新たな修行法
「次の訓練では、霊気を使うの?」
フェイが尋ねてきた。
俺は首を横に振る。
「いや、次の段階は霊力そのものをもっと鍛えることにある。ただし……これまでのように瞑想しているだけでは足りない」
顎に手を当てながら、俺は続けた。
「霊力ってのは、人間の筋肉に似た性質を持っている。使えば使うほど、強くなる。限界まで使い切って、それを回復させることで、霊力の総量が増していく」
フェイは真剣な眼差しで俺の言葉に耳を傾け、何度も頷いていた。
どうやら、俺の意図を理解しているようだった。
「つまり、次の修行では霊力を使い切っては回復し、それを繰り返して鍛える」
そう説明しながら、俺は本題を口にした。
「そして、そのために教えるのが――《閃歩》という霊術だ」
閃歩――この霊術は、俺がかつて偶然生み出した技だった。
その可能性に最初に気づいたのはカリだ。
俺がこの霊術を完全に習得したあと、カリがそれを解析して、普通の霊術師でも扱える形に再構築してくれた。
つまり、霊力を舞うように操る霊術師でも使えるようになったということだ。
「閃歩って、どんな霊術なの?」
フェイが興味津々の様子で聞いてきた。瞳が輝いている。
「これは移動系の霊術だ」
俺はそう答えた。
「足の裏に霊力を集中させて、それを地面にぶつけることで一瞬で距離を詰める。つまり――超高速移動ってやつだ。実際に見せてやる」
俺はフェイから離れ、広場の端まで歩いていった。
そして、目的の地点を視線で確認する。
霊力を両足に流し込み、意識を一点に集中させた。
地面に一歩踏み込んだ瞬間――
蓄えた霊力を解放する。
視界が一気に流れる。
瞬きする間すらない。
ほんの一瞬で、俺の身体は十六メートル先の地点へと到達していた。
俺が《閃歩》を発動させた直後、もともと立っていた場所に小さな土煙が立ち昇った。
その煙が晴れると、俺の足が接地した地面には蜘蛛の巣のような亀裂がいくつも走っていた。
「……まだ制御が甘いか」
俺は小さくため息をついた。
まあ当然といえば当然だ。
過去に戻ってきてからというもの、この霊術を使う機会はほとんどなかったのだから。
俺が振り返ると、フェイが口を開けて呆然としていた。
まるで夕食の皿みたいに目を見開いていて、思わず笑みがこぼれる。
「《閃歩》の基盤となる要素は“速度”だ」
驚くフェイに向けて、俺は丁寧に説明を始めた。
「この霊術の完成度は、いかに少ない歩数でどれだけ速く移動できるかによって決まる。
使い方は単純で、足の裏に霊力を集中させて、地面に接触した瞬間に爆発的に霊力を放出するだけだ。
そうすれば、目にも止まらぬ速さで瞬時に移動できる」
「すごく速かった……!」
フェイが声を上げた。
「でも、あんな速度で動いて、自分の位置が分かるものなの?」
「慣れればわかる」
俺は頷いた。
「この霊術を何度も使っているうちに、自然と視覚も速度に順応していく」
フェイは不安そうに唇を噛んだ。
「でも……霊力を放出するタイミングが重要って言ってたけど、さっきは踊りみたいな動きは全然なかったように見えたわ」
「必要な動作は、“一歩踏み出す”ことだけだ」
俺は簡潔に答える。
「他の霊術と違って、特別な舞や印は必要ない。
一歩前に踏み込んだ瞬間、足に流れた霊力を解放する。それがこの霊術の基本構造だ」
フェイは俺の説明を数秒間黙って咀嚼し、やがて小さく頷いた。
「……うん。なんとなくわかってきた」
「なら――やってみろ」
俺は地面に足で線を引いた。
「ここがスタート地点だ」
それから十メートルほど歩いて、再び線を引く。
「こっちがゴール地点。ここからあそこまで《閃歩》で一瞬で移動し、その後、スタート地点に戻ってこい」
「その繰り返しで霊力を使い切るまで続けるんだ」




