過去の新たな生活
ふかふかで心地よいベッドで眠るという贅沢を、私はこれまで知らなかった。体にぴったりと馴染む柔らかな素材のマットレスは、まるで雲の上で眠っているかのような感覚を与えてくれる。
ゆっくりと目を開け、天井を見上げる。白く塗られた天井は木材ではなく、何か別の素材で作られているようだった。このような天井を持つ家は、裕福な貴族のものであることが多い。
少しずつ意識がはっきりしてくると、私は左側にあるガラス窓を見た。そこから朝の光が差し込み、魔獣山脈の向こうに太陽が顔を出していることを教えてくれた。
耳元に柔らかな吐息を感じる。
顔を向けると、香里が私の隣で静かに眠っていた。彼女の長い睫毛が頬に影を落とし、わずかに開いた唇はまるでキスを誘うようだった。いつものように、彼女は腕を私に絡め、肩を枕にしていた。
その寝顔を眺めているうちに、自然と微笑みがこぼれた。
私はそっと彼女の腕を外し、香里を仰向けに寝かせた。昨夜の余韻が彼女の鎖骨にいくつか残っていたが、それもすぐに消えるだろう。
視線を下ろすと、穏やかな呼吸に合わせて彼女の胸が静かに上下していた。柔らかな肌、愛おしい姿。私は微笑みながら、彼女の頬にそっとキスを落とす。
彼女はかすかに身をよじるが、まだ目を覚まさない。
私はそのまま、彼女の体に唇を這わせながら、ゆっくりと愛情を注いでいく。
やがて――
部屋に朝の光が差し込む中、私たちの静かな時間が始まった。
香里の身体には、今や無駄な毛が一本もなかった。彼女自身が処理したらしく、「あると落ち着かない」と言っていたが、私としては特に気にすることではなかった。
だが、何の障害もなく彼女の滑らかな肌を眺められるのは、確かに心が躍る。私はそっと彼女の脚を開き、丁寧にその柔らかな肌へと指を滑らせた。彼女の呼吸がわずかに深くなるのを感じる。
――どこか花のようだ、と表現されることがあるのを思い出す。
昔は理解できなかったが、今ならわかる気がした。
私は香里の香りを胸いっぱいに吸い込みながら、そっと唇を落とす。その後も、彼女の反応を楽しむように、少しずつ丁寧に愛情を注いでいった。
やがて、彼女の手が私の髪に添えられ、自然と距離が近づいていく――。
陽の光がゆっくりと部屋を照らす中、私たちは静かに、深く繋がっていった。
私は顔を上げたが、香里の顔は見えなかった。彼女の豊満な胸が、腕に押しつけられるようにして私の視界を遮っていたからだ。だが、彼女の息遣いの穏やかさから、まだ眠っていることがわかった。
彼女を優しく目覚めさせる方法を思い立った私は、そっと彼女の身体に愛情を注いでいく。やがて、香里の声が空間を震わせ、彼女の身体は甘く震えながら目を覚ます。
その後も私たちは、互いの存在を確かめ合うように、静かに、深く交わっていった。
窓から差し込む陽光が、彼女の汗ばんだ肌をきらめかせていた。
私はそっと彼女の身体を這い上がり、その美しい顔に視線を落とした。
「おはよう」と微笑みながら声をかける。
「おはよう」
香里は少し警戒するように私を見つめた。「さっきのは、この間の仕返し?」
以前、香里に同じように起こされたことがあった。激しい快感で目を覚ますと、彼女が私を咥えていたのだ。あのときは、互いの欲望をぶつけ合うように激しく求め合った。
「文句ある?」私は軽くからかうように尋ねる。
「そんなわけないじゃない」
香里は笑顔を浮かべ、両腕を私の首に絡めた。「あなたがこんなにも気持ちよくしてくれるのに、どうして文句なんて言えるの?」
彼女は私の口元に残る自分の味など気にも留めず、唇を重ねてきた。その舌は私の口内を貪るように深く入り込み、まるで秘宝を探す冒険者のようだった。私はその舌を甘く包み込んで吸い上げ、香里は喉の奥から濡れた声を漏らす。
熱を帯びた彼女の腰が、私の下半身に擦り寄せられる。彼女の湿った熱が、私の感覚を鋭く刺激した。
「入れてほしいの…」
香里は囁くように言いながら、私の中心にそっと手を添えた。
私は彼女の首筋に唇を落とし、囁く。
「どうしてほしい?」
