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この姫の名はリン

昨夜の夢の余韻がまだ頭の中に残っていた。そのせいか、目覚めた瞬間から妙に身体が火照っている。

「……っ」

うめき声を漏らしながら、この衝動をなんとか鎮めようと意識を集中させる。ゆっくりと目を開けて、自分の部屋の天井を見上げる――はずだった。

しかし、そこにあったのは……ほぼ鼻先が触れそうなほど近くにある、知らない顔だった。

見覚えはない。だが、その少女は一歳ほど年下に見える愛らしい顔立ちをしていた。褐色の肌に尖った顎、くっきりとした輪郭はどこか異国的な印象を与える。長いまつげに黒い髪、形の整った唇がわずかに開き、規則正しい寝息が聞こえてきた。

この美しい顔の持ち主が誰で、なぜ自分のベッドにいるのか――混乱する思考を整理しようと、視線を下へと移した。

……瞬きが止まらなかった。

まず目に飛び込んできたのは、黒と黄色の鱗に覆われた長い蛇の尾だった。おそらく六、七メートルはあるだろうか。そのしなやかな尾が、自分の身体にぴったりと巻きついていた。さらに、先端は……いかにも敏感な部分にまで絡みついていて、火照りの理由が明らかになった。

(なるほど……昨夜、カリと砂漠を出た直後の荷車の中での出来事を夢で見ていたのも、こいつのせいか)

一瞬パニックになりかけたが、深呼吸して冷静さを取り戻す。

状況を整理する。この少女は人間ではない。下半身が蛇ということは、間違いなくエンドレス・デザートに棲むラミア族だ。どうやってネヴァリアまで来たのかは不明だが――

いや、そんなことより重要なのは、この少女がここ一ヶ月ほど一緒に暮らしていた“あの蛇”である、ということだ。

正体がわかったことで少し気が楽になった……とはいえ、興奮は収まらない。

「……おい」

俺は小声で彼女を呼びかけた。「おい、起きろ」

「んぅ……」

彼女は小さく息を漏らしながら、さらに身体をすり寄せてきた。薄く開いた唇から、ぴろりと舌が覗く。それが異様に長いと気づいた瞬間、思わず息を飲む。あれは……二十センチ以上あるんじゃないか?

「ため息なんてついてる場合か!」

叫びたくなるのを堪えつつも、少し語気を強めて声をかける。起こそうとしても、彼女の尾が俺の腕を拘束していて、身動きすらままならない。

「おいってば! いい加減起きろ!」

「んん~、ふにゃ……?」


ついにリンを登場させました!

ずっと前から彼女を登場させたくてたまりませんでした。彼女のインスピレーションは、数年前に観たアニメ『モンスター娘のいる日常』から来ています。気に入ってもらえたら嬉しいです。


今回の章はかなり長くなってしまったので、いくつかの短い章に分けて、今日一日かけて投稿していこうと思います。ご了承くださいませ。

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