霊気の形成を学ぶ
錬金術師協会の素材倉庫を自由に使えるようになったおかげで、俺の修行は順調に進んでいた。毎日、少しずつ強くなっていると実感できる。身体は徐々に頑丈になり、霊脈は日々太く、力強くなっていた。
今では、低ランクの霊術ならほとんど使えるようになっていた。時間を見つけては一人で訓練し、それらを試していた。使える技のほとんどは『白雷』や『麻痺針』といった単純なものだ。もっとも、俺がそう呼んでいるだけで、実際は純粋な属性操作に過ぎない。第三段階に到達しないと使えないような霊術を、俺はすでに操っていたのだ。
さらに、フラッシュステップの第一段階も習得済みだ。とはいえ、これらの技はせいぜいBランク相当。フラッシュステップだけは応用範囲の広さと複雑さからAランクに分類されるだろう。Aランク以上の技に必要な制御力は、まだ俺にはなかった。
フェイの方も好調だった。俺に追いついてくるどころか、着けている加重ベストの重さは彼女の体重の三倍にもなっていた。ちなみに、俺が背負っている重さは合計で約1560キロ、フェイは約460キロだった。訓練を始めた時期を考えれば、彼女の成長は驚異的だ。
今日の訓練が終わったあと、俺たちは霊力の制御と霊脈の拡張を目的に瞑想に入っていた。地面に胡坐をかいて座り、フェイは膝の上に手のひらを上にして置いている。彼女の手のひらの上には、二枚の葉が浮かんでいた。俺も同じことをしていたが、さらに十本の小枝を指先に霊力で張り付けていた。それぞれの小枝はバランスを取りながら揺れているが、完全に落ちることはない。
ふとフェイを見ると、彼女の身体から赤い霊力の小さな筋が立ち昇っていた。その鮮やかな赤は彼女の髪色と同じで、強い火属性を感じさせるものだった。
「もうすぐ霊気を形成できそうだな」
「えっ?」
「霊気さ。君はもうすぐ、それを形成できるレベルに達する」
フェイは自分の体を見下ろし、赤い霊力の糸が舞っているのを目にして驚きの声を上げた。手を伸ばしてそれを掴もうとしたが、触れた瞬間に霊力は砕けて霧散した。そして、それに驚いたように残りの霊力も空中に溶けて消えた。
「まだ完全には制御できていないな」俺は言った。「けど、あと十日か十五日も訓練すれば、霊気を意識的に展開できるようになる。そうなったら、一人前の霊術士と言ってもいい」
「そんなに早く霊気を展開できるようになるなんて……本当にそう思いますか?」
フェイは眉をひそめて俺を見つめていた。「疑っているわけじゃないけど、霊気を展開できるようになるには、精鋭の霊術士ですら苦労すると聞いてます。ネヴァリアの霊術部隊や王国親衛隊の隊員ならともかく、私のような学院生がそんなこと……」
俺は呆れそうになるのを堪えた。この国の連中は、どれだけ弱体化されているのか。もし錬金術や霊術に関する知識が意図的に消されていたとしたら――そんな馬鹿な話はあり得ないと思いつつも、この状況を見ると否定しきれない。
「君の体から無意識に霊力が漏れ出している。それ自体が霊気形成が近い証拠だ」
俺は微笑んで続けた。「霊気が形成できたら、次の訓練に入るぞ」
「……次?」
フェイは目を見開いた。「次って、何をするんですか?」
「霊術の習得に決まってるだろ」
「あっ……」
フェイの口が驚きの形に開かれたが、その顔にはすぐに強い決意が宿った。
この娘、やっぱり伸びる。
「ただし、焦るなよ」俺はフェイの瞳に炎が灯ったのを見て釘を刺した。「霊気を形成するときに最も重要なのは、自然に任せて展開させることだ」
俺の言葉にフェイは数度深呼吸をして、静かに頷いた。その落ち着きように感心する。普通の人間なら、喜びで舞い上がってもおかしくない。
「わかりました。これまで通りの訓練を続けます」
「それでいい」
安堵の息を吐く。力を欲するあまり焦って修行に身を投じた者の多くが、最後には行き詰まってしまうのだ。
「でも、あなたが作った錠剤は、急速な成長を助けるものではないんですか?」
フェイが小首をかしげた。
「違うな。俺の作った錬金錠剤は、あくまで自然な成長を促すだけのものだ」
俺は首を振りながら答えた。「確かに成長速度は上がるが、あくまで基礎をしっかり築いた上での加速だ。家を建てるときと同じで、基礎がしっかりしていれば、多少の嵐ではびくともしない。だが、いくら壁が丈夫でも、基礎が脆ければ崩れる」
フェイは真剣な表情で俺の話に耳を傾けていた。エメラルドのような瞳が俺を捉えて離さない。その視線に、思わず心臓が高鳴る。だが、俺はそれを無視した。
「とてもわかりやすいです」
何度も頷きながら、フェイは微笑んだ。
「教え方、上手ですね」
「いや、それほどでもない」
自嘲気味に笑いながら、俺は言った。「偉大な人から聞いた話をそのまま伝えてるだけだよ」
もちろん、過去の旅の中でカリと共に築き上げた知識を話しているとは言えなかった。
「さて、今日はもう終わりにしよう。だいぶ時間も遅くなってきた」
「そうですね」
俺たちは訓練を終えて立ち上がった。俺は筋を伸ばすように軽く体を動かした。二時間も背筋を伸ばして座り続けるのは、案外こたえる。
「お父様とは連絡取れましたか?」
「はい。明日、あなたと会いたいとおっしゃっています」
「明日か……」
図書館の仕事は入っていない。フェインレアに六種目の錠剤の精製方法を教える予定だったが、それは後回しにできる。
「なら、明日会える」
「よかった」
フェイは胸に手を当て、ほっとしたように微笑んだ。その笑顔に、何か肩の荷が下りたような安心感があった。
「では、明日の朝、あなたの家まで迎えに行きますね」
「わかった」
こうして訓練を終えた俺たちは、ネヴァリアの街へと戻っていった。
エリックは明日、フェイのお父様とついに会うことになります。…でも本当に心の準備はできているのでしょうか!?