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過去にラミアと出会った時のこと

赤蠍の連中を倒してからというもの、ザインのキャラバンにいた連中の俺たちに対する態度が一変した。以前よりもずっと親しげで、敬意を払うようになった。戦えるってことがバレたからか。いや、霊術師だとバレたからかもしれない。この砂漠は過酷で容赦のない場所だ。力がなければ、すぐに死ぬ。

ザインは俺たちを護衛として雇うことに決めた。俺たちも今のところはそれを受け入れた。長くとどまるつもりはない。この砂漠に永住する気なんてないが、現状では単独で生き抜く術も、ここを出る手段もなかった。この砂漠は果てしなく広い。数百キロ旅しても、終わりに辿り着けないこともある。実際、ザインは俺たちがこんな奥地まで生きて辿り着いたことに驚いていた。

容赦ない太陽が大地を焼き尽くすように降り注いでいたが、俺とカリはその対策を既に講じていた。霊力だ。霊力を体内に巡らせ、皮膚の表面に薄い膜のように展開することで、直射日光から身を守っていた。同時に霊力を鍛える訓練にもなっていて、一石二鳥だ。

ただ、カリの霊力の使い方は俺とは少し違った。

「腕を振る動作を通じて霊力を流してるの」

彼女はそう打ち明けてくれた。「これは、母上が私に教えてくれた“妊娠防護術”に似てる。性交の動きに合わせて霊壁を子宮に展開する術で、貴族の女性だけに伝わるものよ」

「そんな霊術があるとは知らなかったな」

「貴族の間で、母から娘へと密かに受け継がれていく術だから、あなたが知らないのも当然よ」

彼女の言葉を噛みしめながら頷いた。実用的な術だし、今まで彼女が妊娠しなかった理由も納得できた。

「前方にオアシスがあるぞ」

ザインがキャラバンの横でそう告げた。足元の砂がざらざらと崩れながらも、俺たちは底に溝の入ったブーツを履いていたおかげで、ある程度踏ん張りが効いた。「ストラットたちを休ませて水を飲ませる。俺たちも水の補給をしていく」

俺は軽く頷いた。

ストラットというのは、このキャラバンを引く鳥のような魔獣のことだ。凶暴性のないDランク魔獣で、砂漠に生息しているらしい。詳しいことは知らないが、ザインによればストラットを育てて生計を立てている連中もいるそうだ。キャラバンが使っているストラットも数年前にそういう調教師から買ったものらしい。

「でも、気をつけないといけないわよね?」

カリが問いかけた。

砂漠に入ってしばらくして、俺たちは鎧を脱ぎ捨てていた。金属製の防具なんて、この灼熱の地では命取りだ。実際、同行していた霊術師の一人は鎧の中で焼かれて死んだらしい。

カリはまだ古い服を着ていた。何箇所か破けていたが、なんとか使える状態だった。俺の服も似たようなものだ。アラブに着いたら、新しい服を調達しなければな。砂漠のファッションって、どんな感じなんだろうか…。

「そうだな」ザインは険しい表情で頷いた。「あまり多くはないが、このオアシスにはラミアが現れる可能性がある。やつらは非常に凶暴で、強力な霊術を操る。君たちといえど、油断は禁物だ」

俺たちはその言葉に同意し、慎重に進んだ。やがて、オアシスが視界に入ってきた。最初は陽炎のせいでぼやけていたが、徐々に像を結び、その名の通りの姿が見えてきた――

水たまりは思っていたよりも大きかった。幅が約十メートル、奥行きが二十メートルほど。水の周りには草地や低木、そして羽状の緑の葉を持つ木々が広がっていた。ネヴァリアでは見かけない植物だった。

「皆、水桶を持って補給するぞ。ストラットたちも休ませろ」ザネが命じると、人々は素早く動き出した。荷車に積まれていた水桶を運び、水辺に運び込む。そして栓を外して水に沈め、満たしたあとで再び栓をして戻していく。全部で十六個の水桶があり、それぞれ十八リットルの水が入る。すべてを満たすには、数時間はかかるだろう。

カリと俺は、護衛として周囲の警戒にあたっていた。水を直接飲んで喉を潤してからは、敵の気配がないか辺りを巡回した。だが、この場には俺たち以外に誰もいないようだった──

「痛っ!」

突然の鋭い痛みに脚が跳ねた。見下ろすと足首に二つの噛み跡があり、そこから血が滲んでいる。少し離れた場所で「シュウウッ」という音が聞こえ、音の方へ目を向けると、茂みに滑り込む尻尾の先が見えた。

「大丈夫?」カリが駆け寄ってくる。「どうしたの?」

「何かに噛まれた。蛇かもしれない」と俺は呟いた。

「毒の検査が必要ね。終わりなき砂漠の蛇は、全部毒を持ってるって聞いたことがある」

この地には毒を持つ生物が多い。彼女の言葉はもっともだった。俺たちはすぐにキャラバンへ戻ろうとした。そこには多くの毒に対応できる解毒薬がある。

だがそのとき、突然、鋭い叫び声が耳をつんざいた。

顔を上げると、砂丘の上に複数の人影が現れていた。上半身は人間、だが腰から下は蛇のような姿。肌は茶色がかり、髪は黒く、衣服は一切身に着けていなかった。裸体の肉体には引き締まった筋肉や、柔らかい曲線が浮かぶ。その手には槍やコペシュ──全長六十センチほどで先端が鉤状になった剣──が握られていた。

