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悲しみに暮れる娘

ステリスは、娘の部屋の扉をじっと見つめていた。どう声をかけるべきかを考えながら、彼の顔には深い皺が刻まれていた。ノックは試したが、返事はなかった。もう何度も名前を呼びかけたが、やはり応答はない。

扉を壊すしかないのか?

「フェイ?」

彼は声をかけた。「そこにいるのか?」

……返事はなかった。当然だった。すでに何度も無視されているのだから。

ステリスは低く唸った。「フェイ、この扉を開けないと、祖先の墓に誓ってでも壊すぞ。」

最初は何の反応もなかったが、今にも扉を蹴破ろうとしたその時、向こうから絨毯の上を歩く足音が聞こえてきた。カチャッという音がして、扉が開かれ、娘の姿が現れた。

フェイの様子は見るからに悪かった。目の周りは赤く、鼻は擦りすぎて少し赤くなっており、赤毛はボサボサで、昨夜着たナイトガウンのまま。昨日帰宅してからずっと部屋に引きこもっていたのだ。夕食も、朝食も、昼食すらも取っていない。

「一日中ベッドにいたのか?」ステリスは訊いた。

「たぶんね。」フェイは肩をすくめた。「それが何か?」

ステリスは目を転がした。「そういう態度はやめろ。確かに、余計なことを言って悪かったとは思っている。だがな、エリックに一度振られただけでこんなに落ち込むな。そんなことで塞ぎ込んでいたら、彼の心を掴むなんて到底無理だぞ。」

「彼の心を掴む?」フェイが訊いた。「聞いてなかったの?彼、他に好きな人がいるって言ってたのよ。その子はきっとすごい子なんだわ。でなきゃ、あのエリックが惚れるはずがない。彼の真面目さ、知ってるでしょ。あの子に比べたら、私なんか…。」

「誰もその子と入れ替われって言ってないだろ?」ステリスは肩をすくめながら言った。「それに、こんな形で諦めていいのか?本当に彼のことがどうでもいいなら、それで構わない。だが、少しでも想っているのなら、部屋に閉じこもって泣いてる場合か?」

フェイの口元が歪んだ。ステリスの胸が少しだけ痛んだ。彼女のその表情は、亡き妻ステラによく似ていた。娘の恋愛の悩みに向き合うなんて、本来ならステラの役目だったはずだ。

「まあ…とにかくだ。」ステリスは頭を掻きながら、気まずそうに話を続けた。「それだけ言いに来た。もうすぐ夕食の時間だ。ちゃんと顔を洗って、降りてこいよ。Aランクの霊術や錬金術の薬がオークションで売れたお祝いだ。家族みんなで祝うからな。」

もっと何か気の利いたことが言えればよかった。娘の心を救えるような、親らしい言葉をかけられれば。それができない自分が歯がゆかった。だが、ステリスは最初から子育てが得意な親ではなかった。ビジネスの場では頼りにされても、それ以外ではただの不器用な男に過ぎない。

「…少ししたら、降りていくよ。」

フェイの小さな声が返ってきた。

それ以上何を言えばいいのかわからず、ステリスは黙って頷き、階段へと向かった。途中、一度だけ振り返る。フェイはまだ自室の入り口に立っていた。その沈んだ表情が胸を締めつける。最近あの顔を見る機会が増えたが、今ほど心に刺さったことはなかった。

彼は再び前を向いて階段を下りていった。

――ステラ、俺…ちゃんとしたアドバイスができたかな?


今回は短い章になってしまい、申し訳ありません。この章はステリス・ヴァルスティンの視点で書かれていたため、どうしても短くなってしまいました。

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