美女軍団(美男子含む)降臨
そうやって体制作りが急ピッチで行われている中、銀河中から選りすぐった護衛候補が五十人、地球に送られて来た。
報告を受けた日野は、来る物が来た、とだけ思った。
アルファケンタウリでの調印が終わるまで、期間限定で身辺警護を請け負うと言う。
これは銀河連合の通常の対応で、代表者の暗殺防止用だそうだ。
しかし、それならなぜ八割が美女なんだと聞きたいが、聞いても仕方がない。
そして二割は美男だ。
こちらも同じ意味合いだろうか。いくら星間差があっても、男同士で子供はできないだろうと日野は首を捻った。
だが、普通に考えて、護衛は男のほうが多いのだ。
多分、邪な事を考えていない星もあるのだろう。そう思いたい。
画面の向こうのマナは、申し訳なさそうな表情だ。
「ジェイは寡黙な質のようだけど、女性関係はどうなの? もしかして結婚している?」
「独身だよ。恋人もいないと言ってたな」
「あれだけ目立つ男性が、恋人もいないのは不思議だわ」
「多分、そっち関係に消極的なだけだと思う」
マナは不思議そうだ。
「ニムも彼に熱をあげていたわよ。立花のことも気に入っているようだけど」
「二人とも魅力的だからね。今となっては二人とも、迂闊に女性を近付けられないよ」
「近付きたい女性は多いでしょうね」
「多いなんてものじゃない。それこそだね、子供だけでも欲しいとか言い出す始末だよ」
「考えることは皆一緒よね。もし彼と関係を持つことができたら、大請けできると言われているの。精子一つにかなりの値が付きそうよ」
日野はげっそりした。そうか。そういったことも出来るな。
二人とも気の毒なのか、羨ましいのかどっちだろう。もう常識は通用しない。
「権力者ほど、欲しがるでしょうね。まずは彼がボディガードたちにどう接するか見てみないと、対策の練りようがないわ」
日野は山田の顔を思い浮かべた。
ジェイならスマートに女たちをあしらいそうだが、中身は山田だ。
期待できないだろう。
それに比べると立花は、全く心配がいらない。今だって、ジェイのサポートを完璧に行ってくれているのだ。
女性問題も、立花が付いていれば何とかなると思える。
それくらい頼りになる。
しかも彼は元芸能マネージャー。女性関係を捌くのは業務の一環ともいえる。
(頼れる。真に頼れる男)
「日野? 聞いていますか?」
「あ、はい。上陸と顔合わせですね。ところで五十人も引き連れて歩くわけには行かない。二人ではどうですか?」
「常時二名で交替が必要ですから最低で三名です」
「選択方法は? 何を基準で選んだらいいのでしょう」
「全員、一流の護衛です。銀河で名を馳せている組織のリーダーや、武闘派の星の王女も混じっています。能力的には誰を選んでも問題なしです。あとは相性ですね。ずっと行動を共にしますから」
日野はたじろいだ。王女様がなぜ? 組織を率いるリーダーも、その他色々引き連れてきそうで面倒だ。
「身元は確かなのでしょうね」
「もちろんです」
「単純に護衛が本職の人に絞ってもらえないかな。ややこしそうだから」
マナの眉が下がった。
「そういう忖度がないよう、素のままで判断していただくことになっています。申し訳ない。逆らえない筋の通達です」
「逆らえない、筋⋯⋯ですか」
日野はため息を吐いてからマナに向き合い、選択方法について具体的に詰め始めた。
そして決定したことを、宇宙局の庶務課におろし、準備を命じた。
選別会は、公開のイベントにすることになった。
「どうせ忖度無しなら、この際派手にやる。実際の能力をみて見ておいたほうが、安心感もあるだろう」
それに銀河の女性たちの戦いには興味がある。
まずは体術、それから射撃と挙げていって、そこで止まった。
護衛たちの武器は何だ?
それは地球上に持ち込ませて大丈夫なのか!?
車の運転は?
