錬薬大量生産
家へ戻ると、迷わず錬金セットを広げた。
手際よく器具を並べ、必要な材料を確認する。
今回作るのは、今後の鍛錬に必要な最後の薬――少なくとも、今の時点で必要な分だ。
材料は四種類。
身体を強化するための《赤炎草》一〇〇〇グラム、筋肉の鍛錬を促進する《精霊液》一五〇〇ミリリットル、損傷した筋肉を癒すための《ニルン草》一株、そして効果を高めるための《Dランク火属性魔核》一つ。
まずは、《赤炎草》を乳鉢で細かくすり潰し、なめらかなペースト状にする。
それを百ミリリットルのビーカーに移し、細かく削った《ニルン草》を加えた。
金属板の上にビーカーを置き、火を灯すと、赤いペーストがじゅうじゅうと音を立てながら蒸気を上げる。
《ニルン草》の細片もすぐに火に包まれ、液状になりながらペーストに混ざり合っていく。
その間に、《Dランク火属性魔核》を取り出し、乳鉢の上に置いた。
すぐに乳棒で叩き割り、細かい破片へと砕いていく。
火花が散り、たまに破片が小さな炎を上げるが、無視してひたすら叩き続ける。
やがて、赤い粉末になるまで磨り潰した。
ビーカーを見ると、《赤炎草》と《ニルン草》は完全に融合していた。
火を消して自然に冷ます。
次に、用意しておいた《精霊液》を錬金用の鍋に注ぎ、そこに粉末状にした《魔核》を加える。
静かにかき混ぜると、《精霊液》が赤々と光り始めた。
うなずき、赤いペーストを加える。
さらにかき混ぜながら、自身の霊力を注ぎ込む。
鍋の中で雷光が走り、液体がまるでマグマのように泡立つ。
部屋中に、火薬にも似た辛い芳香が広がった。
「最後の工程だな」
小さく息を吐き、集中を深めた。
目を開けたまま、俺は鍋の中をじっと見つめていた。
両手を鍋の縁に添え、霊力を注ぎ込む。
ぐつぐつと煮え立つ液体が、俺の意志に反応し、波打ち、分離し、泡立ち――
やがて、いくつもの小さな形へと変化していく。
本来、複数の霊薬を一度に錬成する「大量錬薬」は推奨されない。
薬効が均一にならず、失敗の確率も上がるからだ。
だが、今回も《三重霊脈拡張薬(スリーウェイスピリチュアルワイデニングピル)》のときと同じく、俺には時間がなかった。
しばらくして、薬は完成した。
爪ほどの大きさの小さな霊薬が、いくつも鍋の底に転がっている。
真紅に輝くその粒は、まるで内側に炎を閉じ込めたかのような迫力を放っていた。
実際には表面はひんやりとしているのに、不思議なほど熱気を感じる。
俺は霊薬を袋に移し替えた。
そして鍋、ビーカー、乳鉢と乳棒を丁寧に洗い、錬金セットを元の場所に片付ける。
すべてが終わったあと、俺はベッドの上にあぐらをかき、静かに目を閉じた。
霊力の流れを整えるための瞑想――訓練の前には欠かせない。
あと二日。
あと二日で、ようやく本格的な肉体鍛錬を始めることができる。
今回はとても短い章でしたね。
今日中にもう一話投稿できればと思っています。
実は今、空港にいます。
微熱があって少しつらいですが、これからアメリカに帰国します。
日本で過ごした時間は本当に楽しくて、素晴らしい思い出ばかりでした。
こちらの皆さんはとても丁寧で親切で…また必ず来たいと心から思っています。
読んでくださった皆さん、本当にありがとうございます。
これからもよろしくお願いします!