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ヴァルスタイン家の分裂

ステリスは、数多の大理石の柱が並び、高いアーチ型天井を支える会議室に座していた。彼の椅子は一段高い壇上に置かれ、その下には一列に並ぶ六脚の椅子が、左右三つずつ赤い絨毯に沿って設置されている。その椅子には、六十代後半と思しき年老いた者たちが腰掛けていた。ただし一人だけ、男性ではなく、灰色の髪と鋭い眼差しを持つ老女が座っていた。

ステリスの傍らにある席は空いていた。

「これは本当に賢明な判断なのか?」

最もステリスの席に近い位置に座るオムが、静かに口を開いた。「確かに、今回の競売で我々の家はある程度の利益を得た。しかし、焼け石に水に過ぎん。その程度で立ち直れると思うのは、あまりにも甘い。そんな状況で、錬金術師協会との連携を考えるとは……かつては名高い組織だったかもしれんが、今や見る影もない。あの協会と手を組めば、泥沼に引きずり込まれるだけではないかと、私は危惧しておる。」

その発言に対し、ダグとイグマールという二人の老人が小さく頷いた。他の三人――ガース、ハーゲン、シンドリ――は黙していた。だが、沈黙しているからといって、彼らがステリスの味方であるとは限らない。ただ、彼の話を聞こうとする分、賢明だっただけだ。

「オムの懸念はもっともだ。錬金術師協会の全盛期は過ぎ、今や力を失いつつあることは私も否定しない。」

ステリスは静かに認めた。

「ならば――」

(続きますか?)

「だが――」

ステリスは手を挙げてオムの言葉を遮った。

「――諸君も新たに錬金術師協会が開発した錠剤については、既にご存知のはずだ。我々は競売にかける前に、その効果をこの目で確認した。それほどまでに効果のある治療薬が市場に出回れば、霊薬や霊術の在り方そのものが変わるだろう。そして、その錠剤を製造したのが他でもない錬金術師協会なのだ。今のうちに手を組み、誰よりも早く販売に踏み切れば、我らの利益は確実に彼らと共に伸びるはずだ。」

「……それは、まあ、理には適っているかもしれん。」

オムはしぶしぶ認めたが、その表情は頑ななままだった。

「だが、お前が思っているほど簡単にはいかんぞ。新しい製品――特にそれが錬金術の錠剤となれば――市場に出すのは非常に困難だ。」

「すぐに結果が出るとは思っていない。だが、一度その効果が広まれば、人々は自然と集まってくるだろう。」

ステリスは確信を込めて言い放った。

「……確かに、言っていることは一理あるな。」

沈黙を貫いていたガースがようやく同意の意を示した。

ハーゲンも頷く。「今は大きな賭けに見えるかもしれん。だが、大きな賭けほど、成功したときの見返りもまた大きい。」

「新たな製品を市場に投入するという発想自体、私としても非常に興味深い。」

シンドリもようやく賛同の姿勢を見せた。彼女の年老いた顔に小さな微笑が浮かぶ。

「私もこの事業に協力したい。」

ステリスは表情に出さなかったが、胸をなでおろしていた。

彼一人の判断で物事を進めることは可能だが、年寄りたちが反発して騒ぎ立てるのは避けたかった。最初から賛同を得られるに越したことはない。

会議を締めようとした矢先、オムが再び口を開いた。

「仮にこれが成功したとしても、実際に我々の財が増えるには相応の時間がかかる。だが、今この瞬間にも我々には資金が必要だ。迅速にヴァリス(通貨)を得る方法が一つだけある。」

「言いたいことは分かっている。そして、それは断じて許さない。」

ステリスはオムを鋭く睨みつけた。

「私は娘をロイヒト家などに売るつもりはない。確かに、あの家はネヴァリアにおいて有数の権力と財を持つ名門かもしれん。だが、私は彼らについてあまりに多くの悪い噂を耳にしている。信頼できぬ一族に、私のたった一人の娘を預けるわけにはいかん。」

フェイは、彼にとってこの世で最も大切な存在だった。妻との唯一の絆。

良き父親であれたかどうかは分からない。だが、愛しているという気持ちだけは揺るがなかった。

それに、娘が想いを寄せているのはエリック・ヴァイガーという若者だった。錬金術師協会との提携を最初に提案したのも彼だった。

ステリスは彼に大きな才覚を見出していた。あの少年はいずれ大成する。

娘を嫁がせるならば、あの少年しかいないと、彼はすでに決めていた。

オムは一瞬、何か言いかけた。

ロイヒト家から縁談が舞い込んできたとき、最も積極的に賛成したのはこの男だった。

かつては賛同していた長老たちも、今や別の道が見え始めたことで、その意志を翻すかもしれない。オムもそれを察したのだろう。

彼は静かに周囲を見回した。いつも味方についていた二人の仲間でさえ、今は目を逸らしている。

オムは口を閉ざし――そして、ついに降参した。

「……そういうお考えであれば、私にできることはございません。」

そう言って、わずかに頭を下げた。

「どうか、この決断が後悔を生まぬものでありますように。」

ステリスは、その言葉に潜んだ脅しのような響きに眉をひそめた。だが、口に出して咎めることはしなかった。

この老人は昔から頑固で口うるさかったが、氏族のことを第一に考えているのは確かだった。

「――それでは、これにて会議を閉じるとしよう。錬金術師協会には、我らの決定を伝える者を遣わす。」

長老たちは皆、無言で頷いた。

彼らが席を立つ様子を、ステリスは静かに見届けた。

そして視線は、右手にある空席へと向けられた。

その椅子を見つめながら、ステリスはひとつ、深く息を吐いた。

そこに誰かが座る日が来ることを、ただ静かに願うように。

しばらく更新が滞ってしまい、申し訳ありませんでした。

イベント(コンベンション)への参加は思っていた以上に時間と体力を使うもので、なかなか翻訳作業に手が回りませんでした。


それでも、こうして読みに来てくださった皆さま、本当にありがとうございます。

お元気でいらっしゃることを願っております。そして、今回の章を少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。


次回もどうぞよろしくお願いいたします!

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