そもそも彼らは、地球の一般常識をわきまえているのだろうか。
慌ててマナに確認の通信を送った。
返信はすぐに来た。
『言葉は通じるから、地球の常識は少しずつ覚えて貰うしか無いと思う。銃は銀河の最新型を、皆持っているでしょう。ローカルな武器は、それぞれあるわよ。長いムチとか投げ槍とか、植物や動物を使役する種族もいるわ』
『武器の持ち込みは禁止したいんだが、そうもいかないか』
『襲ってくる相手が地球人限定なら地球の武器でいいけど、そうじゃないでしょうから、無理ね』
『植物と動物は勘弁してくれ。環境が崩れる』」
『そうね。それに関しては阻止します』
日野はげんなりした。
今まで接した宇宙人は、すごく地球人と似ていた。地球、しかも日本について知識を詰め込んでいるので、非常に付き合いやすい。
それが今回やってくるのは、力自慢の美女集団で、出身はバラバラ。
護衛と言いつつ、狙いはジェイ。
五十人が三個の椅子を取り合うのだから、荒れるのは必至だ。
「いっそ、椅子取りゲームでもさせるか。それで荒れたらあみだくじだ」
やけっぱちになって日野は叫んだ。
その言葉を、真面目な庶務課の加藤は、日野の横でコツコツ、種目の一覧に入力していた。
体術
射撃
車の運転テクニック
椅子取りゲーム
決まらなければ、あみだくじ
かくして種目は決定し、準備が進んでいった。
地球にとって二台目の宇宙船が、また新宿上空に現れた。
1台目と同じ形状なのは、マナたちの星に一旦集合して、そこの宇宙船でやってきたせいだ。
今回は見慣れているので、少しは余裕を持って、その船体を見ることが出来る。
ワイドショーではコメンテーターたちが、当時の感想を述べている。
「あのときは、映画の中に飛び込んだような気分でした。シュールな光景だった」
「僕は自分がおかしくなったのかと思って、すぐに寝直しました」
そういった平和なコメントが流れるなか、アナウンサーがそれを遮り、叫んだ。
「あ、今宇宙船の下に人が現れました」
中継モニターに、お茶の水の宇宙局の門が映っている。先ほどまで無人だったそこに、五十人の護衛候補が降り立っていた。
出迎えるのは、日野をはじめ宇宙局の役職者たちだ。
宇宙から集められた美女たちは、いかにも強そうな女性から、儚げに見える女性までバラエティに富んでいる。美男子は華やかなのから渋いのまでいるが、格別に美男子だ。やっぱり邪な思惑しか想像出来ない。
赤い髪の大柄な女性は、動作もジェスチャーも華やかでダイナミック。
肌が真っ白な細い女性は、雪の女王のようだ。
地球人から見たら、神話の神か、物語の王子様、お姫様のような者たちが群れている。
中には小柄でキュートな女性もいて、そちらは妖精のように見える。大きくて強そうな女たちの中では逆に目立つ。
だが、彼らは美しいだけじゃない。強いのだ。それは目を見たら分かった。皆、好戦的な目を互いに向け合っている。
これは荒れないはずがない。
日野は覚悟した。
彼らの引率は、マナとマナの宇宙船の乗務員のようだ。皆オレンジ系の髪色をしている。総員、五十五名が建物に入っていった。
全員が会議室に収まった頃合いを見計らい、日野は第一声を発した。
「皆さん、地球にようこそ。私は宇宙局準備局長の日野です。一週間後にジェイの護衛を選ぶ大会を開きます」
そう言って見回すと、百個の目が日野を見つめた。どの目も美しいし、鋭い。
「選抜方法は、皆さんの実力を競い合ってもらって決めます。地球と銀河連合との親睦も込みで、公開の選抜大会を開きます」
会場はざわついたが、その雰囲気は非常に陽気なものだった。
パッと手が上がる。
「選抜大会に、モニター応援を呼んでもいいですか?」
日野が、一瞬戸惑う。
すかさずマナが説明してくれた。
「空間に大型モニタを据えます。まるでそこにいるかのような臨場感があるもので、双方向にやりとりできます」
五十の惑星の応援団か。オリンピックみたいだな、と想像する。
「対応いたします。現在、種目の候補として、体術、射撃、運転技術、椅子……椅子取りゲーム?」
オオッと声が上がる。
マナが、思わずというように声を上げた。
「本格バトルですか。その種目がメインですね」
一体どんな翻訳がされているんだ、と日野はいぶかしんだ。
「望むところよ。楽しみだわ」
赤毛の大柄美女が言うと、次々に同様の声が上がった。燃え上がっている。
日野は最後の項目『あみだくじ』に目をやり、しばし目を瞑った。
すぐに、あの時のあれか、と思いつく。
普通、本気で言ってないと分かりそうなものだがと、目頭を押さえる。
興奮気味の美男美女たちを見て、これは取り消せないと諦めた。
「種目については後日改めて発表します。まずは地球に慣れていただきたい。1週間の準備期間を設け、練習会場を提供します」




