侯爵令嬢の目論見について。
ーーー共犯というよりは、利害の一致なのだけれど。
王妃殿下がたとのやり取りを思い出しながら。
ラヴィナはダーレストの認識を、心の中でそう訂正する。
フライヤと王女殿下がたの最大の違いは、そこである。
可愛い義妹は、聖女として残って貰った方が将来的にはありがたいくらいだったので、結果的には損をしている。
それでも、あの子はあまり利用する気にならなかったので、無理をさせないように動いたのだ。
逆に王女殿下がたは、『降りて』貰わないといけない相手だった。
引き摺り下ろすことの対価として、彼女ら自身のメリットも示して、円満にお引き取り願おうとしただけである。
「もし王女殿下が共犯であるとするのなら、一体何故、わたくしはこのような状況に身を置く必要がございますの?」
ラヴィナは内心思ったことではなく、別の問いかけを口にした。
「王女殿下自らに、王位継承権の放棄を宣言させればそれで済むお話でしょう?」
「それについては、今後起こることに起因する部分だろう。さらに、女王擁立の法改正が行われた後に自ら『降りる』ような真似を、宰相閣下らが許すとも思えん」
ーーー正論ですわね。
ダーレストは、人の気持ちを察するのが苦手なのかと思いきや、人同士の利害関係が絡む場合の心の動きは見誤らないようだ。
貴族の進退が本人の意思一つでどうにかなるのなら、家の利益を求める為の婚約なども結ばれることはないし、王女殿下が意に反して女王に押し上げられることもないのだから。
仮に拒絶すれば、その瞬間に巨大な権力が味方から敵になることも、十分にあり得るのがこの世界である。
そして後ろ盾から見捨てられた個人など、暗殺も報復もやりたい放題。
故に『やむにやまれぬ事情』で、王女殿下がたは退場する必要があった。
ダーレストが、どこまで『従姉妹殿』の真実に気づいて話をしているのかは不明だが、ラヴィナはさらに言い募る。
「では、法改正が行われる前に、退場すればいいのではないでしょうか?」
そうなる危険が僅かながら存在したのを、未然に防いだのはラヴィナ自身なのだけれど……ダーレストは、軽く眉を上げた。
「それでは、ラヴィナ嬢の目論見が崩れるだろう? あの二人はこれから秘密を暴かれ、ルフト殿下の敵のまま退場することが最善なのでは?」
ーーーやっぱり、気づいておられましたのね。
普通は分からないのだろう、と思った。
賢い双子は本気で周囲を騙し続けていたので、幼い頃からある程度見ている筈のルフトですら、ラヴィナが教えるまで気づいていなかったのだ。
だが、ラヴィナの目の前にいるのは〝怪物〟ダーレスト・オーガスである。
『今まで読んだ書物の全てを誦じることが出来る』と豪語する記憶力と観察眼、思考力が備わっているのなら、時節ごとに顔を見る双子の差異など、すぐに見破っていたに違いない。
では何故、『余計なことを口にする』性格の彼が、今まで何も言わずに黙っていたのかと言えば。
ーーーまぁ、興味がなかったのでしょうね。
ラヴィナは、内心でそう結論づけた。
おそらく、ダーレストが余計なことを口にするのは『疑問がある時』なのだ。
そこに『何故』がなければ、わざわざ問いかけを口にする程の興味も覚えないに違いない。
ラヴィナに興味を持ったのも、教授の厳しさに対する級友の呻きに首を傾げたのも、そこに『謎』があったからだ。
双子に関する『伝承』を把握した上で、王女殿下がたの実情を理解していれば、その秘匿に疑問を差し挟む余地はない。
「二人、とは? 王女殿下の他にご退場なさる方がおられるのですか?」
先ほどダーレストに指摘された『思案する時の癖』を消して、微笑みのまま問いかけると、彼は一瞬、感心したような表情を浮かべた。
そしてすぐに、嬉しそうに笑う。
「やはりラヴィナ嬢は素晴らしいな。理解して即座に癖を消すなど、中々出来るものではない。……が、今までのやり取りをしてから『淑女の微笑み』に切り替える程度では、少々遅い」
「ふふ。消せたことが分かれば十分ですわ。次に同じことがあった時は、表情もきちんと作ってみせますわね」
所詮、こんなやり取りはお遊びなのである。
ラヴィナの策略は、既に完了しているのだから。
もし崩れるとすれば、ダーレストが『今すぐ全ての真実を公表する』という手を打った時くらいだろう。
けれど、彼はこのやり取りに付き合う条件を『事実を黙っておく』ことだと口にしているのだから、それはない。
ダーレストが約束を破るような相手かどうかくらいは、見ていれば分かる。
「話を戻しますけれど。つまりダーレスト様のお考えでは、王女殿下はわたくしの共犯者であるから、わざと事件を起こして危険な目に遭った……ということで宜しくて?」
「ああ。従姉妹殿の転落は、最初から全員合意の上で仕組まれたものだ。わざと落ちて、受け止めたのがルフト殿下であったことまで、想定済みだな」
「なるほど……よく分かりませんわね」
「すぐに分かる。そして、貴女が王女殿下の秘密と、緘口令の敷かれた情報を知っていた理由に関してだが……ここで、四つ目の結論を述べよう」
「ええ」
彼は、パチンと指を鳴らして、初めて人差し指の指先を、天ではなくこちらに向けた。
「あの時、ルフト殿下に扮して私と話をしたのは貴女なのだろう? ーーーラヴィナ・フェリクス王女殿下」
面白いと思っていただけましたら、ブックマーク、いいね、⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価等宜しくお願い致しますー♪
この後書きの下部にスクロールすると、⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価出来るようになっておりますー!
次話は12時更新です。




