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ラブコールは銀河から――僕が地球代表だそうです  作者:


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マナからの緊急交信

 日野は、モニタの前でネクタイを閉め直し始めた。

 それをしながら、改めて自分の責任の重さを考えた。

 どこかの国の王とかではなく、それの更に上の、更に上の、更に上くらいの人物が地球を、そして付き詰めたら山田を求めている。


 まずは日野自身が慎重で毅然とした対応をしなければいけない。流されてはいけない。

 マイクでコントロールルームに声を掛けた。


「交信を開始してくれ。現状の説明を行う」


 高橋が、「へーい」と気の抜ける応答をし、モニタが明るくなった。


「お待たせしました。全容は掴めていませんが、実験中に一人の被験者が離脱したことを離脱研究所の所長に確認してきました。今言えるのはこれだけです。この短時間で、詳しい話までは聞けていないことは、おわかりですね」


 マナの目が落ちくぼんでいる。

 後ろの通信コンソールはライトが点滅しビープ音が鳴り続けている。はっきり言ってうるさいし、神経を逆なでされる音だ。


「それ、落ち着かないでしょう。カットできないのですか?」


「ホットラインで、相手が切らないと切れません。連合の主要メンバーとのもので、数個あるのですが、鳴りっぱなしです。通常はよっぽどの事が無い限り使われません。それだけ皆が興奮しているのです」


「それでも、この短時間で報告は無茶だ。こちらでも検証しないといけませんし」


 そう言ってから日野はふと気になったことを聞いた。


「そんなに興奮しているなら、地球に来たい者も多いのではないですか?」


「もちろんです。興味を持つ者は多いです。軽い興味から、憧れ、崇拝、神扱いまでのグラデーションで。学術的興味を持つ者も凄い勢いで集まってきています。権力者はまた違う意味で興味深々です」


「危険な種族や、いわゆる敵に回る勢力などはないのでしょうか」


 マナが唇を噛んだ。


「もちろんありますよ。一番懸念されるのは、アンドロメダ銀河連合の動きです」


「なぜです?」


「最初の飛翔で、停止した場所が天の川とアンドロメダの間だったので、あちらも、この飛翔体に気付いたようです。偵察隊が多数出張っています。軍事力のバランスが変わることを恐れているのでしょう」


「精神エネルギーで宇宙を飛ぶだけの事で、軍事に使える力ではないと思いますが」


「偵察、陽動、それだけでも大きいです。未知の飛翔体が、艦隊のど真ん中を超高速で突っ切ってごらんなさい。動揺しないではいられません。それがワープ先も追えずに消える。衝撃的です」


 そういう風に考えたことは無かったが、言われてみれば納得だった。 

 未知の武器にもなりうるのだ。では、山田は、地球は大丈夫なのだろうか、とそこまで考えてから、溜息をついた。


「では、余計に迂闊なデータを出せませんな。離脱者についても、特定されないように情報を操作しないと危ないわけだ」


 日野とマナは話し合い、三つのことに同意を取り付けた。

 ・あの飛翔体は地球人の精神エネルギーだった。

 ・ファーストコンタクトの人物は特定された。

 ・一番の急務は、銀河連合内の騒き゚を抑えること。


 異質な技術を持つ新種族として、辺境の星、地球のことは天の川銀河で話題になっている。

 だが、精神だけが身体を離れて活動する、非常にレアな種族と認定された今、その興味の度合いは爆発的に拡大し続けている。

 それが実験に応答したと言う話は、もうとめどなく広がっているそうだ。


 この話は、すでにアンドロメダにも伝わっていると思ったほうがいい。

 最初に極秘扱いにしなかったのが失敗だったと、二人は苦い顔を向け合った。


「最初に口にした私が言うのもなんですが、あまりに荒唐無稽で、本当にあるとは信じていなかった。それが敗因ですね」


「私もです。何か別の要因が働いて、ああいう現象になったと思っていました」


「ほう、どんなものですか」


「例えば探査機です。AI搭載の自律制御。帰りはワープでなく消滅していた。そういった想定もあったのです」


 二人は黙って見つめ合った後、ため息をついた。


「「まさかねえ、本当だったとは」」


 二人の言葉がシンクロする。


「いや、お互い、気苦労ですな」


「はい、本当に」


 マナがうっすら笑って下を向いた。

 日野は急に彼女が可愛らしく見えて、ドキッとした。


 初回の発表について、それから入念に話し合った。

 その合間に、個人的なことも少し。

 そして二人の間に芽生えた何かは、少しずつ育っていった。


 そこで決まったことの一つは、対象人物の正体を隠すこと。

 

 彼の本名も居場所も全て隠す。

 架空の名で銀河連盟との加盟交渉、調印までを済ませてしまう。

 連合規約上、そこまでは彼本人でないとややこしくなるが、生体認証なので、名前などの属性は不問だそうだ。


「ところで、彼、でいいのでしょうか。男性ですか?」


「はい」


「それは、交配可能な種族が色めき立ちますね」


 日野はポカンとしてから、ぎゅっと眉間をつまんだ。


「そういう問題も起きるか」


 ちょっと口ごもってから、思い切って疑問を口にした。


「交配可能なんでしょうか」

「可能です」


 ⋯⋯なぜ断言なのだろう? と疑問に感じたが、すぐに色々な都市伝説が浮かんでくる。

 あっちサイドでも、何らかの実験は行われているのかもしれない。

 こっちもか。

 地球側の今までの研究結果を開示してもらわないとまずいだろう。もうこれからは、国単位の話ではなくなるのだ。


 そういう細かいことを含め、連合に加盟するための組織を作る必要がある。

 

「各惑星は、どのような単位で加盟しているのでしょう。例えば惑星上の国単位での加盟はありますか?」

 

「いいえ、一惑星一単位です。だからこそ、ファーストコンタクトの人物に交渉権を与えるのです」


「問題は起こらなかったのですか」


「惑星内で揉めて戦争になった例もあります。地球はどうでしょう。我々は、比較的スムーズに進むと考えていますが」


 日野には意外な言葉だった。

 地球上での紛争は止んだことがない。


「テクノロジーが平均と比べて未発達です。その場合、この加盟を喜ぶ気持ちのほうが優勢になるパターンが多いのです」


 日野は同意した。

 そういった側面はある。地球の雰囲気としては、歓迎ムードのほうが強い。


「それに離脱ができる民族は、この日本が中心で、他には例が少ない。しかも、それが出来た人物は一人しか確認されていない」


「そうか。口を挟む余地なしですね」


「そう。だからこそ、離脱者個人が善良で抑制の効いた人物ならと願っています」


 じっと見られ、日野は口を滑らせた。


「はあ。非常に善良で無害な男です」


 マナの顔がパッと輝いた。


「ありがたい。神様にお布施を!」


 これはマナの惑星の神への祈りだろうか。すごく拝金主義なのか、はたまた翻訳が難しいのか。


「いま公表できるのは、男性であること。これが二回目の離脱体験だということのみです」


「私たちには教えてもらえませんか」


「まだ本人の同意が得られていない。二回目の離脱から、たった数時間です。明日の午後、交信しましょう。それまでに、もう少し話をまとめます」


「じゃあ、また明日」

「ええ、また明日」


 二人は名残惜しそうにスイッチを切った。


 モニター室から出ると、高橋が唸っていた。


「日野大臣、この映像、後で見直してくださいね。加工は原則禁止なんだから、そこのところ、考えて喋ってくださいよ」 

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