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正体不明の霊術士――味方か、敵か?

「――意見を聞かせて」

ヒルダが静かに問いかけた。

「二ヶ月前に感じた霊力の高まりと似ている気がします」

最初に答えたのは、ヴァレンスだった。

「ですが、今回はそれとは明らかに違う印象を受けました。霊力の質が、以前よりもはるかに洗練され、制御されていて、力そのものも遥かに強大です。推測ですが、今日の出来事と、あの時の事件は――同一人物によるものかと」

「その人物は……何をしていると考える?」

「恐らく、修行中だと思います」

ダンテが一歩前に出て言った。

「最初の霊力爆発は、ただ力をぶちまけたような荒々しいものでした。ここからでも見えるほど派手な現象でしたしね。ですが今回は違う。ヴァレンスの言う通り、力が制御されている。つまりその人物は、膨大な霊力を扱えるよう訓練しているのでしょう」

「懸念すべきは、その正体も目的も一切不明だということだ」

レイナーが、腕を組んだまま口を開いた。

「果たしてこの者は、我らの味方なのか、あるいは敵なのか。ネヴァリアを守ろうとしているのか、それとも害そうとしているのか……何一つ分からない。だがこのままでは、知らぬまま強大な敵と相対する羽目になりかねん。見過ごすには危険すぎます」

それはまさしく、国を治める者として見逃せぬ問題だった。

己の手で皇帝の座を勝ち取ったヒルダだからこそ、力ある“未知の存在”が何をもたらすか、痛いほど理解していた。

あの者はどこから来た?

ネヴァリアの外で育った者なのか?

都市国家ネヴァリアは、数百キロに及ぶ領域を持つ。外のどこかに住んでいた者が二ヶ月前に現れ、今もなお修行している――そう考えれば不自然ではない。

なにより、霊術士大武闘会が間近に迫っているのだ。

ヒルダは額に手を当てて、深いため息をついた。

頭痛の種がまた一つ増えた。

これが、かつて若きヒルダが突如として舞い降り、名もなき少女のまま全ての強者を薙ぎ倒して大武闘会を制したとき――当時の皇帝が感じていた“重圧”というものだったのかもしれない。

「残念ながら、正体不明の者は目立たぬよう行動しているようだな」

ついにヒルダが口を開いた。

「都市全体を対象に捜索することはできるが――おそらく無駄に終わるだろう。その者は霊力の痕跡を隠しているはずだ。何も見つけられぬ可能性が高い」

「じゃあ、どうすればいいんだ?」

ついに沈黙を破ったのは、末子のゲイロルフだった。

――ヒルダはむしろ、もっと早く口を開くと思っていた。

「できることは、怪しい動きがないか目を光らせておくことくらいだ」

そう言ってヒルダは肩をすくめる。

不満げな表情を見せるゲイロルフをよそに、彼女は夫たちに視線を向けた。

「ダンテ、北門・南門・東門の警備についているネヴァリア霊術士たちに、出入りする者の記録を残すよう伝えて」

「ライナー、霊術士隊の各隊長には、異常な霊力の気配があれば見逃さぬよう通達しておいて」

「ヴァレンス、王室親衛隊には警戒を怠らぬよう伝えて。霊術士大武闘会は目前よ。あの者が参加者である可能性もある。もしそうなら、問題はないかもしれない。だが、備えを怠ってはならないわ」

三人の夫はそれぞれうなずき、息子たちを連れて玉座の間から退出した。

その場には、ヒルダとカリだけが残された。

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