「ゆっくり…愛して」
「女王様のご命令とあらば――」
そのまま、私たちは再び静かに一つとなっていった。
香里が私を導くように腰を動かし、私はゆっくりと彼女と一つになった。体の奥まで届いたとき、私は深く息を吐いた。その温もりと包まれる感覚が、すべての思考を押し流していく。
「ずっと、こうしていられたらいいのに」と私が囁くと、
「私も……」と香里はそっと返してくれた。
ゆっくりと腰を動かし始める。互いの鼓動が重なり合い、部屋の中に静かな熱が満ちていく。急ぐことなく、ただ丁寧に、心を交わすように身体を重ねた。
香里は脚を絡め、私の背に手を回し、離さないように強く抱きしめてくる。彼女の吐息は熱を帯び、時折漏れる声は、まるで耳元で奏でられる愛の旋律のようだった。
そんな中、ふと頭に浮かんだことに私は小さく笑みをこぼした。
「……どうしたの?」と香里が息の合間に問いかける。
「いや、ちょっと思ったことがあってな」と私は首を横に振りながら微笑んだ。
「なに?」
「今、俺たち……丸太を挽いてるみたいだな」
一瞬、彼女はぽかんとしたが、すぐにクスッと笑い、体を揺らしながら小さく呟いた。
「……バカ」
そしてそのまま、世界から切り離されたような、穏やかであたたかな時間が、静かに流れていった。
「意地悪。……愛し合ってる最中に笑わせるなんて、反則よ」
「ごめん。……キスで許してくれる?」
「……かもしれないわね」
私はそっと顔を近づけ、目を閉じて、彼女に優しく口づけた。情熱的なものではなく、ただ互いの温もりを確かめ合うような、穏やかで愛おしいキスだった。指を絡め合い、唇が離れたとき、香里は微笑んでいた。その瞳も、唇と同じように穏やかで優しかった。
私はもう一度彼女に顔を寄せ、今度は頬を寄せ合った。
「……そろそろ出そうだ」私は正直に打ち明ける。
「わ、私も……。いいよ、来て……」
彼女の言葉に応えるように、私は彼女の中で最後の動きを始めた。香里の身体がぴくりと震え、声を上げた瞬間、私は彼女の中に深く沈み込みながら、そのすべてを委ねた。
――その瞬間、ふと、視界の端で微かな光が閃いた。
「……ん……」香里がうっとりとした声を漏らす。私は震える腰を抑えながら、最後まで彼女の中に満たしていった。
「……すごく、気持ちよかった」
「だな。……一日中こうしていられたらいいのに」
「……言わないでよ、現実に戻りたくない……」
そんなことを言いながらも、私たちはそのまま布団の中で、ぴったりと寄り添いながら、もうしばらく現実を忘れていた。
私たちの寝室は広かった。ネヴァリアで借りていた部屋の三倍はあるだろう。家具が少ないせいで、実際よりもさらに広く感じた。大きなベッドが中央にあり、壁際にはタンスとその隣に洋服だんす、そして入り口の近くには長椅子が一つあるだけだった。
この寝室には専用の浴室もあった。
とはいえ、毎日水を汲んで満たすのは正直かなり面倒だった。だから普段は、石鹸とスポンジを使ってお互いに身体を洗い合うだけにしていた。とはいえ、それも悪くない。むしろ香里に体を洗ってあげるのは、密かな楽しみの一つだった。
身を清めた後、香里の胸当てを巻くのを手伝った。今では、新しい住処で見つけた包帯の在庫のおかげで、彼女もちゃんと胸を固定できるようになっていた。その後、私たちは服を着た。
といっても、新調したものではない。だが、私たちにとっては新しい衣装だった。私は、ぴったりと体に合う黒いズボンにウールの靴下、そして腹部が露出する黒い長袖シャツを身につけた。そのシャツは風通しがよくて、ちょっと不思議な感覚だったが――香里が「腹筋が見えるから好き」と言ってくれたので着ることにした。靴下以外はすべて、巨大なシルクワーム系の魔獣から採れた特殊な絹で作られていて、肌触りが良いだけでなく、耐久性も抜群だった。
その上に私は軽装の鎧を着ていた。胸当ては腹を覆っておらず、肩当てもなかったが、前腕には籠手を、足元には靴の上から装着する脛当てを用意していた(今はまだ履いていない)。鎧の色は、淡いブロンズだった。
