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結子純文学大全

おじいちゃんの年賀状サバイバル

 私のおじいちゃんは12月になると、いつも必ず親戚一同を呼び出す。


 集合写真を撮るのだ。


 毎年のことだが、おじいちゃんは年賀状にこの集合写真を使うらしい。


 親戚が集まって、今年の一枚を撮る。それから、みんなでそのデータをシェアする。


 その後は、集まったついでに少し早い忘年会がおじいちゃんの家で行われる。その間に、私だけがこっそりとおじいちゃんに呼び出された。


「俺ぁ機械のことよく分かんねえから、夏美なつみちゃん、年賀状印刷してくれよ」


 私は受け取ったSDカードをおじいちゃんのハガキ専用プリンターに入れる。年に一度しか起動されない、このプリンターに。


 さて。今年もいつもの「謹賀新年」フォーマットを選択し、写真を選んで印刷するのだが──


「おじいちゃん。今回は年賀状、何枚印刷すんの?」

「2枚」

「えっ!?2枚だけ?」

「うん」


 ……少ない。少なすぎる!


 とはいえ、おじいちゃんも今年で90歳だ。住所を知っていてハガキをやり取りできる友人が、もはやそれくらいの人数しかいないのだろう。


 私はちょっと寂しさを覚えながら、2枚の貴重な年賀状を印刷した。


「はい、出来たよ」

「助かるよ」

「でも、寂しくなっちゃったね。最盛期は100枚刷ってたのに、もう2枚だけなんてさ」


 すると。


「わはははははっ」


 何がおかしいのかおじいちゃんは笑い出した。私がぽかんとしていると、泣き笑いしながらおじいちゃんはこう言った。


「逆だよ、逆!あと2人!あと2人倒せば、俺が〝生き残り〟だ!」

「はあ?」


 倒す?何言ってるのおじいちゃん。


「俺が今まで家族写真の年賀状を出していたのはな、〝俺は孤独じゃない〟って嫌いな奴に見せつけてやるためさ。特にその2人はチビだった俺をいじめていじめていじめ抜いた。そんな性悪だから、あいつら今や孤独に暮らしているだろうよ」


 なるほど。つまりおじいちゃんは年賀状を送ることで、みんなにささやかな復讐をしていたんだね。


 年賀状の前で歯ぎしりする、いじめっ子たちを思い浮べながら──


「まあ、恨みがましい。かく言うあなたも立派な因業いんごうじじいですことよ?」

「ふん。何とでも言え。俺はあいつらが死ぬまで年賀状を出し続けるからな!」


 まだまだ元気そう。来年も年賀状作ろうね、おじいちゃん。

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ブレイブ文庫様より
2025.11.25〜発売 !
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