エリックの強さ②
「ついに俺たちで、どっちが上か決着をつける時が来たようだな!」
男が叫び、剣を構えながら相手の女を睨みつける。
女はにやりと微笑み、その瞳には烈火のごとき闘志が燃え上がっていた。
すでに彼女の刃は男の剣と交差しており、互いに力を込めて押し合っている。
金属同士が擦れ合うたび、火花が散った。
(――力比べか)
同時に、二人の霊装が天へと伸びるように膨れ上がる。
女の霊装は水のように流麗で、青く輝くオーラが身体を包み込んでいた。
対して男のオーラは緑色で、まるで空気そのものを纏っているかのような、透明感のある光だった。
(風か)
「いいわね!今日こそ、どちらが強いか決めましょう!」
二人は刃を離し、地を蹴って円を描くように動いた。まるで剣舞のように美しく、鋭い動きだ。
そして――
剣を振るった瞬間、それぞれの霊術が放たれる。
女の剣からは奔流のような水の波が生まれ、男の剣からは三日月型の緑の斬撃――風の霊術が放たれた。
二つの技が空中で激突し、衝突点の周囲が歪んで見えるほどの圧力がぶつかり合う。
本来ならば相殺されて終わるところだろう。
だが――
「はあっ!」
男が再度、剣を振るった。
再び風の霊術が放たれ、最初の攻撃に重なるように加勢する。
風の霊術が二重になったことで、水の波は押し返され、ついには打ち破られた。
斬撃はそのまま女へと向かって飛び――地面へ着弾。
爆音と共に、地面に蜘蛛の巣状の亀裂が広がる。
だが、女の姿はすでにその場になかった。
彼女は風の衝撃波を利用し、空中へと跳躍していたのだ。
風に乗り、男の頭上を超えるように跳躍――
宙を回転しながら剣を何度も振る。
「はっ!やぁっ!」
そのたびに、水の弾丸――まるで砲弾のような圧縮水球が男へと飛んでいく。
男は真剣な表情で、身体を捻ってかわし続けた。
そのうちの一発が地面に着弾。
ドンッという重たい爆発音と共に水が四方八方に飛び散った。
水そのものに攻撃力はなさそうだったが――
爆発後の地面には、大きな凹みがいくつもできている。
直撃を受ければ、ただでは済まないだろう。
男も、それを理解しているようだった。
「この日のために、ずいぶん腕を上げたわね!」
男の剣が再び空を斬り、霊術が迸る。
女は笑いながら地面に着地し、その斬撃へ向かって剣を突き出した。
二人のネヴァリア霊装兵による戦いは確かに興味深い。
だが、俺にはそれを見守っている余裕はなかった。
残る二人の霊術士――あの女と男が、すでに霊装を展開して俺に向かって突進してきていたのだ。
女の霊装は濃厚な紅――燃え盛る炎のような色合いだった。
男の霊装は土を思わせる茶緑色。恐らく、主属性は【土】、副属性に【風】といったところか。
「二人がかりで俺を倒すつもりか?」
俺は肩に片手で定規を担ぎながら、挑発気味に問いかけた。
「ふん、悪く思わないでね」
女が冷たく返す。
「ただの仕事だよ。ある人物から“お前に教訓を与えろ”って依頼されたんだ」
男も飄々と告げた。
――誰かに雇われた?
アルバートか? いや、あいつはこういう陰湿な手は使わないはず。
となると……グラントか。
どちらにしても、これは好機だ。
「なるほど。だったら――まとめてかかってこいよ」
俺はルーラーを両手で握り直す。
久々に、体をしっかりと動かす戦いがしたかった。
俺の挑発に、二人は目を細めた。何かを察したのかもしれない。だが、足は止めない。
地を滑るように足を踏み込む。
両手に力を込めると、革製のグリップがギリッと音を立てて軋んだ。
身体中を駆け巡る霊力――まるで雷のように鋭く、力強い。
そのエネルギーが腕を通り、ルーラーに流れ込む。
バチバチと白い雷光が定規の表面に走る。
――カチリ
仕込みが作動し、ルーラーの十一の節がロックを解除。
ガチャン、と音を立てて連結が外れ、鎖のように連なったルーラーの節が蛇のように前方へと伸びる。
巨大な爬虫類の尻尾のように――
俺はその全てを雷の霊力で繋ぎ、自在に操った。




