エリックの強さ
五角形の各頂点に一人ずつ立ち、俺を含めて五人の戦士が闘技場に姿を現した。
そのうち二人は女性、残りの二人は男だった。
見覚えのある顔は、ひとつもなかった。――だが、それは想定の範囲内だった。
「やっぱり、こういう大会でお前と会う気がしてたんだ。覚悟はできてるか?負ける準備ぐらいは」
「負ける?はっ。負けるのはそっちだ。ボコボコにされても恨むなよ?今日は俺が主役だ」
「それが現実になるのは、マーレス(夜の馬)が空を飛ぶ日だな」
そんな軽口を叩き合っていたのは、砂色の髪をした男と、暗い金髪の女だった。
どうやら知り合いらしく、開戦前から張り合っているようだった。
二人ともネヴァリアン霊術兵団の革鎧を着ていた。
ネヴァリアン霊術兵団――つまり、ネヴァリアを守る常設軍に所属する霊術師たちの集団だ。
彼らの装備は軽装でありながら、Cランク魔獣の硬化皮から作られた胸当て、肩当て、籠手、すね当てを装着している。
その下には、灰色や黒の戦闘服を身に着けるのが一般的だった。
ちなみに、彼女の鎧はわずかに青みがかっており、彼の鎧は淡い緑色だった。
この色の違いは、鎧の素材となった魔獣の種別が異なることを意味しているのだろう。
俺は残りの二人に目を向けた――すると、どちらもこちらを凝視していた。
一人は、火のような赤髪の女。
スタイルは抜群で、服というより“飾り”のような装備を身に着けていた。
彼女の大きな胸は、最小限の三角形の金属プレートで辛うじて隠されていたが、上部は完全に露出しており、胸元から谷間まで丸見えだった。
両端から伸びた革のストラップが肩を通り、なんとかプレートを固定している。
しかし、腹部と股間はほぼ無防備。
わずかに金属製のTバックのような防具が、秘所を隠しているのみだ。
その結果、くびれたウエスト、艶やかな腰回り、そして柔らかそうな太腿までがあらわになっていた。
不思議なことに、腕と脚だけは完全に金属製の分割装甲で覆われていた。
彼女が握っていたのは、二本の片手剣だった。
一般的なブロードソードよりも一回り小さく、片手で扱いやすいサイズ感。
柄も短く、両手で構える必要はなさそうだ。
正直、この女の装備は実用性に欠けていた――が、俺は同時に、霊装の存在を思い出した。
霊術師にとって、鎧は必ずしも命を守る手段ではない。
霊装を展開すれば、大抵の物理攻撃は無効化できる。
きっと彼女も、それを前提にこんな格好をしているのだろう。
事実、バトリング・ヴァルキュリーズの中にも、似たような装備の女戦士は存在する。
――まあ、理屈では納得できるが、視線のやり場に困るのもまた事実だ。
そんなことを考えながら、俺は隣にいた男へと視線を移した。
彼女とは対照的に、彼の装備は堅牢だった。
胸当ては身体全体を覆っており、銀色の金属には金色の装飾が刻まれている。
その下には、黒いボディスーツのような服を着ており、鍛え抜かれた筋肉のラインが服越しにも見て取れた。
両手には篭手、脚には腿の中程まで届く分割型のグリーヴ(すね当て)が装備されている。
武器らしい武器は見当たらなかったが――
篭手の拳部分に金色のナックルガードが備わっていたのを見て、俺は察した。
(こいつ、格闘型か)
五人の戦士が準備を整える中、中心に立つレイナーが全員を見渡し、落ち着いたが威厳のある声で言った。
「準備はいいか?」
俺たちは無言で頷いた。
「それでは、合図とともに試合開始だ」
彼はゆっくりと輪の中心から退き、ヴァレンスの反対側へと歩いていく。
そこで静かに右手を掲げ――鋭く振り下ろした。
「――始めッ!」
合図とともに、砂髪の男と金髪の女が即座に動いた。
互いに踏み込み、武器を打ち合わせる。火花が散った。
どちらも剣を扱ってはいたが、武器の種類は異なっていた。
男が使っていたのは標準的なブロードソード。
一方、女の剣は湾曲した片刃で、先端近くにフック状の形状がある――たしか、あれは“ファルシオン”と呼ばれる剣だったはずだ。




