大会の始まり
「Kカルテットの4人です。日野事務長から紹介があります」
日野はやっとで人垣を抜け出した。
順番に紹介をしてから、四人を席に案内しながらコソッと声をかけた。
「食事がだいぶ気にいったようで、盛り上がっているんだ。少し相手して、さっさと抜けてくれ」
ジェイ以外はこういった状況に慣れているようで、ごく平静だ。
ジェイ一人、目が泳いでいる。
それだけでなく、ジェイがはがれて、山田が出てきてしまっている。
「ジェイ目がけて群がるぞ。いけるか?」
「あの、目がギラギラしていて怖いです」
どうやら山田は怯えているようだ。
怖いよなあ、と日野でも思う。こんなのに慣れているほうが珍しいのだ。
「私に任せてください。ファンのあしらいには慣れています。ジェイはなるべく、ぼーっとしていてください。ファンサは不要です」
「はい。付いていきます、立花さん」
見る間に山田に落ち着きが戻っていく。
立花がさりげなく、山田の立ち姿を直すと、何時ものクールなジェイが現れた。
「まるで魔術師ね」
水野の赤い唇からため息が漏れる。
再度カクテルを配り、乾杯し直した。これで少しは場に落ち着きが戻った。
「さあジェイ、行きましょう。先手必勝です」
立花が前に立ち、まだグラスを傾けている美女たちのテーブルに向かった。
「皆さん、地球にようこそ。選抜大会を楽しみにしています。ジェイとそう話していました」
立花がジェイに振った。
「ええ、そうですね。すごく楽しみです」
思いがけないタイミングで横に付かれ、話しかけられたので、とっさの対応ができないようだ。先ほどまでと打って変わって受け身になっている。
「皆さんお強いのでしょう。期待しています」
「僕もです」
キャッと小さく声が上がる。
山田の声はボイストレーニングで磨かれている。いつもとは少し違う声としゃべり方になる。
立花は、いい声質だといつも山田を褒めている。
「当日は応援しますね。楽しんでください」
そう言い、全員と握手して次のテーブルに回る。一つのテーブルに三分程度。
最後のテーブルで挨拶すると、足早に自分たちのテーブルに戻った。
「これである程度満足したはずです。ジェイは随分慣れてきましたね。筋がいい」
立花に褒められてほっとしたのか、ジェイが肩の力を抜き、嬉しそうに笑った。
美女たちから、オーと声が上がる。
日野も驚いた。
魅力的だった。
「仕事があるので、彼らはこれで失礼させていただきます。皆さんは、この後もゆっくりと楽しんでください」
滞在時間が短いのにも関わらず、美女たちは満足げに、その後もパーティーを楽しんでくれた。立花の手腕に日野は感心するしかなかった。
それからの1週間、地球の話題は大会と、ジェイの護衛が誰に決まるかが中心になった。
大会前日、日野がマナに連絡をすると、高橋が珍しく中継をした。
「マナさんが、化粧を直したいから、数分待って欲しいそうです。かなり消耗している様子ですよ」
三分後、げっそりしたマナが顔を出した。
「日野。久しぶりですね。そちらの準備は整っていますか?」
「はい。会場の準備と周辺警備、それとマスコミ対応まで終わっています。観客は無しです」
「ゼロですか?」
「はい。収拾がつかなくなりますので。当日の競技の運営スタッフ以外は、Kカルテットを含む、宇宙局の職員のみです。ところで疲れているようですけど、大丈夫ですか?」
マナが恥ずかしそうに頬に手を当てる。
「女性たちのお世話で振り回されています。会場をこの1週間開放してもらったので助かりました。全員、運転は習得済みです。車でもバイクでも、階段登りと、運転しながらの銃撃まではクリアです」
(……そうじゃない)
「車の運転技術は、日本の交通ルールに従って、安全な運転が出来るかです。信号を理解して従うことが出来るかを見ますので、よろしく」
マナが目に見えてうろたえた。
「教材では市街地でのすり抜けやショートカット、ドリフトを推奨しています。おかしいですね」
日野は警察の正しい運転ルール本を、すぐ送ると告げて交信を切った。
それから競技種目の順番を変更するよう連絡を入れた。
一番が運転チェックだ。
これでふるい落としたほうがよさそうだ。東京都内で、その運転をされたら、一般人に危険が及ぶ。
選抜大会はそれはもう、盛り上がってその日を迎えた。
ほぼオリンピックだ。
スタジアムの指定された場所に、いくつもの巨大モニタが現れ、そこにぎっしりと応援団がいた。
ほとんど、実際にそこにいるとしか思えないクオリティで、人が群がっている。
これはこれでとても良いと思う。応援団同士の交流が出来ない代わりに、争い事も起こらないから。
日野は満足そうに微笑んだ。
「この馬鹿野郎、こっちに顔を向けるな。☆星人の顔なんざ見たくねえ」
「そのまま返すぜ。その臭そうな顔、何かで隠してくれや」
なんでこんな罵倒合戦になっているんだ? と思って横を見たら、マナたちのクルーが、モニターを移動させている。
マナが走ってやって来た。
「すみません。友好関係に問題のある星を隣同士に並べていたようです。場所の調整が必要です」
「あ、そういうことですか。巨人ファンと阪神ファンを隣り合わにしたようなもんですね」
「巨人、ですか?」
「あー。野球というスポーツでのライバル球団です。ファンの熱量が強くて、並べるのは危ないから、通常控えます」
あはは、と二人してなんとなく笑ってしまった。
「今日は楽しみですね。どんな戦いを見せてもらえるのか、わくわくしています」
一番初めは運転技能チェック。
全員見事に、まともな運転を披露し、脱落者ゼロで終わった。
これはさすがだと日野は感心した。
送り込まれた者たちは、ちゃんとこちらの要望に応えてくれる。
「あっさりしすぎだし、少しエキシビションタイムを取りませんか。せっかくだから訓練成果を披露したいです」
マナの申し入れを、日野は快く承諾した。雰囲気を盛り上げるように、日本人女性アーティストの音楽を流す。
車が2列になって走り出した。
それが二方向に分かれると、ドリフトしながら円を描くように走りだした。そしてそのまま交差していく。フィギュアスケートのショーのようだ。
「みんないい腕ですね」
「そうでしょ。皆、最高級の戦士ですから、乗り物への適応は早いんです」
「⋯⋯えーと、護衛ですよね?」
「もちろん、護衛です。地球では護衛は戦士が務めるのではないのですか?」
「日本では護衛と言うのは、不審人物を近付けない役目が主です」
何となく二人で見つめあったまま、しばらく無言になった。
仕掛ける者がいなければ問題はおこらない。もし襲撃されたら、護衛は強ければ強いほどいいのだ。日野は腹を括った。というより開き直った。
「戦士大歓迎です。彼女たちは誰が選ばれてもおかしくない、逸材揃いです。ありがたいと思います」
車を使ったデモンストレーションで、応援席はいいムードに温まった。ぎすぎすした感じが拭い去られ、陽気な雰囲気に変わっている。見応えもあるし、オープニングのショーとしては大成功だった




