間接キス
朝早く、今日は図書館の仕事が休みなので、一日を丸々修行に費やすことにした。
「ほら!遅れるな!」
俺は後ろにいる人物に叫びながら、障害物を飛び越え、木々の間を縫い、岩の上を飛び渡りながら走り続けた。
「はぁ……はぁ……続けて!こんな障害物コースくらいじゃ、まだ疲れたりしない!」
俺の修行の相手が息を切らしながら返事をする。
「いい調子だ!なら話は後だ、走ることに集中しろ!」
「うぐ……」
障害物コースをこれまでの三十分から一時間に延長した。着用している重りも増やしていて、その重量は今や約三百四十八キロに達している。これはかなりの負荷だが、俺はもう慣れていた。毎晩服用している錬体丹の効果もあって、この十キロの障害物コースをこなすことも、決して楽ではないが、十分耐えられる。
コースを走り終えると、俺は何度か深呼吸をして、来た道を振り返った。数分待つと、ようやく岩陰から目的の人物が現れた。
赤い髪が革紐で束ねられ、炎のように揺れている。その髪が青白い顔を縁取り、細い緑色の瞳、小さな鼻、柔らかな赤い唇を際立たせている。青いショートパンツを穿いており、それは太ももと尻の境目から数センチ下で止まっていた。長く、筋肉質で白い脚が汗で輝いている。濃い茶色のブーツを履き、上半身は厚手の布地が胸元と背中でクロス状に巻き付けられているだけで、腹部や肩、脇がむき出しになっていた。
この運動に適した服装を選んだのだろう。彼女の腹や胸は汗で光っていて、日光を直接浴びてはいるものの、少なくとも俺のように汗でびしょ濡れの服を気にする必要はなさそうだった。
「気分はどうだ?」俺はファイがようやく広場にたどり着いたのを見て尋ねた。
「気分は……どう、かですか?」彼女は顔を赤らめ、汗が頬を伝い、顎から滴り落ちている。肩で息をし、胸が彼女の……あれは何と言ったらいいんだろう?シャツとは言えないな……とにかく、魅力的な姿だ。「大丈夫です。お気遣い、感謝します」
まだ皮肉なのかどうか判断できなかった。ファイが俺と修行を始めたのは、まだ十日前のことだ。
俺は冷たい水の入った革袋を掴み、一口飲んでからファイに手渡した。彼女は革袋を手にして、どうしたらいいかわからないように困惑している。
「飲まないのか?失った水分を補給しないと」
「えっと……でもこれって……その……」ファイは広場をきょろきょろと見回した。ここは俺たちが出会った場所だ。彼女の頬が鮮やかな桃色に染まっている。「これって……あの……」
「なんだ?よく分からないな」俺は呆れたくなるのをこらえた。「水に何か問題でもあるのか?」
ファイははっとしたようだが、俺がじっと見つめているうちに、彼女の飲まない理由は消え去ったようだった。
「いいえ……何も問題ありません」彼女は小さく呟くと、革袋を受け取り口に運んだ。それを見て、俺は安堵のため息をついた。脱水症状で倒れられては困るからな。
「水分補給が済んだら、残りの修行を一緒に終わらせるぞ」
「は、はい」ファイは革袋を胸に抱いたまま頷いた。彼女の妙な様子に眉をひそめたが、すぐに気を取り直して残りの運動を始めた。
ここ数日、特に二日間、ファイは時折こんな不自然な態度を見せるようになった。頬を赤く染めたり、口ごもったり、妙なことを尋ねてきたりする。まるで何かを恥ずかしがっているかのようだ。正直、よくわからない。彼女の霊毒を治したとき以上に恥ずかしいことなどあるだろうか。あんなことがあったのに、俺の水を飲んだり、俺が上半身裸でいる姿を見ることが、今さらそれほどの問題とは思えない。
やがて彼女も俺に合流し、残りの修行を終えた。ただ彼女の方が遅く始めたにもかかわらず、先に終わった。まだ修行を始めて十日しか経っていないので、俺ほど回数をこなす必要もなく、ましてや三百四十八キロもの重りを背負っているわけでもない。
「三道拡霊丹を一つ飲んで、霊力の循環を始めろ」俺は千回のスクワットを始めながら指示した。「終わり次第、俺も合流する」
「はい」
汗だくで疲労困憊し、修行による筋肉痛で体が悲鳴を上げているはずなのに、ファイは俺の指示通りに動き、一度も不満を口にしなかった。実際、修行を一緒に始めて以来、彼女の口から愚痴を聞いた覚えがない。その姿はどこか昔の俺を思わせた。かつてカリが俺に修行をつけ始めたばかりの頃、俺もどれほど辛く厳しい鍛錬であろうと、一言の弱音すら吐かなかった。強くなるためなら、どんなことでも受け入れた。
俺の中で、ファイへの敬意がさらに深まった。
スクワットを終えた後、俺はファイの横に座った。俺が近くに座ると、ファイは僅かに顔を赤くしたが、それは俺が上着を脱いでいるせいだろう。霊力を鍛える時はいつも上半身裸で行うため、俺の胸や腹はむき出しになっている。もっとも、彼女の胸に巻かれた布だって、ほとんど隠せているとは言い難かったが。
