候補者たち2
川原の人気は四番まで下がったが、まだまだ勢力は保っている。まるで台風の話のようだが、まさにそんな感じなのだ。
日本全土に威力を振るいそうな一番人気は立花。
二番人気は西高東低。関西に住む小森。
彼は奈良の寺院の僧侶で、仏教関連の大学教授もしている、五十台の落ち着いた感じの男だ。
輪廻に関しての研究で、瞑想中に、魂が空を飛んだそうだ。
見てくれはかなりそれっぽいし、弁がたつ。
口から生まれてきたごとく、何を聞かれても上手く返す。
だから、ワイドショーでは引っ張りだこだ。場持ちが良く見栄えもする、使いやすいキャラクターなのだ。
三番人気は恐山のイタコ。自らをシャーマンであると紹介する、水野恵子。通称ケイ。
珍しく女性の立候補者で、若くて美人だ。こちらの勢力範囲は全域を網羅する。ただし、その多くは男性。
口寄せで霊を呼び、その時に魂だけが空に飛んだと言う。
こちらもワイドショー向けだ。口寄せの映像が、色っぽくてかなり魅せる。ゆえに隠れファンも多い。
最近は、誰を押しているかが、挨拶替わりのような毎日になっている。
松岡主任はあっさり水野の色気に負けて、彼女押しに転向した。
心配するまでもなかったのかもしれない。
世間がこんな調子で騒がしい中、国の機関、『体外離脱と宇宙空間飛行』研究所、短縮して離脱研は、多方面にわたる調査を行なっていた。
仏教会やヒンズー教会、ヨガ協会までもに内部調査を依頼し、該当する人物がいないかを探った。
そんな中、WEB調査を担当する班は、地道に情報の洗い出しをしていた。
班長は、メンバーに告げた。
「そういう体験をしたら検索するはずだ。それに何らかの発信をしていると思う。Xなどには調査を依頼済みだ。君たちも、フェイスブックや投稿サイトで、そういった関連の話を拾い出してくれ」
三年前中心で情報を探らせ、上がって来た件に関して精査する。
そうやって上がって来た中に、リアリティのあるものがあった。
それは質問板に挙げられたもので、最近消去され、アカウントも消されている。
その内容は、巷で評判になっている、川原の話と同じだった。
これによって、離脱研は、川原を第一ターゲットに定めた。
ところが人物照会を行うと、そのアカウントの持ち主は川原ではなく、平凡なサラリーマン、山田太郎という男だった。
そのため両者に対して聞き取り調査を行うことになった。
川原はその話を受けて大喜びし、すぐにメディアに発信した。
「私、川原俊彦は、本日、国家機関より、聞き取り調査に呼ばれました。ここにご報告いたします」
そのニュースが流れた途端、彼のランキングは一位に上がった。
同じ頃、山田太郎の携帯電話に着信があった。ナンバーを見て山田はつぶやいた。
「東京ナンバーだけど、知らない番号だな」
最近、詐欺電話が多いので、無視してブロックした。
山田太郎の調査担当になった佐野は、ブロックされた番号を見つめて唸っていた。
ブロックされては、直接出向くしかない。
佐野は、抵抗された場合用に、若手のガタイのいいのを二人従えて、山田太郎の勤める会社を訪ねた。
受付で、国勢調査で確認事項があると、架空の要件を告げ、山田太郎を呼び出した。
山田は首をかしげつつも、今朝の電話がそうだったのかと納得し、のこのこと打ち合わせブースに出掛けたのだった。
すぐに名刺交換が行われ、そして要件が告げられた。
「山田さん。以前ネットの相談板に、体外離脱の体験を載せていましたね。それについて伺いたくて参りました」
山田は絶句した。消去するのが遅かったようだ。
気を取り直し、一応、「何のことかわかりません」と空とぼけてみた。
「ネタは上がっているんですよ」
それはそうだろう。国家機関が本気で調べたら、ばれるのが当たり前だ。
山田は観念した。
「はい。すみません。僕が書きました」
「いや、別に何か悪い事をしたわけではありませんから、いいのですが、宇宙に行ったのはあなたですか」
山田は思わず、びくっと首をすくめた。
今メディアに出ているような、華々しい面々と並ばされた自分の姿が脳裏に浮かんだ。駄目だ、絶対にそれは避けたい。
「ありえません。僕が変な状況に落ちいったのは一瞬の事です。そんな遠くまで行っているはずがない!」
今度は佐野がびくっとした。山田の断固とした否定と、言葉の強さに驚いたようだ。
「でも、あの体験では、どこにいるのかわからなかったのでしょ」
「それはそうです。でも、一瞬でアンドロメダまで行けますか?」
もうやけくそだった。そんな大それた所業は、自分には似合わないと、山田自身が確信しているのだ。
言い切る山田は、非常に自信にあふれている。
佐野は、気圧された様子だったが、引くわけでもなかった。役所の人間特有の平坦な調子で告げた。
「とにかく一度、研究所までご同行願います」
やっぱり連行されるのだ。
山田は観念した。
明日でいいかと聞いてみると、川原は、「今すぐ、このまま」と言う。
とても任意同行には思えない強硬さだ。
国家権力と、ガタイの良い二人に圧を掛けられ、会社に早退届を出し、離脱研に向かうことになった。
会社では、山田が何かしでかして刑事に連行されて行ったらしいぞ、という噂が広まった。
山田が連れて行かれた先は、離脱研だった。こじんまりした会議室に通されると、目の前に茶が置かれた。
しばらく一人で茶をすすっていると、ドアが開き、先ほどの佐野と、もう少し年配の男女が入って来た。
佐野が山田の事を紹介し、
「先ほど幽体離脱については認めました」と締めくくった。
「で、君かね?」
男の方、田中がストレートに聞いてきた。
「違います」
山田もストレートに返した。
「でも、幽体離脱は認めるのね」
女の方、井口が念を押した。
「さあ、僕にはわかりません。実感はないし、証拠もないですから」
「質問版に書いた事は本当なの?」
「はい、実体験です。夢か幻覚を見ていたのかもしれないけど、それで片付けるには、あまりにリアルでした。それで他の人にも聞いてみたんです。でも、まともな返答はありませんでした」
聞いている三人の表情が引き締まっていく。
「確かに、茶化したり、貶したりするような書き込みしか無かったわね」
「同じような体験をした人がたくさんいると思っていたんです。よく漫画や小説で見るし、ヨガの達人とかヒンズー教の僧とか。そう思いませんか?」
「今のところ、そういった話は見つからないわ。実際に体験したと、自分で言っているのは珍しいのよ」
三年経って得た回答がこれか、と山田はがっかりした。
今回の事件で、体験した事に関して何かわかるかと期待していたのだ。




