☆おまけ☆
今、日野はUSJのベンチに座っている。
「まさか、こんなことになるとは⋯⋯」
そう言いながら、すぐに打ち消した。
「いや、わかりきった事だった」
昨夜は鶴橋にて焼肉で盛り上がった。
朝はバイキングではしゃいだ。
そして朝一で、ハリー・ポッター・アンド・ザ・フォービドゥン・ジャーニーに乗った。
若者たちに付き合って、調子に乗って食べたせいで、グロッキー寸前だった日野の胃はあっさり降参した。
まさかアトラクションが、あんなに激しいとは思いもしなかった。
まるで胃レントゲンの台の上にいるようだったな、と思い返す。
隣にはマナが座っている。彼女も少し顔色が悪い。
「マナ、気分はどう?」
「まだ少し気持ちが悪いけど、どうにかね」
今日はKカルテットの4名と日野、マナ、ケリー、フロン、サシム、ミーシャ王女の十人と護衛達数人とでUSJに来ている。
いつも受け身の山田が、珍しく打ち上げをしたいと言い出したのは、二カ月ほど前のことだった。
ジェイを辞める前に、お世話になった皆に会っておきたいと言う。
それもそうだと賛成し、関係各位に打診すると、速攻で参加連絡を返してきた。
それで、ちょうどこの時期に決まっていた、ナイン星王女の訪問と、マナの地球大使館着任に合わせ、ケリーたちを招待することになった。
ケリーもフロンも、無理やりスケジュールを空けたようだ。
「フロンはそのために、二星間の紛争解決の依頼に、通常の倍の傭兵部隊を繰り出したそうです。圧倒的武力で両者を制圧し、無理やり和解させたって。怖いような迫力だったって唸ってました」
これは高橋情報だ。彼はフロン傭兵隊の隊員たちと通信友達になって、色々とやりとりしている。
ケリーはナイン星との交流を深めると言って、他の公務を父王に押し付けて来た。
「父親は娘には甘くなると言いますからね」
日野がそう言って笑ったら、
「拳で語り合って、私が勝ったのよ」と笑われた。
打ち上げは、宇宙局持ちで行われることになり、大がかりな方向に進みそうになったが、それを日野が抑えた。
お別れ会として、小ぢんまりしたものにしてあげたかったのだ。
山田のお勧めの焼き鳥屋を借り切り、宇宙局の調印を担当した部署、コアチーム、外星からの客人の総勢四十数名程度で、ゆっくりと過ごすことになった。
今回の訪問で、ケリーの随行員は五人だけ。これは護衛の必要がないせいで少ないという。
「地球の噂を聞いて、くじ引きで随行者を決めました。十人程度は連れて行ってもらえると思っていたのに、王女が邪魔だって言い切ったから。俺たち土産係というか、もう輸入業者の買い付けですよ」
随行員は、若くて品のよい男女、それに外交官たち。年配の女性が1名いるが、ケリー王女の乳母だそうだ。絶対に行くと言って、勝手に同行メンバーにエントリーした、ケリー王女が唯一逆らえない相手だという。
ここのメンバーは、とても陽気な雰囲気だ。でもケリー王女に対する態度は非常にうやうやしい。
フロンは一人きりで来ている。
身の回りの世話を兼務する秘書がいるが、見た目が物騒で連れて来れないという。
どう物騒なのかは、高橋経由で伝わってきた。大柄で妖艶な毒婦風、迫力の美女らしい。
ジェイに近付けたくないようだ。
多分、山田なら怖気づきそうだが、男女の恋は理屈じゃない。
万が一、その彼女とうまくいってしまったら、怖い。地球も危ない。
「フロンったら、かわいいわね。普通の女の子みたい」
そう言って水野が、地球でのコンパニオン役を引き受けてくれた。
ミーシャ王女はナイン星の親善大使なので、随行員が多い。
彼女の侍女が三名、外交官と事務官が七名、護衛はサシム含めて四名だ。
そちらには地球側からコンパニオンを四名つけている。
外星人たちは、焼き鳥に仰天した。
一口サイズの小さい串を見て、不思議そうにしたが、酒と合わせて食べる内に、表情が激変していく。 そして、やはり大食い大会になった。
つくね、つくね、つくね、の人。
お品書きの順番に制覇する人。
制覇したあと、ねぎま一辺倒になったのはケリーだ。
フロンは砂ズリ党になった。
サシムは手羽、皮の塩派。
ミーシャはせせりと梅しそ巻に、はまっている。
そして醤油のタレが旨い、炭の香りと、焦げた部分が堪らないと、皆が口を揃える。
この分だと、しょうゆと備長炭と串も輸出できそうだ。
日野はホクホクしていた。
この日は存分に食べて、飲んで、大いに盛り上がった。
ジェイはその日、ケリーたちや宇宙局のメンバーに積極的に話しかけて回っている。
その内、ようやく一箇所に落ち着き、最後には調印の旅の仲間で集まって、にぎやかに飲んでいた。
その間に、どこかに観光に行きたいという話が持ち上がった。
「私は京都に行ってみたいです。着物が着たい。それとUSJに行ってみたい」
