っている内に、彼らは嬉しそうに笑いながら、「じゃあな」と言って歩き去った。



 週二日の離脱研での仕事は、立花たち三人の実験サポートだ。


 出社すると、まずはその日の実験対象者を確認する。

 立花だと嬉しいが、小森だと、少し面倒くさいし、水野だと憂鬱になる。美人だけど嬉しくない。


 残念ながら、今日は憂鬱な日だった。水野が対象者なのだ。


 何が憂鬱かと言うと、文句が多いのだ。

 疲れるのは嫌。暑いのは嫌。メイクが崩れる。

 おまけに、グラついた体を支えただけで、セクハラだと言いだす。


「山田さん。私に触りたいって気持ちはわかるけど、ちょっと困るわ」


 実験終了後、山田はまた佐野に相談を持ち掛けた。


「水野さんの時は、女性の世話係を付けてください。ふらついたのを支えただけで、セクハラとか言われたら、怖くて何もできません」


「まあまあ、そう言わず」


「まあまあ、じゃありません。対策してもらえないなら、自衛のために、僕は実験補助を降ります」


 唸っていた佐野が、上司と相談してみますと折れた。

 その提案は通り、次回からは女性スタッフが付くことになった。


 山田はほっとした。

 だいたい水野は露出高めの服装が多いのだ。

 実験用にスポーツウエアに着替えても、何となくあちこちが出ている。


 そんな姿で喘いだりされると、目のやり場に困るし、サポートするのもためらわれる。

 彼女いない歴、年齢の山田には、全く対応不可能だ。

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