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マルジの指輪

「で、これは……結婚指輪みたいなもんか?」

そう言いながら、俺はその模様から彼女の方へと視線を戻した。

「ふふーん♪」

ラミアの少女は腰に手を当て、胸を誇らしげに突き出した。得意満面の笑みを浮かべ、その口元からは小さくて可愛らしい牙がのぞいていた。

「これは“マルジの指輪”よ。この姫はね、あなたの手にほんの少しだけ霊を注ぎ込んだの。そうすることで、この姫とあなたを結びつけたのです! ラミアの習わしでは、気に入った男にこうするのが当たり前なのよ♪」

「……はぁ~」

正直、彼女の説明を聞いてる途中で、脳の一部がシャットダウンした気がする。

結婚? 絆? マルジの指輪?

情報が多すぎて処理が追いつかない。

まず最初に浮かんだのは、「元に戻してくれ」という言葉だった。

この“マルジの指輪”とやらを解除してもらおうかと思ったが――この短いやり取りだけでも、彼女にその気がまったくないことは明白だった。

下手にお願いすれば、逆に機嫌を損ねて面倒なことになりかねない。今は余計な火種を増やしたくなかった。

「じゃあさ、このマルジの指輪について聞きたいことは山ほどあるけど……まず先に、俺の体からほどけてもらえるか? このままだと、身動きが取れないんだが」

「ん? あ、いいわよ♪」

ラミアの少女はゆっくりと、俺の胸に巻きついていた長い尻尾をほどいた。

その瞬間、俺は大きく息を吐いて上体を起こした。

――やれやれ。

彼女の尻尾は驚くほど強かった。別に強く締めつけられていたわけじゃないのに、まるで数トンの重りで胸を押さえつけられていたような感覚だった。

俺は上半身を起こし、自分の手足がちゃんと動くかを軽く確認した。問題はなさそうだ。

それから、ベッドに寝転んだままのラミア娘に目をやる。

彼女の長い尻尾がベッドの大半を占領しており、先端はすでに床に届いていた。

「で、その“マルジの指輪”のことなんだけど……」

そう切り出すと、ラミアの少女は小首を傾げた。

「マルジの指輪がどうかしたの?」

「ただの飾りなのか?」

俺は言葉を選びながら問いかけた。

「君は“霊の一部を注いだ”って言ってたよな。つまり、霊力を俺の体に流し込んで、この薔薇のような模様を刻んだってことだと思うけど……。これって、単に『結婚しました』っていう印なのか?」

最後の「結婚」という単語を口にするのに、思ったより時間がかかった。

よく知らない相手、何の情もない相手と勝手に“夫婦”にされた事実に、俺の心はざわついていた。

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