あなたとは寝ません!
「いや…それは無理だ」
俺は首を横に振った。
「どうしてですの?」
ラミアの少女――リンが目を細めて問い返す。
「あなたがこの姫を家に住まわせて以来、ずっと一緒に寝ていたでしょう?」
「それはお前が普通の蛇だと思ってたからだ」
俺は呆れたように目を転がした。
「今は色々な理由があって一緒には寝られないんだ」
「それは、どんな理由ですの?」
「まず一つ。お前はラミアだ。
二つ目。俺はお前のことを愛していない。
三つ目。俺は他に好きな人がいるし、その人を裏切るつもりはない」
そう言いながら、俺は一つひとつ指を立てて示した。
リンは俺の指と顔を交互に見つめ、眉間にしわを寄せていた。
「この姫には、その理由のどこに問題があるのか分かりません」
ついに彼女はそう言った。
「ラミアだからって、あなたと一緒に寝る資格がないとでも?
愛がなければ一緒に寝てはいけないとでも?
この姫はすでに妾を持っても構わないと言っているのよ。
あなたが他に好意を抱いている相手がいても、嫉妬などしないわ」
「二番目と三番目は、ほとんど同じ意味だよ」
俺は疲れた顔を手で覆いながら言った。
「俺は、愛していない相手とは寝ない。
それに、他に好きな人がいる以上、その人を裏切るようなことはできない。
お前がラミアであることについては――」
一瞬言葉を切って、肩をすくめた。
「別に気にしてない。
もしお前のことを愛していたら、ラミアであることなんて問題じゃない。
ただ、最初に一緒に寝かせてたのは、お前が普通の蛇だと思ってたからだ。
ラミアだと知っていたら、最初から一緒には寝なかった」
俺の言葉に、リンの顔はみるみる沈んでいった。
目には光がなくなり、拒絶されたという表情と共に、肩が落ちていく。
まるで何か重いものが背中にのしかかっているかのようだった。
心が痛んだ。
だが、言わなければならないことだった。
朝は頭が回っていなくて曖昧にしてしまったが、今この状況でこそ、はっきりさせる必要がある。
「じゃあ、この姫を追い出すおつもりなの?」
そう言った彼女の黄金色の瞳は、さらに暗く沈んでいた。
私は拳を握りしめた。
論理的に考えれば、彼女を追い出すべきだろう。
彼女はラミアで、しかも私の意見など一切無視して、勝手に私を夫にすると決め込んでいる。
だが同時に、たしかに追い出せば私の負担は軽くなるかもしれないが、彼女には帰る場所がないことも知っていた。
一度受け入れておきながら追い出すなんて、心無い人間のすることだ。
それに、もし本当に追い出したとしても、ネヴァリアン霊術士たちに殺されてしまう可能性だってある。
彼女の姿を見れば、新種の魔獣と勘違いされるに決まっている。
この状況についてしばらく考えた末、私はため息をついた。
結局、私が出した結論は――新しい住まいを探すこと。
ちゃんと部屋が複数ある“家”を。
そうすれば彼女にも自分の寝室ができるし、寝床をどうするかで頭を悩ませる必要もなくなる。
「……いや、追い出したりはしないよ」
私はため息混じりにそう答えた。
私の言葉を聞いた瞬間、リンの瞳がぱっと明るくなった。
そしてその夜、彼女の尻尾が止血帯のように私の身体に巻き付くなか、私は決意した。
――明日、フェインレアとの面会が終わったらすぐに、新しい家を探し始めようと。