「ラミアだ! 奴らが攻めてきたぞ!」誰かが叫んだ。

その通り、ラミアたちはキャラバンを目指して突撃してきた。だが、俺たちが立ちはだかった。瞬く間にラミアたちの前に出て、迎え撃つ。

カリが最も近くにいたラミアに跳びかかり、ランスを突き出す。相手は体を不自然にしならせて攻撃をかわした。だが、カリは即座に反転し、突きの動きを斬りに変える。ランスとコペシュが激しくぶつかり合い、火花が散った。

「へへっ」ラミアの男が舌を出しながらにやりと笑う。「随分と可愛いな。こんな白い肌の女は見たことない。連れて帰って、ペットにしてやろうか」

「悪いけど……私の好みじゃないの」冷ややかな声でカリはそう言い放つ。

ラミアが反論する前に、カリは地面を踏みしめて二歩踏み込み、霊力を練った。ランスの先端に小さな光が灯る。カリが踊るように槍を振ると、その光は六つの球体へと変わり、宙に浮かんだ。さらに一閃、槍を振ると、六つの光球が矢のように放たれ、ラミアの体を貫いた。

胸、腕、肩、頭──六つの穴が空き、男はよろめいた後、崩れ落ちた。

仲間を殺されたことで、他のラミアたちは怒りを露わにした。数名の女ラミアがカリに向かってきたが、俺がその前に立ち塞がる。武器はなかったが、霊力を体に巡らせ、拳を振るった。

放たれた雷光が女ラミアの体を直撃し、絶叫が上がる。青白い稲妻がその全身を駆け巡り、内側から焼き尽くした――

気絶していた彼女が動けなくなった今、俺は新たな雷の槍を生み出し、それを投げる準備をした。だが、その前に別のラミアが俺の前に立ちはだかった。彼女は槍を突き出してきたため、俺は身をかわすしかなかった。とはいえ、俺の手にあった槍はすでに完成していた。俺はそれをすぐさま投擲した。

このラミアは頭が回るようだった。攻撃を受けるのではなく、素早く回避してみせた。しかし、彼女が避けるために使った数秒――そのわずかな時間こそが俺にとっての好機だった。

俺は静かに足元に力を込めた。霊力を両足に流し込む。次の瞬間、地面を蹴って前方へと飛び出した。速度を制御しながら、標的に向かうつもりだったが――

目標地点を超えてしまった。

だが、その代わりに別のラミアが視界に入った。俺は反射的に槍を突き出す。雷の槍がその胸を貫き、悲鳴と共に電撃が全身に走る。煙と血が耳から噴き出し、体内が焼き尽くされていくのが見えた。霊力を使い果たし、槍が霧散する頃には、彼の胸には大きな穴が空いていた。

ドスン、と砂地に倒れ込む音。

残るは四体。男が二体、女が二体。彼らの顔には明確な動揺が浮かんでいた。俺たちが仲間をあっさり倒したことで、完全に気圧されている。

「手加減するな!」と、筋骨隆々とした若いラミアの男が叫んだ。「奴らは霊術師だ!」

その一言が合図となったかのように、ラミアたちは一斉に口を開け、緑がかった液体を吐き出した。液体は砂に触れるとジュッと音を立てて蒸発した。

あれを食らえばただでは済まない。肉どころか骨まで溶かされるだろう。

彼らはペアを組んで襲ってきた。キャラバンの仲間たちは急いで退避準備をしていたが、俺とカリはそれを援護しながら立ち向かった。

俺は剣や槍をかわしながら舞うように動いた。しかし、物理的な攻撃だけが脅威ではなかった。

「うわっ!」

叫び声と共に、目の前に現れたのは緑色の霊蛇――エーテル状の蛇だった。その口を開き、こちらに噛みつこうとしてくる。俺はそれを横に回避し、拳を叩きつけた。拳には雷霆が宿っていた。

一撃で蛇は霧散する――が、それで終わりではなかった。

次から次へと、周囲の砂から霊蛇が現れる。気づかぬうちに展開されていたのだろう。俺はそれらを拳一つで迎え撃った。雷を纏った拳が、蛇を次々と破壊していく。

カリに目をやると、彼女も善戦していた――いや、それ以上だ。彼女はランスを自在に操り、舞うように戦っていた。残像が周囲に現れ、その動きは目で追えないほど。霊蛇も敵の攻撃も、その猛攻の前には塵と化していた。

俺も攻勢に出ようと、再び地面に足をつけて霊力を注ぎ込もうとした――だが、体が鈍い。

「……っ!」

全身が重く、霊力も反応しない。一歩を踏み出そうとしたが、視界がぐらつく。ラミアの女の一人が、勝ち誇ったように微笑んだのが見えた。

「どうやら毒が回ってきたみたいね。二体やられたとはいえ、手ぶらで帰るわけにはいかない。男を連れていくわよ。」

ラミアの女たちが目の前に現れ、強靭な尾を振り下ろしてきた。俺は避けられず、胸に直撃を受けた。激痛が走り、誰かの悲鳴が耳に届いた気がした。

そのまま砂の上に倒れこみ――すべてが、暗転した。


この話の最後にちょっと言っておきたいんだけど……俺、ラミアってめっちゃ好きなんだよね。前に言ったことあったっけ?まあ、言ってなかったら今回が初めてってことで!

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