過去──カリと共に砂漠を出た日
私たちは丸二年間、果てしない砂漠で暮らしていた。その間、カリと私はゼインとしばらく旅を共にし、その後は傭兵会社に所属した。いつしか私たちは、メドゥーサ女王と対等に渡り合える霊能者として、名を知られるようになっていた。だが、私たちに関する叙事詩を語る人々は、あの女王との戦いにおいて私たちが幾度となく退けられたことを、果たして知っていただろうか。
カリの話によれば、メドゥーサ女王は霊術の第三段階に到達していたという。一方、私はようやく第二段階へ進んだばかりだった。カリはそれより数年前に既に到達していた。
数年の傭兵生活を経て、私たちはついに砂漠を離れることを決めた。誰であれ、あの灼熱の地に永遠に留まりたいと思う者はいない。
反対側の境界に辿り着くまでに、半年を要した。それでも早かったほうだ。というのも、我々が所属していた傭兵会社は砂漠の縁に近い位置に拠点を構えていたからだ。ゼインの話では、エンドレス・デザートの広さは1,550万平方キロメートル以上に及ぶらしい。もちろん正確な面積は誰にもわからないが、何千年もの間に砂漠を横断してきた旅人たちの記録から算出された概算に過ぎない。
私とカリは、古くから使われてきた未舗装の道を行く小さな荷車に揺られていた。御者は砂漠の出身らしい浅黒い肌の男性で、彼はヘンダースビーという町に用事があるため、私たちを砂漠の外まで連れて行ってくれることになった。そこは砂漠に最も近い町だという。
荷車の中、カリは汗ばむ顔を赤らめながら、私の肩に体を預けていた。表情には少し疲れがにじんでいたが、それ以上に、どこか安らぎを感じているようにも見えた。私も静かに彼女の手を握り返し、彼女の体温を感じながら、無言のままその手を包み込んだ。
──砂漠を出るその日まで、数々の困難があった。しかし、今こうして彼女と共にいられることが、何よりも大切だった。
砂漠にいる間、カリと二人きりになれる時間はほとんどなかった。傭兵会社に入ってからも、それは変わらなかった。常に誰かの目があり、ふたりだけの時間というのはごく限られていた。
だからこそ、砂漠を出た瞬間から、私たちはまるで抑えきれない想いを解き放つように、互いの距離を縮めていったのだと思う。ふたりとも、それがただの軽い感情ではないことを、心の底から理解していた。
荷車の中、カリは私の隣に座っていた。彼女は上着を脱いで、額ににじむ汗をぬぐっていた。顔が少し紅潮していたのは、暑さのせいだけではないだろう。彼女の視線が私の方に向けられると、自然と私も微笑んだ。
「ちょっと…近すぎじゃない?」と彼女は小声で言ったが、その表情は照れているようにも、嬉しそうにも見えた。
「これぐらいがちょうどいい」と私は肩をすくめた。
そんな何気ないやりとりの中で、私たちはお互いの温もりを確かめ合うように、そっと手を重ねた。
御者が突然振り向き、少し困ったような表情で「お二人とも…落ち着いてくださいよ」と言った。
カリは慌てて姿勢を正し、頬を赤らめながら「す、すみません…」と謝った。だが、私たちは静かに笑い合った。ふたりの間に流れる空気は、どこか甘く、心地よかった。
「悪い子ね」とカリは冗談めかして言ったが、彼女の笑顔は優しくて、どこまでも愛おしかった。
「あなたから学んだことだよ」と私は答えた。
「それなら、お返ししてあげなきゃね」とカリは悪戯っぽく微笑みながら、私の肩にそっと寄りかかった。
荷車の中、砂の匂いと彼女の香りが混ざり合い、どこか懐かしい感覚に包まれた。こうして何気ない時間を過ごすことが、どれほど幸せなことか、私たちは知っていた。
この旅の終わりに何が待っているのか、それはまだわからない。けれど、今この瞬間、彼女と共にいられること。それだけで、私は十分だった。
「じゃあ、私も違うと思う」
カリは私の返事に鼻歌を交えながら笑い、少し体勢を変えて上半身を傾けた。彼女の動作には、どこか愛らしい艶っぽさがあった。その無邪気な仕草に、私の胸が高鳴る。
二人の間に流れる空気は、言葉にできないほど甘やかで、熱を帯びていた。
カリがそっと私に触れたとき、全身がびくりと震えた。彼女の指先はとても優しくて、けれど確かに心をかき乱す力があった。私はその感触に耐えながら、静かに彼女の腰に手を伸ばし、彼女の下着の結び目を解いた。
外した布が彼女の太ももに沿って滑り落ちると、カリは少し照れたように視線をそらした。だが、私はそんな彼女をますます愛おしく思った。どんな言葉よりも、互いの想いが通じているのが感じられたからだ。
「……ほんと、意地悪ね」と彼女は呟いた。
「君のせいだよ」と私は返す。
ふたりとも、誰にも邪魔されることのない、たった一つの世界にいるような気分だった。
カリの体が私に寄りかかり、温もりが肌に伝わる。私は彼女を受け止めながら、そっと唇を寄せ、彼女の背を優しく撫でた。彼女の肌からは、懐かしくて心地よい香りがした。砂漠の旅のあいだ、何度も共に過ごした時間の記憶がよみがえる。