しばらく俺たちは足を組み、沈黙して集中した。二人とも同じ修行をしているが、その目的はまったく異なる。
俺は莫大な量の霊力を精密に制御することに集中している。対してファイは、自身の霊力を強化する修行だ。彼女が服用している『三道拡霊丹』は、体内の霊力経路を拡張し、霊力の流れを促進するだけでなく、霊力自体を高める効果がある。
もちろん、俺はただ同じ修行をするだけでは満足しない。あぐらをかいて脚の上に手を置き、掌を上に向けている。その掌の二センチ上空には、一枚ずつ葉が浮いていた。ただ浮いているように見えるが、実際には掌から霊力を細かく循環させて、その葉を支えているのだ。力を込めすぎれば葉は吹き飛び、弱ければ浮かびもしない。完全な霊力制御を求められる修行だ。
「ファイ」と俺はふいに口を開いた。
「は、はい?」ファイは驚いた様子で目を開け、俺を見た。
「以前言った修行用の服だが、仕立屋には頼んだのか?」
「頼みました」ファイは何度も頷く。「あの日、エリックさんに言われてすぐ仕立屋を訪ねました。仕上がりまで十五日かかると言われましたけど」
「つまり、あと五日か」俺はその情報を噛み締めながら頷いた。「ちょうどいい頃合いだな。その頃には、お前も重り付きの服を使えるようになっているだろう。タイミングとしては完璧だ」俺はもう一度頷いてから、彼女に尋ねた。「修行を始めてから、体調はどうだ?何か問題はないか?」
ファイは目を丸くしたが、すぐに表情が柔らかくなり、穏やかな笑顔を浮かべた。「問題はありません。それどころか、とても調子がいいです」彼女は一度言葉を切り、顔をしかめた。「まあ、修行が終わった直後は辛いですけど、翌日にはいつも身体が軽くて素晴らしい気分です。きっと、エリックさんが作ってくれたあの丹薬のおかげですね」
「錬体丹のことだな」と俺は頷いた。「あれは中級の丹薬だが、肉体を癒やし強化する効果はかなりのものだ。ただし、その効力も永遠ではない。肉体が一定のレベルに達すると薬の効き目は薄れていく。だいたい五、六ヶ月ほどで効果がなくなるだろう。だがその頃には、お前の肉体は王国の近衛隊長クラスに匹敵するほどに鍛え上げられているはずだ」
「それは本当にすごいですね!」ファイは驚きの声を上げた。「王国の近衛隊長と言えば、二十年以上の厳しい訓練と実戦経験を積んだ精鋭中の精鋭です。噂によれば、近衛隊長は一人でCランクの魔獣を倒せるほど強いとか……中にはBランクの魔獣を単独で倒せる者もいると聞きます」
「Bランクを一人で倒せるような奴は稀だろう」と俺は言った。「俺が聞いた話では、ヒルダ女帝はBランクを倒せるどころか、Aランクの魔獣すら倒したことがあるらしいが、他に単独でBランクを倒したという話はほとんど聞いたことがない」俺は首を傾げ、思考を巡らせる。それでも、掌の葉を浮かせる集中を切らすことはない。「とはいえ、仮にお前がBランク魔獣と肉体的に互角になったとしても、それだけで勝てる相手ではない。奴らが厄介なのは、その多くが霊力を用いた攻撃をしてくるからだ」
魔獣が使う霊力攻撃とは、霊術師の術式とは異なり、動作なしで即座に放てるため、霊術ではなく霊力攻撃と呼ばれているものだ。霊術師の術式に比べると荒々しく洗練されていないが、その威力は圧倒的だ。俺が見た限り、Bランク以下の術式より弱い霊力攻撃は存在しなかった。
「今のエリックさんの強さを聞いてもいいですか?」ファイが興味津々の口調で尋ねてきた。
俺は首を横に振った。「聞いても構わないが、正直なところ俺自身も今の自分がどれほど強いのかよくわからない。最近、本気で自分を試す機会がなかったからな」
「あっ……」ファイはがっかりした様子を見せた。しかし、その落胆が深まる前に何かに気付き、彼女は俺をぽかんと見つめた。「あの……もう一つ質問してもいいですか?」
「構わない」俺は肩をすくめた。「何だ?」
「なぜエリックさんの肩の上に蛇が浮かんでいるんですか?」
……
俺はゆっくりと首を巡らせると、顔のすぐ横に蛇がいるのを見つけた。それはかなり奇妙な蛇だった。コブラ科に似ているが、その体長は六メートル近くあり、普通の蛇よりもはるかに長い。鮮やかな黒と黄色の鱗が体全体を覆い、日差しを受けて金色に見える瞳が俺をじっと見つめていた。
蛇は二股に分かれた舌をちらつかせ、俺の頬を舐めた。俺はゆっくりとファイの方を向き直った。
「蛇のことは気にするな」俺は平然とした口調で言った。「こいつはただ俺に付きまとっているだけだ」
「そ……そうですか」ファイはゆっくりと頷くと、再び修行に集中し始めた。
その後、俺たちは再び沈黙の中で修行に打ち込んだ……蛇が発するシューシューという音を除けばだが。
俺の眉がぴくりと動いた。
どんな物語にも、一つくらい間接キスの場面が必要ですよね。