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この姫はお風呂に入りたい!

俺が家に帰ると、リンが俺のベッドに寝そべっていた。

彼女は仰向けで天井を見つめており、その表情はまさに「退屈の権化」という言葉がぴったりだった。

長い尻尾がベッドから垂れ下がって床にくるりと丸まっているのを見て、改めてこの娘に服が必要だと感じさせられた。彼女の裸の胸が呼吸に合わせて上下するたびに、否応なく目が引かれてしまう。

「ただいま。」

俺がそう声をかけると――

「おかえりなさいませ、ダーリン♡」

リンはぱっと体を起こし、少しだけ目を輝かせた。

「外には出てないんだな?」

俺はブーツを脱ぎながら部屋に入る。

「もちろん、この姫が外に出たりなどしていないわ!」

リンはむっとした様子で胸を張る。

「ダーリンが“出るな”とおっしゃったのだから、当然よ。この姫は言いつけを守る賢い子なのです。しかしながら……この家の中でずっと閉じ込められているのは、あまりにも退屈すぎます!」

「ごめんな、退屈させて。」

俺は申し訳なさそうに微笑んだ。少し考えてから、尋ねる。

「今日一日、部屋に閉じこもってもらったお詫びに、何かしてあげられることあるか?」

「セッ……」

「それ以外でお願いできる?」

俺は即座に、リンの発言を遮った。

数秒の沈黙。

ラミアの少女は目を細めて考え込んだあと、俺を見て、部屋を見回し、やがて目を湯船に向けた。

「この姫、お風呂に入りたいわ。」

「それなら、いいよ。」

俺はうなずいた。

「でも、熱いお風呂じゃないとダメよ。ラミアは変温動物なの。冷たい水だと、この姫は凍えちゃうんだから。」

その言葉に少しだけ眉をひそめたが、最終的には了承した。

浴槽の湯を温める方法はいくつかある。

普通なら俺自身の霊力でお湯を作るところだが、今の俺にはそのための制御力が足りない。

ルーンを使って水を加熱する方法もあるが、あいにくその陣式は知らない。

――ただし、今すぐできる簡単な方法が一つだけあった。

「お風呂の水を汲んでくるから、ここで待っててくれ。」

俺は大きな桶を手に取り、ブーツを履き直してドアの方へ向かった。

「この姫に他に何ができるというの?」

リンは両手を広げて、どうしようもないといったジェスチャーを見せた。

階段を降り、廊下を進んで建物の裏手へ。

扉を出て、少し歩いた先には小さな小川が流れていた。

この小川は見た目に派手さはない。どちらかといえば「せせらぎ」という表現の方が正しいだろう。

その静かな水流は、俺が住んでいる大きな建物の横をゆったりと流れていた。

夜の静けさの中では、この景色はまるで田舎の絵葉書のように美しい。

昼間になると、おばさんたちが洗濯物をしながら噂話をしていることが多いが――今は俺一人の時間だった。

桶に水を汲んで建物へ戻り、浴槽に注ぐ。

そして再び外へ出て、同じ作業を繰り返した。

何度も行き来する間、リンがじっとこちらを見ていたが、黙って見守ってくれていた。

やがて、ようやく浴槽がいっぱいになった。

「さて、次はお湯にするか。」

俺はつぶやいて、本棚の方へ向かった。

――が、目的は本棚ではなかった。

本棚の隣にある大きな引き出し、それが目的地だ。

これは最近手に入れたばかりの家具だった。

一番上の引き出しを開けると、中には色とりどりのモンスターコアが入っていた。

鮮やかな赤から淡い青まで、それぞれが異なる属性を持っていることが一目でわかる。

俺はその中から、赤いモンスターコアを一つ取り出した。

浴槽へ戻り、少し息を整えると、霊力をそのコアに流し込む。

Dランクのモンスターコアは、俺の掌の中で明るく光を放ち始めた。

指の間から熱気が漏れ、湯気がふわりと立ち昇る。

起動したコアをすぐさま浴槽に放り込む。

それは水の底へ沈み、じわじわと熱を発しながら周囲に波紋を広げていく。

数秒もしないうちに、水面から湯気が立ち上り始めた。


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