「ねえ……好きだよ」と、カリは小さな声で言った。
「うん、俺も」と、私は彼女の髪に顔をうずめながら答えた。
言葉では語り尽くせない想いが、互いの呼吸の中に溶けていった。激しい熱情ではなく、静かな波のように満ちてくる温もり。心が重なり合い、ただそこにいるだけで、満たされていく。
カリはそのまま私の上に身を預け、私たちはしばらくの間、無言のまま、お互いの存在を確かめ合っていた。彼女の指が私の胸の上をそっとなぞり、私の手は彼女の背中を優しく抱きしめる。
外では風が砂を運び、車輪の音がかすかに響いていた。けれど、この空間だけは、ふたりきりの静寂に包まれていた。
「おい……二人とも大丈夫か? あそこから変な音がするんだが……!」
運転手の声が外から聞こえた。
「はい、大丈夫です」私はなんとか平静を保って答えた。「ちょっとした……ストレッチ中です」
「そうだね」とカリがいたずらっぽく言いながら、私の胸に顔をうずめてきた。「まだ物足りない顔をしてるよ?」
「君みたいな女性が隣にいたら、満足なんてできるわけがない」
そう返すと、カリは少し考えるような顔をしてから、私の手を取って導いた。
彼女はゆっくりと服を脱ぎ、夜の光が車の隙間から差し込む中、柔らかな光に照らされてその肌が美しく輝いた。カリはおもむろに四つん這いになり、ちらりと肩越しに私を見て、唇に小さな笑みを浮かべた。
「こういうの……どう?」
その視線と仕草だけで、私の鼓動は跳ね上がった。
「もちろん」と私は微笑んだ。
彼女の腰に手を添え、そっと身を寄せる。私たちは互いの熱を確かめ合うように、静かに距離を縮めた。外の世界が遠ざかっていくように感じられた。車輪の音も、風の音も、すべてが遠くなり、この空間だけが現実だった。
カリの体はとてもあたたかく、柔らかくて、まるで長い旅の終わりに辿り着いた安らぎの場所のようだった。
「準備は……いい?」私は優しく尋ねる。
「うん。あなたと一つになりたい」
その言葉を聞いた瞬間、私の胸は満たされていった。心も体も繋がっていくこの瞬間に、言葉はもう必要なかった。
ふたりの体が重なり合い、一定のリズムで呼吸を交わす。そのたびに、私たちの心は少しずつ、確かに近づいていた。
外の世界などどうでもよかった。今はただ、彼女のぬくもりを感じながら、この時間を共に過ごすことだけが大切だった。
私はペースを保ちながら、カリの背中を優しく撫で、彼女の身体を気遣うように支えた。彼女は少し力を抜き、安心したように身を委ねてくる。その顔は服の中に埋もれ、小さく息を漏らしていた。
私の呼吸は次第に荒くなり、額からは汗が流れ落ちた。ふたりの体が触れ合うたびに熱がこもり、車内の空気はどんどん濃密になっていく。彼女の体は繊細で、それでいてとても素直だった。私の動きに呼応するように、彼女の身体はわずかに震え、応える。
そっと彼女の体を引き寄せ、背中に抱きしめながら体勢を変える。私の膝に乗った彼女は、一瞬驚いたようだったが、すぐに肩越しに微笑みを向けてきた。その瞳には、言葉にならない信頼と愛情が滲んでいた。
「……エリク、何を……」
彼女の問いかけに答える代わりに、私はそっと唇を重ねた。カリの目が驚きに見開かれ、やがてそのまま優しく瞳を閉じる。私たちは互いを求めるようにキスを深めていき、全身が一体となっていく感覚に包まれた。
そのとき、彼女の肩越しに一瞬、淡い光が見えた。金色のような、温かな輝き。しかし、それが何であるかを確かめる暇はなかった。私の意識は、彼女の香りと熱、そして心の奥にまで届くような想いに占められていたからだ。
彼女の呼吸が乱れ、私の鼓動と重なっていく。ひとつになる感覚に包まれ、私たちは言葉もなく、その瞬間だけを共有していた。
やがて、カリは私の胸に崩れるように倒れこんだ。私は彼女をしっかりと抱きしめ、汗に濡れた彼女の額にそっとキスを落とした。
「……ありがとう、カリ」
彼女はただ、小さくうなずいた。それだけで、今夜の全てが報われた気がした。
「うーん……こんなに情熱的なの、久しぶりだわ」
香里は首をかしげながら、どこか恥ずかしそうに笑った。
「そうだな」
私は頷きながら、隣にいる彼女を見つめた。
「砂漠に入ってからは、こんな時間を持つ余裕すらなかったし……だから、抜け出した瞬間に一気に気が緩んだのかもしれないな」
2人で静かに余韻に浸っていると、不意に外から誰かの声が聞こえてきた。
「お、おい……マジで大丈夫か? なあ、返事してくれよ!」
その声はどこか焦っていて、私たちの様子を心配しているようだった。
これで今回の章は終了です。今回はちょっと刺激が強めの内容でしたが、楽しんでいただけたでしょうか?
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