ファーストコンタクト・後編
「これが遺跡?」
エリカが小さく眉をひそめながらつぶやいた。「あまり大したことはなさそうね」
「これはただの入口よ」
カリは扉の前まで歩いて観察しながら言った。「本当の遺跡は、この山の中に造られているはず。ほとんどの遺跡って、地下に続いていたり、大きな構造物に組み込まれていたりするから」
「なるほどね」
エリカが頷いた。
「どう思う?」
俺はカリに尋ねた。彼女は扉を見つめながら眉を寄せていた。
「元々、この入口は封印されていたみたい」
彼女は扉の縁に沿って手を滑らせた。中に何かが挟まっているのが見えた。「このカルトの連中は、その封印を解いたってことよ。つまり、彼らの中にはルーンに詳しい者がいるってこと。扉には霊的な残滓が残っているけど…人間のものじゃない。むしろ、これは霊力ですらない。おかしいわね」
「こんな化け物たちが、ルーンの使い方なんて知ってるとは思えない」
俺はつぶやいた。
カリは不安げな笑みを浮かべた。「私もそう思う。だからこそ厄介なのよ」
「失礼します」
もう一人のヴァルキュリアが口を開いた。赤毛で青い目をした、鋭い雰囲気の女性だった。出会ってから一度も笑顔を見せたことがない。「それで…この話は私たちの任務と何の関係があるのですか?村人たちを助けに行くのが先では?」
「カルトの連中にルーンの使い手がいるってのは、重大な問題だ」
俺は彼女に向き直って言った。「遺跡の中には、ルーンで起動・解除される罠が仕掛けられてる場合がある。つまり、これから俺たちがそういう罠に直面する可能性が高い。だから、事前に警戒しておく必要があるんだ」
「この二人をもっと信頼していいと思う」
エリカが仲間に向かって言った。「私が彼らを雇ったのは、彼らの実力を信じているからよ」
「…申し訳ありません」
その女性――ジャネットと呼ばれていた――は眉をひそめながら謝罪した。
「ジャネットを許してあげて」
エリカは申し訳なさそうに笑った。「彼女は村人たちの安否をとても気にしてるの。時間が経てば経つほど、生存の可能性が低くなってしまうから」
「あなたの言う通りね」
カリは入口を名残惜しそうに見つめながら、ため息をついた。「本当はもっと調べたいけど…行きましょう。村人たちの救出が最優先よ」
俺たちは遺跡の中へと足を踏み入れた。十五メートルほど進んだところで、辺りは闇に包まれた。カリは光の球体を生み出し、俺たちの足元を照らす。その光が石造りの床に反射し、足音が静かに廊下に響いた。
カリが床に注意を向ける一方で、俺は天井と壁を監視していた。どこに罠があるかわからない。戦乙女たちは俺たちの後ろを歩いていた。
「この場所、ちょっと不気味だね…」
カレンがぽつりとつぶやいた。
「不気味じゃないわよ」
カリは不満そうに口をとがらせた。「これは素晴らしくて古代的な建築なの。私たちの文明じゃ、こんなふうに何世紀も風化せずに残る建物なんて作れないのよ?」
「ふんっ!」
カレンは鼻を鳴らした。
俺は微笑んだ。「古代遺跡に入るの、もしかして初めてか?」
「うん」
カレンが頷いた。
俺はさらに何か言おうとしたが、その瞬間、カリと俺は同時に何かに気づいて動きを止めた。壁に目を凝らす。
エリカたちも立ち止まり、俺たちの視線を追って壁を見たが、彼女たちの表情には困惑が浮かんでいた。どうやら何も見えていないようだった。
「何かあるの?」
エリカが尋ねた。
「罠だ」
俺が言うと、カリが壁へと歩み寄った。彼女は人差し指を伸ばし、無限大(∞)の形を描くように動かす。その指先が白く輝いた瞬間、壁に隠れていたルーン模様が浮かび上がった。
それは罠のルーン陣だった。俺も数多く見てきたから、すぐにわかった。
カリがルーンに触れた直後、トンネルの奥から「ブシュッ!ブシュッ!ブシュッ!」という音が鳴り響いた。
直後に「ガシャンッ」という破裂音。俺は音の方へ視線を向けると、数本の矢が壁に突き刺さっていたのを見つけた。
その矢は太く、しかも石壁を貫通するほどの威力を持っていた。もし罠に気づかずに進んでいたら、確実に命を落としていただろう。




