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自創の技(じそうのぎ)

エリックの言葉に、観客席がしんと静まり返った。

霊技について詳しい者は少ないとはいえ、霊技を学ぶだけでもどれほど困難か――それは誰もが知っていた。

ましてや自らの手で創り出すなど、ごく一部の天才にしか不可能なこと。

それゆえに、遺跡などから発掘された霊技の巻物が何百万ヴァリスもの価値で取引されるのだ。

ヘレンの問いかけに対するエリックの答えは、カリにとっても衝撃だった。

彼の強さにはすでに確信を抱いていた。戦う姿を目にする前から、なぜか不思議と「きっと大丈夫」と思える安心感があった――

それでも、今の言葉は別次元の驚きだった。

こんなにも若くして、霊技を自分で生み出したなんて……彼がどれほど特別な存在なのか、改めて思い知らされた。

「ふふ……なるほどね」

隣で母が小さく呟いた。目を細め、口元に意味深な笑みを浮かべる。

「あなたがこの子を気に入った理由、なんとなく分かってきた気がするわ。才能にあふれているもの」

けれど、カリは首を横に振った。

お母様は、やっぱり分かっていない。

母が考える“魅力”というものは、いつだって地位や力、あるいは美しさに基づいたもの。

でも、カリが惹かれたのは――そんなものじゃなかった。

彼の霊力や技の才能ではない。

彼が優しくて、強い心を持っているところ。

自分を“アストラリア王国の王女”としてではなく、“読書が好きで、冒険に憧れる一人の少女”として大切に扱ってくれる、その姿勢。

――そこに、惹かれたのだ。

本が好きなこと。

知識にあふれた話し方。

同じ情熱を共有できること。

……それが、彼を特別に感じさせてくれた。

もちろん、彼の外見にも惹かれていた。

あの美しい緑の髪、澄んだ瞳、少し中性的で整った顔立ち――

だけど、それを口に出すなんてとてもできなかった。

ただ心の中で認めるだけでも、頬が熱くなるほど恥ずかしかったのだから。

「信じられないな」

突然のゲイロルフの声が、カリの思考を断ち切った。

思わず彼に鋭い視線を向けるが、彼は舌打ちしただけだった。

「俺より年下のくせに、自分であんな高度な技を作っただなんて……絶対に信じないね」

「まあ、信じがたい話ではあるけど、嘘をついているようには見えないな」

ミッケルが落ち着いた口調で言った。

「嘘ではないでしょう」

エアランドが膝の上に手を置き、前のめりになってエリックをじっと見つめる。

その目には、これまでにない敬意の色が宿っていた。

「技の扱い方を見れば分かる。あの技に対する“慣れ”は、創始者でなければ出せないものだ。

まるで、何年もかけて磨き上げたかのような熟練度だった」

その言葉に、場の空気が一変した。

誰もが黙り込み、エアランドの言葉を噛みしめているようだった。

ゲイロルフは再び鼻を鳴らす。

「……ちっ、それでも俺は信じないけどな」

そう小さく呟きながら、視線をそらした。

***

彼女は数秒ほど険しい表情で俺を見つめた後、足を滑らせるように動かして、伝統的な剣術の構えを取った。

「申し訳ありません」

ヘレンは小さくそう呟いた。

「今まで、あなたを本気で相手してはいませんでした。

カリ王女との関係が深いと聞いていたので、彼女がどんな男性に心を奪われたのかを確かめたかったのです。

しかし、今やはっきりと分かりました。

あなたは、私が全力を出すに値する強者――

だから、次の攻撃からは一切手加減しません」

……生徒が「俺に心を奪われた」と彼女の口から聞いた瞬間、胸の奥が温かくなった。

直接ではなく、間接的にでもカリの気持ちを聞けたことが、なんだか嬉しかった。

だが――

その甘い感情を、必死に心の奥へと押し込んだ。

これは戦いだ。

気を抜いている場合じゃない。

「そういうことなら、俺も本気を出すとしようか」

肩に乗せていた《龍尾尺ドラゴンズ・テイル・ルーラー》を両手でしっかりと握り、足を肩幅に開いてやや膝を曲げ、戦闘体勢に入る。

俺たちは互いに正対し、沈黙のまま動かなかった。

すでにある程度は相手の力量を見極めていたが、それでもまだ出し切っていない技や力があることは明白だった。

ヘレンの実力は、まだ半分も見えていない――

だが、それは俺も同じだ。

その瞬間、ヘレンの周囲に流れる水のような霊力のオーラが爆発的に広がった。

だが、すぐにそれは彼女の体内へと吸い込まれ、淡い青色の霊力が彼女の全身を包み込む。

――《霊術第二段階セカンド・ステート》。

その状態になっても、彼女はすぐには攻撃してこなかった。

俺よりも、彼女の方が俺に対して警戒しているようだな。

なら――先手は、俺がもらう。

閃歩フラッシュステップ》を発動。

一瞬で彼女の背後へと回り込み、グッと息を吐きながら龍尾尺を振るう。

霊力を流し込み、刃の連結を解除――鎖のように分離した刃が音を立てて襲いかかる。

今回は受け止めるつもりはなかったのか、ヘレンは跳躍して間合いを取る。

だが、それだけでは不十分だ。

俺の霊力がさらに高まり、龍尾尺から雷撃が爆発的に走る。

バチバチと音を立てながら地を駆けるその雷――

それは雷霆らいていでできた《雷龍ライトニング・ドラゴン》へと変貌し、ヘレンへと襲いかかった。

彼女は舞うように軽やかに動き、何度も剣を振るって水の軌跡を空中に描く。

そして――剣を両手で握り直すと、地面に向かって叩きつけた。

ビリビリと霊力が走る。

すると、無数の水の軌跡が収束し、彼女の周囲に《水のドーム》を形成した。

雷龍がそのドームに衝突した瞬間、激しい閃光が迸る――

だが、突破できなかった。

攻撃は数秒で無効化され、雷の姿も消えていた。

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