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グラント

グラントは訓練場にいた。裕福な庶民の家ほどの広さを誇る巨大な空間。その磨き上げられた石畳の上を、彼はリズムに合わせて歩いていた――彼だけに聞こえるリズムに。

一歩動くたびに、彼は強烈な拳を放ち、あるいは素早い蹴りを繰り出した。そのたびに彼の手足から火炎が噴き出し、空気を灼いてオゾンの匂いを残す。

夜も更けていたが、訓練をやめるつもりなど毛頭なかった。怒りが収まらなかったのだ。視界には赤しか見えない。

「クソったれの下民が……!」

脳裏に浮かんだのは、あの女々しい面構えの小僧――カリと一緒にいた、あの虫けら。カリはあんな奴の女じゃない!

彼の女だ!このグラント・ロイヒトのものだ!

猛然と叫びながら、彼はその幻影の顔めがけて拳を叩き込んだ。爆炎が幻を飲み込み、跡形もなく消し去る。

「俺に喧嘩を売るとはいい度胸だな!!」

左足のつま先を軸に回転し、グラントはリバースヒールキックを放つ。その踵が炎を纏い、紅蓮の弧を描く。その火線は、彼が地を踏み締めるまで空中に残り続けた。地面に触れた足元からも火炎が吹き出す。

しかし床は燃えなかった――特殊な鉱石で作られており、ある程度まで霊力を吸収することができるようになっていたのだ。

喉の奥で唸り声を漏らしながら、グラントは床に膝をつけ、両手を石に押し当てた。そこから赤熱の光が広がり、炎の波動が指先から伝わるように広がっていく。彼の指先が円を描くたび、霊力が掌に集中していった。

その直後――爆発的な熱が床下から吹き上がった。

炎と熱風が彼の手足の下から噴き出し、グラントの身体を空中へと打ち上げた。彼は空中で捻りながら旋回し、まるでアクロバットのように舞い上がる。全身からはさらなる火炎が噴出し、螺旋状に燃え広がる。

その姿は、まさに炎の竜巻そのものだった。

グラントは地面に激しく着地し、地を踏み鳴らした。

彼の体からは蒸気が立ち上っていたが、まったくの無傷だった。

身体中が燃えるような感覚に包まれていたが、それは痛みではなく、むしろ力が漲るような熱だった。

深く息を吐くと、煙が肺から噴き出た。

火照る身体を落ち着けながら立ち上がり、構えを取り直す。

「若きグラント様は、こんな夜更けまで修練を重ねておられるとは。けけっ。実に感心ですなあ。」

その耳障りな老人の声を聞き、グラントは即座に動きを止め、背後を振り返った。

「いつまで陰に隠れてるつもりだ? さっさと出てこい。」

「けけっ。私はただ、邪魔をしたくなかっただけですぞ。」

巨大な柱の影から、黒衣の人物が現れた。その姿は、まるで影そのものから滲み出るようだった。

全身をマントで覆っていたため、顔や体つきはほとんど見えなかった。しかし、声は年老いた者のものでも、姿勢は真っ直ぐで、動きに衰えは見られない。その歩みからは、まるで全盛期の男のような活力が感じられた。

それでも、彼が腕を動かしたとき、袖口から覗くしわだらけの緑の皮膚だけが、彼の異様さを物語っていた。

「スキュッゲか。」グラントが言った。「俺の言った通りにしたんだろうな?」

「アルフとアルヴィドを尾行し、あなたの指示通り、例のエリックとやらに接触させましたぞ。」

スキュッゲと呼ばれた老人は、くぐもった声で答えた。

「それで?」と、グラントが問い詰める。

「けけっ。二人とも、見事に叩きのめされましたわい。」

その顔は見えなかったが、声に含まれる愉悦は否定しようもなかった。

「しかも、あやつは霊術を一切使わずに、彼らを完膚なきまでに打ちのめしましたゆえ、戦力の正確な測定はできませなんだ。」

「ちっ!」

グラントは怒りを込めて親指を噛んだ。

「やっぱりあの二人は役立たずだったか!」

「そうとは限りませぬぞ。けけっ。」

スキュッゲは笑いながら続けた。

「たとえエリックの力を引き出すには至らなかったとしても、やつらが敗北した事実自体は、我らの計画に活かせますぞ。」

グラントは歯に噛んでいた親指を口から外し、黒衣の男をじっと見つめた。

フードの奥を覗こうとしたが、そこには何も見えなかった。まるで光がこの男の顔を恐れて逃げているかのように、その空間は闇に包まれていた。


「どういう意味だ?」と、グラントが尋ねた。


スキュッゲは腕を広げた。

「アルフとアルヴィドの末路を、ヒメル家に伝えるのです。彼らは跡継ぎではありませんが、れっきとしたヒメル家の一員。エリックによって味わった屈辱を、あの家が黙って見過ごすはずがありません。」


「特に、あなたのご友人にこの件を伝えればなおのこと。」

スキュッゲの口元が見えぬまま、声だけが不気味に響いた。

「アルベルトなら、エリックを攻撃するよう誘導できるでしょう。そして戦いが起これば、我らはその小僧の実力を正確に測ることができます。」


グラントは腕を組み、左の人差し指で反対の腕をトントンと叩いた。

目を細め、数秒間黙考したのちに頷いた。


「どうせあの小作人がアルベルトに勝てるはずもないしな。だが、確かに悪くない手だ。アルベルトを使ってあの虫けらを潰させよう。よし、それでいこう。」


「けけっ。やはり若きグラント様は、いつもながら見事なご決断をされますな。」


スキュッゲは笑いながらじりじりと後退した。


「わたしの“人形”の一体を使い、引き続きあの小僧を監視いたしましょう。ただし、私の能力は闇に依存しているため、昼間の監視は困難です。あの少年、感覚が非常に鋭くてな。『影歩き』を使っていたにもかかわらず、気配を察知されました。日中の監視は、レヒト家の者たちに任せるのがよろしいかと。」


「わかった。昼は俺の家の者たちに監視させる。」


グラントは不快げに眉をひそめ、スキュッゲを睨んだ。


「だが、お前もしっかり働けよ。我が家がどれだけ長きにわたってお前たちを助けてきたと思っている。ちゃんと言う通りにしてもらうぞ。」


「もちろん、もちろん。けけっ。若きグラント様にご心配いただく必要はございません。我が主と私は、レヒト家への恩を忘れてはおりませぬ。今後も変わらず、お力添えさせていただきますぞ。」


スキュッゲは再び柱の影へと歩み寄り、そのまま闇の中に溶け込むように姿を消した。

残ったのは、ぞっとするような笑い声だけだった。



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