一番に声を上げたのは、マナだった。日本の勉強で、とても気になっていたことだと言う。
他のメンバーはあまり日本を知らないので、すぐにその案に乗っかった。
そして今、日野はここで吐き気と戦っているのだ。
ぼんやりとみんなの様子を見ると、近くのお店で被り物を選んでいるらしい。
フロンがキティの白いふわふわ帽子を被っている。
犯罪レベルに可愛い。そしてもちろん目立つので、周囲の人が寄って来て、取り囲まれてしまった。何かのイベントだと思われてしまったようだ。
「フロン、可愛らしすぎて目立つ。これはお土産にプレゼントするよ。他の、もう少し目立たないのを被ろうね」
ジェイがそう言ってキティの帽子を持ってレジに向かう。
「彼、特に何も考えていなそう。罪ね」
マナの言葉に日野も頷く。
フロンが嬉しそうだ。地球に来るのに、五十隻もの戦艦を、無意味に率いて来た女には、とても見えない。
クッパをかぶっているケリーが、フロンにからんだ。
「かわいい子ぶってんじゃないわよ。凶暴なくせに」
「これが素よ。悔しかったらかわいくなってみなさい。恐竜の帽子を選んだのが敗因ね」
くっと詰まって、帽子を取った。
口をとがらせてクッパを見つめている。すごく気に入った様子で、未練があるようだ。
日野から見たら似合っているし、良いと思うのだが。
「ケリーはそれが似合っているし、すごくカッコいいよ。ハリウッド女優がお忍びで遊んでいるみたいだ」
ジェイにそう言われて、ケリーの表情が、ぱあっという感じで明るくなる。
クッパを頭に乗っけて、それこそハリウッド女優のように華やかに笑った。
周囲の客たちから、「女優さん?」という声が上がる。
特撮なしで演技ができるアクション女優だな、と日野は気付く。映画界も変わっていくかもしれない。
ルイージのカチューシャを付けたミーシャが、すぐに文句を付けた。
「ジェイ、女性が三人いて、一人だけ特別扱いするのは、マナー違反よ。私とケリーにも、可愛いのを選んでプレゼントして欲しいわ」
「あ、そうだね。ごめんなさい」
ジェイが素直に謝ると、三人ともコロッと機嫌を直した。
そして似合う帽子を選び始めた。ケリーには、ドンキーコングのカチューシャ、ミーシャにはヘドウィグの帽子を選んだ。どちらも凄く似合っていてかわいい。
二人共大満足のようだ。
「じゃあ、これはお土産だよ。今被ると、さっきのフロンのようになるからね」
そう言って手渡した。その間に、フロンはヨッシーの被り物を選んで、被っている。
水野と一緒に選んで、お揃いにしたようだ。
護衛たちはミニオンの被り物を被って、少し離れた所にいる。
ケリーの所の自称護衛の三人は、ターキーレッグかチュロスを持って、雰囲気を満喫している模様。
反対に、ミーシャの護衛たちは真剣な表情だ。
だが真剣なミニオンは、何かやらかすのがお約束。
そのため、まるで役者がショーをしているように見える。
サシムがリーダーだな。やれやれ、あいつは強いのに、何であんなにコミカルなんだ。
「サシムさん。大丈夫ですよ。うちの姫様が付いていますから。それにフロンさんもいるでしょ。ティラノとラプトルに守られているようなものです」
ヘラッとケリーの従者に声をかけられ、サシムが彼らを見た。
「確かに、あのグループを襲うのは怖いよな」
「正気の悪者なら、絶対に手を出しませんよ」
サシムはチームの警戒度を下げさせたようだ。
この園内では彼らは全く浮かない。髪がオレンジだろうが、青っぽかろうが、ここでは違和感がない。
明日の京都ではどうだろう。
老練な千年の都人たちは、「なんか、いてはるわ」とスルーしそうだ。
無邪気な観光客には、異世界バトル物のスチール撮りと言えばいいか。
思ったより問題がない。
日野は疑問に思う。
こんな風にジェイを中心に、バランスの取れた状態が続くのは理想的だ。
なぜ、それでは駄目なのだろう。
もう一度、山田を説得してみようかと思い立つ。
その時、立花と目があった。
立花はふっと微笑んだ。どうもお見通しのようだ。
この男はなんで山田に、こんなに甘いのだろう。
この男が山田を少しずつ教育し、支えながら押し上げているのは明らかだ。それなのに、彼を引き留めない。
彼がしたいようにする、そのために自分が重荷を負うという。
山田はやわに見えて強靭だし、度量がある。現在ではジェイの状態が板についてきている。たぶんKカルテットの他のメンバーも、それに気付いている。
それでもたまに愚痴るのは小森だけで、水野も何も言わない。山田が抜けることを認めているようだ。
このまま、ジェイが消えてしまって、いいのだろうか。
もう少ししたら、ジェイはいなくなる。
☆おまけの終わり☆
これで完結にします。
前後編、もしくは3部構成で考えているので、続編をその内出すと思います。
また読んでくださいね。