「準備はいいか?」私は香里に声をかけた。
香里が身につけていた白いシャツには袖がなかった。肩から腕までがすべて露出していて、前と背中にある小さな金属製のリングによって、服がずり落ちるのを防いでいた。そのリングには青い布が通されており、首の後ろで結ばれている。上からは簡素な胸当てを着けており、私のものと同様、胸だけを覆うデザインだった。
彼女の黒いズボンは体にぴったりとフィットし、鍛えられた腰回りや長い脚、魅力的なヒップラインをまったく隠していなかった。まだブーツは履いておらず、それらは屋敷の玄関に置いてある。香里の小さく高く反った足の甲が、絨毯の上でつま先を動かす様子は妙に可愛らしかった。腕当てはなかったが、鋼のこぶし当てと黒い手袋をつけていた。手袋は長く、前腕までをしっかりと覆っていた。
身支度を整えた香里は、自分の姿を一通り確認してから私に頷いた。「準備できたよ」
私たちは部屋を出て、豪華な赤い絨毯が敷かれた長い廊下を歩いた。廊下の突き当たりには階段があり、それを下ると、見事な大理石のタイルと石灰岩の壁に囲まれた広々とした玄関ホールに出た。ホールには木製の扉がいくつも並んでいた。
屋敷の外へと続く両開きの扉の前には、私たちのブーツがきちんと並べられていた。
外に出ると、朝の空気は爽やかで清々しかった。視線を広げると、すでに数人が活動を始めていた。小さな木造の小屋のそばで洗濯物を干す若い夫婦、土の広場で鬼ごっこをしている子供たち、そして訓練場で剣を交える若者たち――その訓練場は、ただの土の広場に過ぎなかったが、皆の努力が感じられた。
私たちが通り過ぎると、皆が笑顔で挨拶をしてくれた。手を振ってくる人にはこちらも笑顔で応えた。子供たちは我先にと駆け寄り、昨日の出来事を興奮気味に話してくれた。香里と私は微笑みながら頷き、しばらく話を聞いたあと、彼らは再び鬼ごっこに戻っていった。
私たちが訓練場へ向かって歩く中、私は周囲の広大な景色に目を向けた。今では香里と私が暮らす大きな屋敷、その周囲に並ぶいくつもの小さな建物、そしてこの共同体全体を囲む巨大な壁。そのすべてを、私は誇らしげに見渡した。
屋敷は二階建てで、五十人以上が寝泊まりできるほどの部屋数を備えている。今ではほとんどの部屋が使用されていた。そして、かつて破壊されていた周囲の壁も、数か月にわたる努力の末、私たちの手で再建されたのだった。
ネヴァリアの街に住むことを選ばなかった貴族たちも少なくなかった。彼らの多くは都市国家内に邸宅を構え、周囲の農地を所有していた。その農地は、貴族に庇護される農民たちによって耕されていた――かつては。
私たちが見つけたこの屋敷も、かつてはそのような貴族の持ち物だったのだろう。場所は魔獣山脈の近くにある孤立した谷にあり、本来なら危険極まりない立地だったが、この谷は外界からほとんど切り離されており、唯一の出入り口となる道が一本あるだけだった。
占拠する前、この場所には魔獣たちがうようよしていた。しかし、長い探索の末に仲間として迎え入れた霊術師たちと共に、私と香里で一体残らず討伐したのだ。今では、ここが私たちの“家”だ。
訓練中の霊術師たちが手を振りながら笑顔で挨拶してくるのを見て、私は自然と心が安らいでいくのを感じた。ここに至るまで、私たちは数えきれないほどの困難を乗り越えてきた。それでも、今こうして振り返ってみれば、私は本当に幸せだと言える。
力強く優しい女性が傍にいて、共に戦う仲間がいて、守るべき“居場所”がある。
それ以上、何を望むというのだろうか。
この章はこれで完結です。思ったより時間がかかってしまいました。なんだか今回は、いつもより少し長めだった気がしますね。
楽しんでいただけたなら嬉しいです!
なお、この章は「小説家になろう」のガイドラインに準拠するため、一部内容を調整しています。R18版(無修正版)をご希望の方は、Pixivにてご覧いただけます。
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