五日間
オークションから五日が過ぎた。
俺が出品したAランクの霊術《五指炎鞭》のおかげで得られた資金はかなりのものだった。そのおかげで錬金術用の薬草や素材を大量に仕入れる余裕ができた――まあ、今は錬金術師協会と提携しているから、自分で買い揃える必要もあまりないんだがな。
それよりも、俺は一部の資金を衣類に使った。買ったのは主にジャイアントシルクワームという魔獣の繭から作られた高級な絹のシャツ。それにズボン数本、ジャケット、靴下、そしてそれらの高級衣料を洗うための専用石鹸だ。全部で三万ヴァリスくらい使った。普通の方法で洗って台無しにするわけにはいかないからな。
――あの日以来、フェイには一度も会っていない。
今の俺は、ファインレアと共に彼女の錬金術師たちに錠剤の精製法を教えていた。場所は協会内の《精製の間》。ここは錬金術師協会の会員なら誰でも錠剤を精製できる広間で、俺たちは中を歩きながら、列に並ぶ作業机を巡回していた。各机で錬金術師たちが作業しているのを見て、必要があれば手直しを指示する。ファインレアが以前俺から学んだ知識をうまく共有してくれていたおかげで、大きなミスをする者はほとんどいなかった。
歩くたびに首から下げたポーチが揺れる。中身は一つだけなので重くはない。特に気にせず、目の前の作業に集中していた。
「魔核を粉砕する時はもっと丁寧にな」
俺は橙がかった赤髪の若者に声をかけた。ファインレアの弟で、錬金術の才はありそうだが、すこし手元がふらついていて粉砕中の破片が机にこぼれていた。
青年は驚いた顔で俺を見たが、すぐに自分の作業台に目を向けて赤面し、ぼそっと「ありがとう」と呟いた。そこからは慎重に作業を続けていた。
一通りの巡回が終わり、俺とファインレアは精製の間の前方で合流した。満足げな表情を浮かべていると思っていたのに、彼女の顔には小さな眉間の皺が浮かんでいた。
「何かあったのか?」
「えっ、あ…ごめんなさい、ちょっと考え事をしていて…」ファインレアは首を横に振り、苦笑した。「みんなの作業を見ていて、ふと気づいたの。きっと、私たちにはもっと錬金術師が必要になるって」
「どういう意味だ?」と尋ねると、彼女は肩をすくめて続けた。
「今いる錬金術師は十五人。それぞれが一錠剤を精製するのに約十五分かかる。つまり、一時間で二〜三個、一日中休まずに作業したとして七十二個。全員合わせて千八十個しか作れないの。これでは大量生産とはいえないわ」
その指摘に、俺は静かに頷いた。確かに、将来的には人手が必要になるだろう。ただ――
「だが今は、まだ問題ないはずだ」
俺は背後で精製に励んでいる錬金術師たちを見やった。
「現時点では市場に流通し始めたばかりだ。ヴァルスタイン家の複数の露店を使って、貴族区を含めた幾つかの地域に商品を出せている。販売は始まったばかりだが、効果が認知されれば、錬金術への評価も高まり、協会に入りたいという若者も増えるだろう」
「まあ……なんとかなるか。」フェインレアはそう言って肩をすくめた。「ちょっと考えすぎだったかもしれないわね。」
左手の方では、髪の毛一本ない頭皮が光る年配の男が、紫に光る液体の入ったビーカーに魔獣の核を粉末状にして加えていた。その様子を観察して、俺は小さく頷いた。核の砕き方はまだ不完全で、大きめの破片がいくつか残っていたが、今の段階では合格点だろう。あの男も、他の錬金術師たちも、練習を積めばもっと上達するはずだ。
「ここは順調そうだな。俺はそろそろ行くとする。」俺はフェインレアにそう告げた。「何かあれば、王宮の北にある図書館に連絡してくれ。そこが俺の職場だ。」
「えっ、図書館で働いてるの?」フェインレアは唖然とした顔をしたが、すぐに溜息をついて手を振った。「……いいわ、わかったわ。何か問題が起きたら、すぐに知らせるわ。」
「助かる。」
別れの言葉を残して錬成室を後にする。シャツとベストの裾が膝のあたりで揺れる中、俺は錬金術協会の建物を出た。
今日は図書館が閉館している。ナディーンさんが改装工事のためだと言っていたので、今日は丸一日、自由な時間がある。最初の目的地として錬金術協会を訪れたが、まだ立ち寄るべき場所がいくつかある。
次の目的地は、加重服用の金属筒を頼んでいた鍛冶屋だ。鍛冶場に入ると、いつものように鍛冶屋の親父が赤熱した金属をハンマーで叩いていた。作業が終わるまで黙って待つ。壁に掛けられた武器や防具を眺めながら、その品質を評価する。最高級品というわけではないが、酷い出来でもない。
とはいえ、ドワーフ族の職人に比べれば、足元にも及ばない。
「また来たのか、このクソガキ。今回は俺の手間を取らせない仕事にしてくれよ。」ぶっきらぼうな声が聞こえ、振り返ると親父がこちらに歩いてきた。
「今回は手間どころか、かなりの技術が必要な仕事だ。」俺は両手を広げて、安心させるような仕草をした。「武器を作ってほしい。ただし、ちょっと特殊な代物だ。腕が試されるぞ。」
「ほう?」親父は目を細め、ハンマーを軽く回してから肩に乗せた。その目が光る。「詳しく話してみろ。」
頷いた俺は、腰のポーチから山羊皮の巻物を取り出し、親父を手招きして作業台へと誘導する。親父は一瞬顔をしかめたが、俺が巻物を広げると、肩越しに覗き込んで目を見開いた。
「こいつは……」
「《ドラゴンズ・テイル・ルーラー》と名付けた武器だ。」
巻物には、この武器の設計図が描かれていた。かつてミッドガルドに転生して数年後、俺が手に入れたものだ。全長は約二メートル、幅は三十センチ。一見すると巨大な鉄塊のように見えるが、刃部分には十一箇所の分割線があり、それぞれのセグメントが分離可能であることを示している。柄の長さはさらに0.5メートルあり、幅の広い鍔が特徴だ。
もちろん、設計図は簡略化されたもので、俺が使っていた実物はもっと複雑だった。ただ、今のこの大陸では、真の《ドラゴンズ・テイル・ルーラー》を再現できる職人はいないだろう。
「……ただの金属の塊にしか見えんが。」親父がぼそっと呟く。
「最初はそう見えるかもしれないな。」俺は唇を吊り上げて笑った。「だが、ここを見てくれ。このセクションごとに内部にロック機構を組み込む必要がある。手動で解除できるようにするんだ。」
「内部に仕込むって……それ、どうやって解除するんだよ?」
「それは気にしなくていい。」俺は軽く受け流すように言った。「重要なのは、俺が手動で解除しない限り、決して外れないほど頑丈に作ってくれることだ。」
「……ふむ。まあ、できなくはない。」親父は頭をかきながら俺を見て、溜息をついた。そして、やれやれとばかりに睨みをきかせてきた。「お前なあ……挑戦しがいのある仕事を頼めって言ったのは俺だけどよ、ここまでとは思ってなかったぞ。」
「これはお前の腕前を信じての依頼だ。」俺はにっこり笑った。「この仕事を任せられる職人は、お前しかいない。」
「ったく……」親父は再び、深いため息をついた。
今回もまた、ひとつの章が無事に完結しました。
あまり語ることがないのが正直なところですが……なにせ、物語の中ではたった五日間しか経っていませんからね。
それでも、少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。




